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『詩』子どもたちはいつ大人になるのだろう

格子窓の開かれた 高台の
古びた木造の教室で 子どもたちが
勢いよく 一斉に手を挙げるように
ステンレスの落葉松が どこまでも
似たような姿で枝を広げて並んでいる
まるで
青空を 神輿のように担ぐ様子で


日差しが落葉松に反射して
林は奥までずっと明るい


梢を風が吹きすぎると
童謡の 小学唱歌の あるいはサルサの
黄緑の 露草色の 紅赤べにあか
言葉がばらばら降ってくるので
傘を逆さまに開いたり
エプロンを胸の前に広げたりして 子どもたちは
駆け回るのに忙しい


やがて
揃って教室に駆け込んでくると 汗だくのまま
めいめいの席に我先にと腰を下ろす
格子窓から
どこかの教会のチャイムを乗せて
落葉松の梢を揺らした風が吹き込んでくる



黒板にはxやらyやら たくさんの幾何の問題が
アスファルトの上の雪みたいに白く撒かれているけれど
ステンレスの落葉松林が
代わりにやってくれるので
子どもたちはノートを開いて めいめいに
拾い集めた言葉をノートの上に並べてゆく


でも


言葉は歌に返らない
子どもたちは途方に暮れて
途端に悲しくなってしまう

  

  子どもたちは⎯⎯


そうして子どもたちは
いつ大人になるのだろう?
ステンレスの落葉松林で いったい誰が
彼らの成長を見届けるのだろう?


古びた教室の格子窓⎯⎯


そこからは ステンレスの梢を越えて
遥かに海も望めるだろうか




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