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『詩』私の町

秋茜あきあかねが急に増えたねと君が言う
田畑と山と川ばかりの古い町だ
ゆっくりと 空の高みを旋回する鋭いものに
僕らはいつも見られている
長閑のどかに声が降ってくる 心地良さそうに


二度のいくさがあって
名残を止めようとする意思がある
草原くさはらを踏み荒らした人馬の跡は
綺麗なものではなかったはずなのに
あたりを染めた血の色のことも知らぬげに
そこいらじゅうに
美しすぎる追想のしるしが建てられる
その標を取り巻くように 血の色の
曼珠沙華が群れ咲くとしても
白に近い 淡藤色あわふじいろ著莪しゃがの花が
春には死者を悼むように揺れるとしても


熱暑のなかでたくさんの雑草が萌え上がる
まるで 記憶を覆い隠そうと
躍起になっているかのよう
そんな雑草を払いながら
あのときとは違う 健康な汗を流し
人は標を建てて歩く


千三百年前の戦のためには
神社が二つ建立されて
どちらも神になって祀られた
冬には欅の梢から雪が落ちて
誰もいない境内に ひとしきり
寂しい音が響き渡る


谷と名付けられることもない短い狭間だ
昔は汽車が走った峠があって
たいていは通り過ぎるためだけに
今もこの短い狭間を抜ける
いくつもの標が追想のまま
通りすがりの背中を見送る
町の真ん中の十字路で
今の香りを運ぶ遠方からのトラックが
戦の記憶の上で交差する


蜻蛉が増えたね
車の助手席でもう一度君が言う
行かせまいとするように いっせいに
秋茜が舞い踊る
あの戦もかくやと言わんばかりに


秋には火の神を祀る町である




今自分が住んでいる町のことを歌ってみようと詩にしてみました。
おもいをそのまま出してしまうとさすがにまずいので(どういう意味かな?)、精一杯言葉を選んでみました。エッセイのようなものを書くよりよほど緊張します(汗)。
タイトル画像も自分の撮影です。




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