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【シナリオ】吹部の先輩に、音楽を楽しむことを教えてもらった話。


〇教室

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吹奏楽部の休日練習。
3月、3年生卒業の定期演奏会を間近に控えている。
そんな時の、フルートパートのお昼休みの時間。
まどか、ひかり、ゆいはは机を3つくっつけ、お弁当を広げている。

ゆいは「まどか、今日も自分で??」
まどか「はい!」
ゆいは「やるねぇ。健康的。」
まどか「自立です。」
ゆいは「てかあたしの分は?いつ作ってくれるの?」
まどか「んー、、いつか。」
ゆいは「いつかって!いつかってそれ、もうないやつでしょ!もうあと2日しか練習ないんですけど!?」
まどか「ちゃんと作りますから待っててくださいって。」
ゆいは「それ言ってからもうかれこれ2ヶ月くらいたってんですけど???」
まどか「あれー、もうそのくらい経ちましたっけ?」
ゆいは「ううう、ひかりもなんか言ってやれ!」
ひかり「まどかはちゃんと作ってくれるから大丈夫だよー。」
ゆいは「何その余裕。」
まどか「ひかり先輩は信じてくれてるんですよ、私の事…!」
ひかり「当たり前でしょ。」
ゆいは「まるで私が信じてないみたいに。」
ひかり「信じてないじゃん。」
ゆいは「なんで!?」
ひかり「「いつかは来ない」って。」
ゆいは「あ。」
まどか「信じない人には作ってきませーん。」
ゆいは「嘘!信じる!信じるから!!いつまでたっても待つからァ!!」
まどか「なら、よろしい。」
ゆいは「まどか様…!」
ひかり「ほんと先輩の威厳なしだよね(笑)」
ゆいは「もう慣れたし。」
まどか「ゆいは先輩は許してくれるから。」
ひかり「いいキャラだねーほんと。」
ゆいは「うるせっ。」

ゆいは、先に食べ終え、席を立ち、楽器を触る。

ゆいは「今日合奏何やるって言ってたっけ。」
ひかり「コンクール曲言ってたよ。」
ゆいは「うわプレッシャー。」
まどか「もうコンクールじゃないけど、この曲やると「失敗しないようにしなきゃ!」って思っちゃいますよね。」
ゆいは「なるー、めっちゃ身体固くなるー。」
ひかり「へー。」
まどか「え、ならないんですか?」
ひかり「ん?私?」
まどか「はい。」
ひかり「あー、、。うん。ならない、かな。」
まどか「ん、てか、ひかり先輩って緊張するんですか?」
ひかり「いつ?」
まどか「人生に…おいて?」
ひかり「いや、さすがにそれは……。あれ、しないかも。」
まどか「え?」
ひかり「したことないかも。」
まどか「そうなんですか?」
ゆいは「こいつ絶対緊張しないよ、ソロの時も、コンメンのオーディションの時も、怒られてる時も。」
まどか「えぇ!?」
ゆいは「見たことないもんそんな姿。」
まどか「さすが天才超人…!」
ひかり「いやいや。…でもほんとに緊張はしない、かな…。」
まどか「いいなー。」
ゆいは「まどかはいつもお腹ピーピーだもんねー。」
まどか「言わないでください。」
ゆいは「あはは、ごめんごめん。」
まどか「どうしたらそうなれるんですか?」
ひかり「うーん、でも性格的なこともあると思うから…。」
まどか「性格は、大丈夫です。寄せます、ひかり先輩に。」
ゆいは「まどか、目がガチ。」
ひかり「いや、ね、私考えるより、楽しむことを優先しちゃうっていうか。」
まどか「楽しむ?」
ひかり「うん。フルート好きだから。」
まどか「好きだから…?」
ひかり「うん、吹けることに感謝して、楽しんでるから、しないんじゃないかな。」

まどか、考える。

まどか「ちょっと言ってる意味がわからないんですけども…」
ひかり「あれー。」
ゆいは「あれよ、簡単に言えば楽観的。」
まどか「あ、そゆこと!」
ひかり「いや、それは、違う。」
ゆいは「違うって。」
まどか「違う。となると?」
ひかり「うーん、失敗したらどうしようとか、上手く吹けるかなとか、そういうこと考えずに、いつも「楽器吹けるの楽しみだな」とか、「今日はどんな合奏になるんだろう」とか、そゆこと考えてるんだよね、始まる前。演奏中は、ひたすらに楽しんでるかな。」
まどか「楽しんでる…。」
ゆいは「ポジティブ?」
ひかり「そっちの方が、近いのかも。」
まどか「でも、意識してないんですよね?そういう気持ちになるようにって。」
ひかり「…うん、してないね。」

まどか「…なんかわかったかも。ひかり先輩が上手い理由。」
ひかり「え?」
ゆいは「うん。」
まどか「ひかり先輩って、本当に音楽が好きなんですね。だから、そうなるのかなって思いました。」
ひかり「あー。」
まどか「音楽が好きで、フルートが好きで、深く考えずに、ただ演奏がどうしたら良くなるかだけのその、アンテナだけで動いてるんじゃないかって、思いました。」
ひかり「はは、そうなのかもしれないね。」
ゆいは「自覚無し?」
ひかり「わかんないもん、自然となんだもん。」
ゆいは「これだから天才は。」
まどか「私、ずっとこの2年間、ひかり先輩になりたいって言ってきたじゃないですか。」
ひかり「うん。」
まどか「でもなんか、今の会話聞いて、あ、無理だって思いました。」
ひかり「え?」
ゆいは「この2年間のが、今の一瞬で?」
まどか「だって、その、根本的な性格というか、考え方がやっぱり…。」
ひかり「寄せるって言ってたじゃん(笑)」
まどか「言いましたけどぉ」
ひかり「あのね、頭で考えると、自由な演奏って出来ないの。外からいっぱい良い刺激を受けて、吹奏楽で言えば、良い演奏をいっぱい聴いたり、仲間とのおしゃべりを楽しんだり、そういうのを思い出して、感じながら演奏すると、自然と良い音出るんだよ。」
まどか「…確かに、考えすぎると、楽しくないなって思います。」
ひかり「でしょ?」
まどか「でも、だからと言って、考えないと、いい演奏できない気も、するんですよね…。」

ゆいは「私もさ、中一の時に、ひかりからこの話聞いたんよ、実は。」
まどか「あ、そうなんですか。」
ゆいは「けどね、話きいた時はわからんかった。」
ひかり「わかんなかったの??」
ゆいは「うん。わかったフリしてた。」
まどか「じゃあやっぱ私にも出来ないかなぁ〜。」

ゆいは「アンコン※の時のさ、曲吹いてみない?」※アンサンブルコンクール
ひかり「急に?」
まどか「今ですか?」
ゆいは「うん、なんか吹きたくなったから(笑)」
ひかり「いいけど」
まどか「吹けるかな…」
ゆいは「いいよ吹けなくても、なんか吹きたくなっただけだから。」

ひかり、まどか、昼食を片付け、楽器を準備する。
各々、軽く音出し、準備。

ゆいは「いける?」
まどか「あ、チューニング。」

ひかりの音に合わせ、2人チューニング。

ひかり「よし、やろか。」
まどか「うわぁ、なんか久しぶりだから緊張します。」
ゆいは「でもちょっと楽しみやない??あたしこの曲好きだからさ。」
まどか「確かに私も好きですけど。」
ゆいは「もしかしたらさ、この曲3人で吹くの、もう最後かもね。」
まどか「え?」
ひかり「あーたしかに。もう無いかもね、卒業だし。」
まどか「…そっか。」
ゆいは「寂しくなった?」
まどか「ちょっと。」
ゆいは「色んなことあったもんねー、アンコンの練習も。」
ひかり「部活後残って、めっちゃ暗くなるまでやったよね。」
ゆいは「幽霊事件あったよね。」
まどか「先生だったやつ!」
ゆいは「そうそう(笑)」
ひかり「あと、パイの実のやつ覚えてる?(笑)」
2人「「パイの実ー!!!www」」
まどか「あれほんとに傑作でしたよね!」
ゆいは「あーだめだ、思い出し笑いする(笑)」
ひかり「ほんと色々あったよね」
まどか「吹きながらまたなんか色々思い出すかも(笑)」
ゆいは「よし、じゃあやってみるか!」
まどか「はい!」

演奏を始める。
3人、目と目を合わせ、音楽の世界に没頭する。
演奏を奏でている間に、教室の入口に、2人の1年生が覗きに来る。
3人はそれに気づかず、ただ音楽を楽しみ、演奏を終える。

ひかり「ふぅ。」

入口で見ていた雅、真央、思わず拍手をする。

ゆいは「びっくりしたぁ。」
まどか「えぇ、いつから!?」
真央「結構序盤から。」
雅「あの、…あの、すごい良かったです!」

雅は涙を流している。

ゆいは「えぇ、ちょ、なんで泣いてんの??」
まどか「大丈夫??」
雅「すみませぇぇん、なんか、感動しちゃって。この演奏聴けるの、もうないんだって思ったら。」
真央「あの、こんな事言うの、生意気かもしれないんですけど、…凄く上手でした。ほんとに、アンコンの時より、はるかに。」
雅「はい!!私もそう思いました!!」

まどか、ひかり、ゆいは少し俯く。

まどか「あの、私、今すごく楽しかったです。」
ゆいは「お。」
まどか「すごく、すごく楽しかったです!」

ひかり、ゆいは、顔を見合せ笑い合う。

まどか「もう最後なんだって思ったら、ほんとに、色んな思い出が音符1個ごとに思い出されるような感じになって。その、自分の気持ちとか思いがそのまま、音になって飛んでいくみたいになって。」
ゆいは「自分の気持ちって?」
まどか「…先輩たちのこと、大好きって。」

ひかり、ポケットからハンカチを取り出し、まどかに差し出す。

まどか「え?」
ひかり「泣いてるよ。」
まどか「…あれ?」

ひかり、まどかの涙を拭いてあげる。

ひかり「よっぽど、楽しかったんだね。」
まどか「…はい。」

まどか「私、本当に楽しかったです。」

まどか、大粒の涙を流し始める。
ひかり、涙を拭き続け、ゆいは、まどかの頭を撫でる。
雅はその涙にもらい泣きをし、真央はそんな4人を眺めている。
3年生がいなくなるまで、後3日。


おしまい


ーあとがきー
今日はボーカルレッスンに行った。その時に先生に、「深く考えないで、思ったことをそのまま歌に出せばいいんだよ。誰にどう思ってもらおうとか、表現しすぎようとか思っちゃダメ。心で思うだけでいいんだよ。」というアドバイスをいただいて、その後そんな感じで、表現しようとせず、思いだけを歌にのせたら、とても心地よく歌えた。
そんな出来事を、中学生の吹奏楽部の練習の様子に例えました。
まだ不器用な中学生の、楽しむための演奏法。

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