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【書評】ジョナサン・スウィフト『召使心得』--アナーキーすぎる召使たち
もうムチャクチャである。表題作の「召使心得」に出てくる召使いたちはとにかくやりたい放題だ。鏡を割ってしまったら、それをごまかすために窓ガラスを割り、鏡の下に石を置いておく。そうやって、外から飛んできた石が悪かったことにする。
あるいは外出時にランタンを持つ役をしたくなければ、ランタンを傾けてろうそくの火が燃え移るようにし、ランタン全体をぶっ壊してしまう。
食べ物や飲み物、果ては馬車の車輪まで勝手に自分のものにして、あるいは飲み食いし、あるいは横流しする。告げ口する者には制裁を加え、仲間の悪事は絶対に口を割らない。
さらに一旗揚げようと思いたち、結局は追い剥ぎになって絞首刑にされる。とまあ凄まじい人たちばかりなのだが、ここら辺にも理由があるのではないか。
アイルランド出身のスウィフトが語っているのは、実はお屋敷の中の召使いの話というより、イングランドに支配されたアイルランド人たちが、どうサボり、どう抵抗し、どう嘘をついて、なんとか自分たちの自由を確保しようとするか、の話なのではないか。そう思って読むとかなり痛快である。
もちろん、直接イングランドの支配を批判する文章もある。イングランドの王が、私利私欲にしか目がない金物屋に赦しを与えてコインを作らせ、アイルランド国内で流通するお金を質の悪いものにしてしまった件については、いつものおふざけはあるものの、実はかなり正面から批判している。
元々スウィフトはイングランドからアイルランドに来た家系の人物で、アイルランドではどちらかといえば支配者の側に立っている。だがその作品は完全に被支配者のもので、結局彼はアイルランドで英雄のような存在になったというのもよくわかる。
『ガリバー旅行記』を読んであまりの完成度に舌を巻いたら、次はこうしたエッセイを読むのもいいよね。