マガジンのカバー画像

掌編小説集『十三夜(いまだみちず)』

17
ちいさい小説をここにおきます。 マガジンタイトルには  十三夜 に  あとすこしで満ちるのだという  不遜な態度と  いまだみちず に  あと二日をじりじりと歩むようすを 表現…
運営しているクリエイター

記事一覧

バグり渦中、ドリップ溺愛注意報

バグり渦中、ドリップ溺愛注意報

   
#イグBFC6
          
 

                    

 家で彼氏作りたいけど量が多すぎになんのまじだるいな。あまったやつはじゃがいもとかにんじんアイラップの上から揉んで潰して、そんで冷凍保存すれば? っていうけど、冷凍庫いつもぱんぱんなんだもん。でさ、いつ食べる? ちょっと放置して問題ないとこがまたいいんだけどさ。
「いつでも。食べたいとき! 冷凍庫に彼

もっとみる
ばいばい ばいばい

ばいばい ばいばい

#古賀コン5  

 肉を切らせて骨を断つのって言ってたセンパイが泣いてる。その話を聞いたときから、切らせる肉はやたらリアルなのに断つはずの骨がなんだかふわっとしていて(骨やのに。ぼやっとしようもないのに)ゆうたらセンパイはいっつも肉を切り売りしてばっかりで、ほんまはいっこも骨には触れてへんのんちゃうん?
 思ってたけど口にはできひんかって、それはその、センパイにも立つ瀬やら面子やらあるかもしれん

もっとみる
ある藤原家の食卓

ある藤原家の食卓

古賀コン4テーマ「記憶にございません」
(※一時間で書くこと)

              こい瀬 伊音

 資源ごみの分別をしていたら、まだパッケージから出されていないままのお守りが出てきた。高貴な紫色の地に若草色で縫いとってある文字は「合格御守」。
「えええっ初詣のとき買ってあげたお守り、そのままぽいっと捨てたの? だから神様に見放されたんじゃ……あきれられたんじゃないの?」
 やいやい言う

もっとみる
フローズンピーチスムージーのおいしいつくりかた教えて

フローズンピーチスムージーのおいしいつくりかた教えて

BFC5落選展

フローズンピーチスムージーのおいしいつくりかた教えて
              こい瀬 伊音

 角切りの黄桃と一口大のバナナとを冷凍庫からとりだして、カランカランとフードプロセッサーに入れる。牛乳とヨーグルト、はちみつを垂らしてスイッチオン。最初はすこしぎこちない動きだけど、やがてなめらかになる。とろとろの桃のスムージーを太いストローで吸い上げる。
 亜里沙ちゃんの目はアーモ

もっとみる
不可逆的ガチョウ倶楽部

不可逆的ガチョウ倶楽部

 可逆か不可逆かっていうのは大きいんです、戻れるか戻れないかということですからね。なんとか食い止められるか否かってことです。ご自分の状態がだんだんわかってきましたか。
 ALT48。健康診断では何年にもわたって芳しくない数字を叩きだし、運動するつもりがあるのか聞かれ、そのたびに「近々始める予定である」をチェック、なにもしないまままた次の健康診断が来て、加速度的にほぼすべての数値が右肩上がり。一セン

もっとみる
「鬼芥子姫」

「鬼芥子姫」

阿瀬みち編
人魚アンソロジー『海界』より

「鬼芥子姫」

  

 差し出された盃を受け取りひとおもいに飲み干した。膳からみっつの骸骨が、こちらをみている。
 居並ぶ男たちのだれもが困惑するなか、兄ひとり満足そうに髭を撫でた。
「さすがわが妹よ。剛腹である」 
 市はほほえんだ。
 しゃれこうべの頂きはよく塗られ、肌がまろやかであった。ゆるやかな曲線にくちづけて傾ければ、艶やかな紅を損なうことな

もっとみる
掌編小説「ガラシャ殺し」

掌編小説「ガラシャ殺し」

ーー侍女清原糸曰く

ガラシャ殺しーー清原糸曰く
              こい瀬伊音

 その茶碗を、「夫」は時々取り出して眺めた。正座した膝のまえに置き、ぬかづくようにしながら眺める。曲線、粒だった肌。釉の加減でくるまれたところと地肌を剥き出しにしたところ。ゆっくりと愛でたあと手に取った。つるりと丸みを帯びた側面から指のはらを這わせ、ざらりとの境目を撫でる。そのときには目を閉じていて、いえ、

もっとみる
「旅と器とプレイ宣言」

「旅と器とプレイ宣言」

 (イグBFC3提出作品)

 初めての海外旅行はタイだった。スウィートナインティーンガールズ三人旅。
 バンコクの街中で、先っちょがまるまってる文字が溢れてて、ここはどこ? がさっぱりわからなくなったとき、羅針盤みたいなアルファベットにはなかなか出会えなくて、私たちは途方にくれていた。
 私とミユが地図をのぞきこんでは、ここちゃう? 違うって! とやってる間、ノンは野良犬の道路のわたり方なんかを

もっとみる
「ひかりのトンネル」

「ひかりのトンネル」

果樹園SF
「ひかりのトンネル」

 みーんみんみんみんみんみん。
 あっちいな。
 ぼくはサマースキルを一ページめくってみただけで飽きてねころんだ。なんだかいいにおいでつい鼻をすんすんしながら横向きになる。目の前には黄色の、畳の目が並んでいる。横になでるとすべっとして、縦になでるとざりっとする。ほっぺにはたぶんくっきり横の線がついてるはず。スタンプみたいに。
 扇風機はぶーんとやる気のない音をた

もっとみる

シェアード・ワールド企画「煙の街カーニバル」

「となりあう呼吸」の二次創作
 シェアード・ワールド企画

「煙の街カーニバル」

             こい瀬 伊音

カーニバルの夜、おおきな海老は赤々と跳ねる。
小エビはカリカリに揚がる。
 それはこの街の、一年に一度のごちそうだ。
 舞台に据えた大きくて浅い鍋に油。そこにざざっとまとめて投げ込まれる身体。華やかなエビ反り。パチパチとはぜる赤。
 しっかりめに揚がるのを固唾を飲んで見守っ

もっとみる
掌編小説「ファンダメンタル レンタルパンダ」

掌編小説「ファンダメンタル レンタルパンダ」



掌編小説
「ファンダメンタル レンタルパンダ」
             こい瀬 伊音

「隙間時間の使い方に難があるってだけで、ほかは善良だったよね」
 あたしは小袋を破き、人差し指と親指でとりだしたさくさくぱんだに話しかける。無表情なはずのビスケットの面に車の温度で溶けたチョコが涙とか汗でどろどろになったファンデみたいにくっついている。あんたまで泣くことないよね。きたなげ。口に放り込んで指

もっとみる