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『詩』夕立が近づいている

庭先にタープテントを持ち出し
テントの下で
ボードレールなど開いていると
おりからの風で
言葉が本のページを飛び出して
鉄塔の高い先端に
鶺鴒せきれいの尾羽に打たれてダンスのように絡みつく
鉄塔の向こうに青空が澄み渡っている



仕方がないので
雪舟の枯淡な印刷画を持ち出して
閉じたボードレールの横に飾ろうとすると
椅子の手すりの上で 青蛙が
そいつは似合わない、と
しわがれ声で見咎めたように言う


遠くで列車の音が
途切れることなく響いている


ちょっと青蛙に視線を送り
あきらめて
背もたれに深く身を預けると
視界が青空でいっぱいになる
そうだった
あのずっと深い
誰も知らない深いところに
まだ子どもだった僕は、気づかれないほどの
小さな落書きをしたことがあった


遥か遠い昔のこと


そのまま眼を閉じて
こうして風に吹かれていると
おもい出せそうな気がするけれど
ふと視線を感じて眼を向けると
社会科の教師の顔で
物問いたげに青蛙が
じっとこちらを見つめている
  それは本当に
  おまえさんの記憶だったかい?


首を背もたれにもたせかけると
視界の隅に雲が生まれ
たちまち大きな積雲となって
黄金の稲光を孕みだす
鉄塔の先から
言葉は帰ってきただろうか?


ボードレールを手に取ってみると
真っ白なページに
忘れた過去が波打っている
積乱雲の暗いところで 稲妻が
底ごもる音となって生まれ始めている
すぐに夕立が来るだろうか




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