【読書感想:超深掘り】「おいしいごはんが食べられますように」を味わう その2
こんにちは。しゅんたろうです。
このエントリは連載で、以下の本の感想を書いています。
2022年芥川賞受賞作品
「おいしいごはんが食べられますように」
(著:高瀬 隼子)
現代社会に渦巻く心の闇を、すごく上手に切り取った作品です。
読み終わったあと、心にモヤモヤが残るんですが、
それを丁寧に解いて言語化していくと、様々な気付きが得られました。
私がこの本を味わった感想を書き残します。(その2)
※※※ 以下、ネタバレあり。 ※※※
(NGな人は、本を読んでから見てね。)
バリキャリな押尾さんの問題
最初は、バリキャリ女子な押尾さんの考察です。
いま、働く女性、増えてますよね。
(「働きたい」なのか「働かなきゃ」なのかは置いといて。)
職場で働く若手の女性社員が、残業も厭わず働く姿。
応援したくなりますよね。
その心中を描写した、ひとつのカタチが
「押尾さん」というキャラクターです。
押尾は、芦川さん(献身的だけどメンタル弱め)のことは嫌いです。
なぜなら、弱くて周囲から守られながら生きているから。
逆に、二谷に対しては好意を抱いています。
仕事もうまくやってるし、食事に対する価値観も似てるから。
そんな押尾の根底には、
という無意識の価値観が存在しています。
○"弱音を吐かない"は正義か?
一見良さそうなこの価値観。裏を返せば、
ということです。
作中でも最後の方、冤罪でつるし上げられた時に、吐きそうになっても「大丈夫でした!」というシーンで如実に描かれています。
さて、この押尾というキャラクターは、
「読者に一つの問いを投げかけている」と私は感じました。
『"弱音を吐かない"は正義か?』と。
○社会要因から考える
「いや、しんどいときは周囲に助けを求めた方がいい!」と言うのは簡単です。ですが、はたして本当にそうなのでしょうか?
私は、いくつもの要因が絡まっているように感じています。
まず、社会要因。
今の日本社会は、「迷惑かけてもお互い様」なんていう甘っちょろい考えを許してはくれません。
特に、ビジネスの場は競争です。一瞬の隙を見せようものなら、出し抜かれる戦場です。だから企業は、従業員に対して「自分の足で立てる強い個人」を求めています。自分の頭で考えて柔軟に行動し、自分でやったことは自分で責任を取れるような人材です。
この『自立・自責・競争』の世界に、しばらく身を投じていると、いつの間にか「世の中、そんなに甘くない」「他人に迷惑をかけてはいけない」といいう『不寛容』な考え方に染まっていってしまいます。
私は、押尾さんのようなキャラクターが現れた背景には、そういった人材を社会が求めていたからだ。という気がしてなりません。ある意味で押尾さんは、社会側の要請に真面目に応えてきた、犠牲者だとも言えるのです。
○個人要因から考える
押尾さんは作中では、最後の方でかなり不遇な扱いを受けます。
しかし、その出来事をキッカケに、
ある種の"救い"があったのではないかと私は考えています。
それは「どれだけ仕事を頑張って、会社に貢献していても、私を守ってくれる人は誰もいない。」という気付きです。
なぜなら「弱い人は守るべき」という正義が存在するからです。その正義の前では、いくら「会社に貢献した」と言っても、あまりに脆い。
押尾の問題は、"自分の弱さを、周囲に見せられなかったこと"だと思います。他人に心を許すことができない。それが押尾の弱さです。
○周囲に弱さをさらけ出せる芦川
その点で言えば、芦川は強いです。
"自分の弱さを周囲にさらけ出している"のですから。
自己開示には「こんな弱い自分をさらけ出して、相手はそれを認めてくれるだろうか」という一種の不安が付き纏います。芦川はそれを克服して、周囲との関係を築いてきた。
でも、芦川の場合は、体調不良を理由とした「頑張りたくても頑張れない」という、相手がこれ以上踏み込めない理由を盾にした自己開示という点で、本当に強いかどうか一考の余地はあるかもしれませんね。
いやー、一冊の本、一人のキャラクターで、ここまで考察できるんですから、さすが芥川賞受賞作品。深いです✨
今日のまとめ
「押尾さん」というキャラクターを深掘りした結果、
私は以下の気付きが得られました。
ちなみに、自分の弱さをさらけ出した人間に対して、
「あいつは弱い人間だ」と考える人は、本当の意味で強くない。
だって、「完璧な人間」なんてのは存在しないから。
人間を年齢・肩書き・能力で判断して、上下関係で考える人は
自分の心の中に、何かしらのコンプレックスを持っている
と私は考えています。
心理学的にも、一番良い状態は「I'm OK,You're OK」です。
私がやっている活動(対話セッション)でも、
個人の心のつっかえを取ることで、
不寛容な社会全体の空気を変えていくことが目的なので
まさにドンピシャな内容でした。
色々書き始めると、また長くなりそうなので、
今日はこのあたりで。
ではまた!
しゅんたろう