獣道人材・舗装人材・走行人材・補修人材
経営者と話をしていて、適材適所をどうやって実現するか、どの人材にどのような仕事を任せるべきかといった人材タイプの話になることがあります。「あいつは出来上がった事業を回すのは上手いけど、新しい事業を立ち上げることは出来ないな」とか「彼は新しいアイディアを提案するのは得意だけど、すぐに飽きてしまう。ちゃんと形にするのは他のメンバーに任せる方がいいな」といった話です。
リクルート時代を含め、数千人の経営者や経営幹部、ビジネスマンと触れ合って来ましたが、確かに「人材タイプ」というものがあり、それぞれに適した仕事があるように思います。もちろん教育や指導によってある程度変わっていくものではありますのが、その人材の特性と根本的にマッチしない業務を割り振ってしまうと、たいした結果が出ないどころか大失敗に終わることになりかねません。
私がよくお話ししているのは、事業においては「獣道人材・舗装人材・走行人材・補修人材」の四種類がいるということです。それぞれ、どういったタイプを指しているのでしょうか。
まず獣道人材というのは、道の無い山の中でどこをどう走れば良いのか判断し、いわゆるケモノ道を創れる人材のことです。つまり全く新しい事業をゼロから立ち上げることが出来る人材です。どのような市場にどのような商品・サービスを提供し、どのような方法で売り込めば成功するのかといったことを判断できるため、誰にも考え付かなかったようなアイディアを具現化してとんでもないビジネスを創れたりします。世の中を変えるくらいの事業を創るのはこういう人材です。反面、事業を創り立ち上げることにしか興味がないため、往々にしてやりっぱなしでいい加減、管理系の仕事をバカにします。経費の使い方が乱暴で納期を守らない、書類仕事は手抜きをしまくって約束を忘れることが日常茶飯事だったりします。気性が激しく周囲とぶつかってばかりという人も多く、ずっと事業推進を任せているととんでもないことになる可能性があるのもこういった人達です。出現率が非常に低いのも特徴です。
次に舗装人材というのは、獣道人材が造った道筋を舗装出来る人材のことです。獣道だけでは普通の人は歩くことが困難でケガしたり道に迷ったりしかねません。体力のない人でも歩けるようにしたり、また車で走れるように整えるということです。商品・サービスをきちんと定型化したり人材を教育して組織化し、会社として組織的に取り組めるように仕組みを造ります。このタイプの人材は事業をゼロから創ることは苦手ですが、いったん動き出した事業を整えて推進させていくことが得意です。いわばアイディアを事業に育て上げる人材です。こういった人がいないと、せっかくの獣道もやがて草むらに覆われてしまいます。このタイプも、さほど出現率は高くありません。
走行人材というのは、文字通り創られた道の上を走ることが得意な人材です。獣道を創ることも舗装することも出来ませんが、出来上がった道を走ることは上手です。スピードや走路を微調整しながらハンドリングし、常に高い成果をあげるべく細心の注意を払って運転します。事業の仕組みが出来上がっていれば、こういった人材は高いパフォーマンスを発揮します。定められた手順に従い、暴走することも脱線することもなく着実に仕事を行うことが出来るため、非常に安定感があります。日本人で最も多いのはこのタイプの人材ではないかと思います。
最後に補修人材というべき人材タイプがあります。これは、走行人材とも少し違って道路の補修、修理を担当する人材です。実際に壊れた箇所を修理することはもちろん、優秀な人になると目に見えない劣化箇所や亀裂の兆候を発見しあらかじめ手を打ってくれたりします。黒子・縁の下の力持ちとして事業の裏側を支えます。いわゆるバックオフィスの人達(総務・経理・人事といった部署)にこういった方々がいることが多いです。この方々の役割を軽視すると、いずれ必ず事業に綻びが生じて来ます。気づかない間に在庫ロスが増えて利益が圧迫されたり、組織の効率が悪化して会社の生産性が低下したりします。このタイプの方々も比較的多いと感じます。
こうして見ると、事業のスタートから軌道に乗せ、それをさらに発展・拡大させそれを継続させるためには、どのタイプの人材も重要であり不可欠であることが分かります。明らかにそれぞれのタイプは異なりますし、二つ以上の役割を負える人材は非常に稀だと思います。
ビジネスマンであれば自分がどのタイプの人材なのかを見極めて仕事を選ぶことが重要でしょうし、経営者であればどの部下にどういった仕事を任せ適材適所を実現していくのかを考えることが重要です。自分のキャリアを考える上で、あるいは会社の成果を最大化していく上でぜひ参考にして頂ければと思います。