『詩』アイスクリーム
アイスクリームを食べる
ソフトクリームではない
アイスクリームを食べる
シャーベットでもない
アイスクリームを食べる
こんなシチュエーションで食べる
二時間ドラマの断崖絶壁に追い詰められた犯人が
足場を気にしつつ
恐る恐る後ろを振り返りながら食べる
追い詰める刑事もセリフを噛んで食べる
取調室でも
刑事がジェラートのチョコを舐め
犯人の前にはバニラアイスが置かれる で
そっちでないとおれは喋らない、と犯人役が言う
大統領選の討論会で
共和党候補がメキシコ産マンゴーのアイスを食べる
巨大バケツの真ん中に線を引いて
そっちが民主党の分、と言う
それでは分断を煽っている、と
民主党の候補がバケツをひっくり返すと
途端に拍手喝采とブーイングが同時に起こる
国会でも地方議会でも
とりあえず全員でよく冷えたアイスを食べる
毎日のようにどこかで行われている謝罪会見の場で
謝罪する側もマスコミも みんな揃って
何はともあれアイスを食べる
演芸場の舞台下で
怪談ものをやっている落語家の顔を見上げながら
お皿に乗ったアイスをスプーンで掬って食べる
目が合って
一瞬 話が途切れてしまう
軽くコツンとやってしまった双方のドライバーが
警察官の到着を待つあいだ
気まずそうに顔を背けながらアイスを食べる
撮影現場の清涼殿の一隅で 唐衣の女房たちが
わたしはカップがいい、などと言う
庭の真ん中で狩衣姿の男性俳優が
着物を汚さないよう怯えながら
立ったまま固いコーンを齧る
とうの昔にやめてしまったタバコ屋の
ホーロー看板の下に古いパイプ椅子を持ち出して
背中を丸めたお婆さんが
コーンアイスを片手でくるくる回しながら舐める
少し離れて小学生の男の子が
羨ましそうにそれを見ている
お婆さんの後ろの 薄暗い奥の居間から
「栄冠は君に輝く」が聞こえている
牛乳は嫌いだけれどソフトクリームは好きだというと
怒られそうな気がするけれど
牛乳は苦手だけれどアイスは好物だ、というのは
許容範囲だとおもう
アミューズメントパークで
君が絶叫マシンを堪能している頃
木陰のベンチで足を組んで
僕はチョコミントに風を感じている
(僕は絶叫マシンがすべて苦手だ)
コーンの上の 丸いチョコミントのアイスクリームは
プラネタリウムに似ているけれど チョコミントは
夏の昼間に相応しい、そうは思わないかい?
君はクッキーアンドクリームがお好みだけれど
いつだって
アイスクリームは平和だ
しかつめらしい顔をしたあの国々の大統領たちは
アイスクリームがお好きだろうか?
辻邦生さんの大長編を読み始めてしまったので、しばらくレビューが書けないかもしれません。短編と並行して読むのも結構大変なので。
そんなわけで詩が続きます。よろしくお付き合いのほどを。
今回もお読みいただきありがとうございます。
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