ラスカー賞受賞:GLP-1薬が人類の歴史を変える
前回に続き、ラスカー賞の解説です。
上記で触れた下記2番目の業績にフォーカスを当てます。
この肥満治療薬、通称「GLP-1(グルカゴン様ペプチド1)」は以前から注目され多くの賞を獲得しています。このBlogでも紹介したので記事を貼っておきます。
上記記事から分かり易い図を貼っておきます。
ようは、GLP-1はインスリンを誘発する役目をもっています。インスリンは血糖値を調節する役目を負っており、これが機能不全に陥ると「糖尿病」に罹るわけです。
元々は糖尿病治療薬として開発されたのですが、いまでは肥満を抑える薬としても広く知れ渡るようになりました。(一時期は社会現象に)
肥満は先進国を中心に増加傾向にあり、現在ほぼ 9 億人の成人が肥満に悩まされています。特に顕著な米国では、成人の 40% が肥満に悩まされており、ヨーロッパでは 25% に近づいています。日本でも人口層によっては増加傾向にあるようですので他人事ではないですね。(自戒)
このGLP-1の研究開発秘話について、ラスカー賞を記念してNature誌でインタビューされた記事を紹介しておきます。
1980年代に、インスリンを誘発するGLP-1ホルモンを発見し、そのアミノ酸配列を特定することに成功します。それまで糖尿病患者は、インスリンが足りないときは直接注射することで補給していましたが、これによって体内で自然生成する道が拓けます。
ただ、そのまま血液に入れると代謝、つまり数分で分解されてその効力を失ってしまいます。そこに製薬会社ノボノルディスクが開発していた、脂肪酸を結合して代謝を遅延させるテクニックを用いて実用化に近づきます。
そして2010 年(足掛け30年!)、FDA(米国食品医薬品局)が 2 型糖尿病の治療薬として承認し、史上初となるGLP-1を使った糖尿病治療薬リラグルチドが誕生します。
想定外の動きとして、糖尿病や肥満対策以外でも効用が出ていることです。
上記記事によれば、心血管疾患、睡眠時無呼吸、腎臓病などの病気の治療にも役立つことが示されているようです。これらの効果は、薬の脳への効果と抗炎症作用から生じると考えられているようですが、今後の解明が期待されますね。
このように、糖尿病をはじめとした多くの病克服に寄与しているため、科学者にとって一番著名なノーベル賞の可能性も大いにあります。実績で見てもラスカー賞受賞者のうち、実に95人がノーベル賞も受賞しています。
ただ、上記の製薬企業による介在含めて、100名以上の研究者がGLP-1ベースの薬開発に関わっており、GLP-1がテーマに選ばれたにせよ、(慣習的に)最大3名のノーベル賞受賞者は誰になるかはまだ分からないようです。とはいえ、今回ラスカー賞に選ばれた3名は高確率でしょう。
最後に超余談ですが、隣国の独裁者もこの薬に関心を寄せているようです。色んな意味で歴史にも関わってきそうな薬になりそうです・・・。