No.6 ノンフィクション小説「ブロークンライフ!!」
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「あの、SOCIALの田中さんですか?」
「はい!スマイル不動産の、内藤さんですか?」
「はい!内藤です。宜しくお願いします!いや〜、無事に着いたようで良かったです!空港からのタクシーは、問題なかったですか?」
「いえ、しっかりボラれました。ハハハ。」
「なるほど、早速ベトナムの洗礼を味わわれたんですね。皆んな大体何かしら始めはあるので、気にしないでいきましょう!」
「そうですね!じゃあ、早速これから家にご案内頂けるんですよね?」
「はい!ご案内します!お荷物お持ちしますよ!」
内藤さんに会えて、内心少しホッとしていた。学生時代、東南アジアを一人で旅行していた時は、一人でも全く気にならなかったが、しばらく旅行もご無沙汰で、更にタクシーにボラれた事もあり、人恋しくなっていたのかも知れない。
とにかく、夢の海外駐在員生活の拠点となる家の初お目見えだ!僕はワクワクしていた。なぜなら、日本を出る前に、横浜支社の佐藤支社長と本橋先輩が、
「海外駐在員って言ったら、プール付きの家に、美人のお手伝いさんがいるんだろ?着いたら、すぐ写メ送れよ!」
「いや〜、僕なんかペーペーなので、そんな待遇良くないと思いますよ。」
そう言いながら、内心かなり期待していた。
内藤さん曰く、僕の通うオフィスのある、COMVIM CENTERは、ホーチミン1区というビジネス街の好立地にあり、錚々たる企業の入居するオフィスビルだそうだ。地代も当然高い。そして、僕の家も、そのホーチミン1区にある。期待しない訳がない。
内藤さんの後ろを、ルンルン気分で歩いていると、スルスルと路地に入っていく。中には日本食レストランの看板が多く見えた。
(おや?想像していたのと違うけど。)
と不思議に思い、
「内藤さん、この辺りは何なんですか?日本食レストランが多いようですが。」
「ああ、この辺りは、日本人街なんです。レタントン通りと、タイバンルン通りのちょうど交差した路地になっています。ちなみに、路地の事を、ベトナム語でヘムというので、覚えておくと良いと思います。」
「へ〜。日本人街か。」
(ちょうどお腹も減ってるし、もしかして、家に行く前にご馳走してくれるのかな?でも、せっかくなら、日本食じゃなくて、ベトナム食が良いんだけど。)
そんな事を思いながら付いて行くと、内藤さんは、日本食レストランには目もくれず、ズンズン進んで行く。
(お!あそこの見るからにベトナム料理っぽいお店かな?流石、内藤さん、着いたばかりの日本人の気持ちを心得てる!)
そんな風に思っていたら、そのベトナム料理のお店もパスして、ある見た目の小汚いアパートの前で立ち止まった。
(え、もしかして。。)
「田中さん!着きました!こちらのアパートの7階です!」
「あ、そ、そうなんですね!へー。」
(全然想像とちがうんだけど。。ま、まあ、中身は意外と良いかもだし!1フロア1部屋だったら、結構広いかも知れない。)
そんな風に自分を元気づけながら、内藤さんの後ろに付いて行く。しかし、そんな空元気を打ち砕かれるように、
「はい!どうぞ!エレベーターがすこーし狭いので、僕は階段で上がりますね!5階で待っていて下さい!」
(エレベーター狭っ!そして、5階?7階じゃなかったの?)
そんな疑問を抱きながら、今にも止まりそうなエレベーターに乗り、5階に向かう。
(めっちゃ恐い。そして遅い。どこのメーカー?メーカー書いてないし!)
と、突っ込みどころ満載のエレベーターで、5階に到着した。エレベーターは、目的地に到着する度に、ガシャン!という音を立て、激しく上下左右に揺れる。久し振りに揺れない地面に降り、少し待っていると、肩で息をしながら、内藤さんが上がって来た。
「はぁ…はぁ…。お待たせ…しました…はぁ…。さあ、行き…ましょ」
「は、はい。」
7階建のアパートは、元々5階建だったのを、無理やり7階建にしたのが丸わかりだ。5階から上に行くには、明らかに不自然な木製の階段を昇って行くようだ。
(この階段も恐っ!!凄い作りだな。。)
ようやく最上階に着いた。1階〜5階までは、1フロア2部屋あるようだが、6階、7階は1部屋しかない。この事実は、僕をいくらか勇気づけた。
(あ!やった!1フロアに1部屋なら絶対広いはず!)
「こちらが田中さんのお部屋です!」
ガチャッと音を立てて目に入ったのは、真っ白な、粉を被ったベッドが置いてある、狭い部屋だった。
しばらく声も出さず佇んでいた。ように感じたが、実際の所は、2〜3秒で、すぐに内藤さんが、
「あ、あれ!?何だこの粉は!?昨日チェックした時はキレイだったのに!ちょっと待ってて下さいね!掃除させますので!」
「あ、はい。」
魂の抜けた声を出す僕を置いて、内藤さんはドタバタと下の階に駆けていく。
(夢の海外駐在員生活。。)
そんな言葉が頭をよぎりながら、ボーッと突っ立っていた。どれ位の時間そうしていただろう。また、ドタバタと足音を立てて、また肩で息をしながら、内藤さんが帰ってきた。
「はぁ…はぁ…田中…さん。すみ…ません。すぐ、掃除…しますので。」
「あ、内藤さん、大丈夫なので、とりあえず休んで下さい。」
そんなやり取りをしていると、内藤さんの後ろから、掃除のおばさんが歩いて来た。下から、便所サンダル、ステテコ、ダラッとしたシャツに身を包み、その姿に似合わず、笑顔がやたら素敵だった。
「シンチャオ!」
と言い、僕と内藤さんが立っているドアの入り口を抜けて部屋に入って行くと、テキパキと掃除をし始めた。
「内藤さん、『シンチャオ』って何ですか?」
「ああ、『シンチャオ』は、ベトナム語の挨拶で、おはよう、こんにちは、こんばんは全てで使えます。少し丁寧な表現ですね。」
「へー!全部一つの言葉で済むなんて、便利ですね!シンチャオ!」
と僕が言うと、おばちゃんが嬉しそうに、
「シンチャオ!」
と返してくれた。
「ちなみに、この方は、掃除の方なんですか?」
「そうですね!ハウスキーパー、お手伝いさんとも言いますかね!」
「え!?お手伝いさん。。」
そう呟きながら、テキパキと掃除するおばちゃんを見ていると、僕の視線に気付いたのか、ニコッと眩し過ぎる笑顔を返してくる。
(ま、まあ、良い人そうだから良いか。でも、佐藤支社長と、本橋先輩には、写真は送らないでおこう。。)
そんな事を考えていると、掃除が終わり、おばちゃんは引き上げていった。
「田中さん。では、改めまして、こちらが田中さんのお部屋です!どうです?少し想像とは違ったかも知れませんが、会社にも近くて、良い所だと思いますよ!」
(う、勝手に夢の海外駐在員生活を想像してたの、顔に出てたかな。。)と思いながら、
「そ、そうですね!慣れるまでは、近いのが一番ですね!」
「そうです!そうです!何事も、一歩ずつですよ!それじゃあ、私はこれで!あ、鍵はこちら、WiFiパスワードは、あの紙に書いてあります!では!」
そう言うと、内藤さんは部屋を後にした。
一人残された僕は、ベトナムに着いてからの疲れがドッと来て、ベッドに寝転がった。
「はぁ〜。。何だか疲れたな。。別に何をした訳でもないけど。」
しばらくベッドでゴロゴロしていたが、ハッと思い立った。
(お金を両替しないとな。)
そう思い、WiFiに接続し、スマホのGoogle mapで money exchangeと調べると、いくつか候補が出て来た。
(一番近いのは、800メートル位か。とりあえず少し手持ちがあれば良いから、レートの良し悪しは気にしなくて良いか!)
そう思い、荷物の整理は後にして、部屋を後にした。
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