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No.28ノンフィクション小説「ブロークンライフ!!」

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2017年4月末日の週末

僕は、レタントン通り20番のファミリーマート前に先に着いて、吾妻さん、西村さんを待っていた。しばらくすると、

「おー!田中くん久しぶり!」

「田中さんお疲れ様です!」

と、お二人がいらっしゃった。西村さんは、この4月からSOCIAL VIETNAMに出向という形で赴任されている。日本でお付き合いのある、地方銀行の出身だ。

「お疲れ様です!どこに行きましょうか?」

「久しぶりに、もつ鍋行かない?」

「もつ鍋良いですね!そこ行きましょう!」

僕らは、レタントン通りを、車の流れとは逆に遡って行く。100メートル程歩き、左に折れると、様々な飲食店が軒を連ねている。

吾妻さんと僕の行きつけ、「博多もつ鍋-天国-!!」は、ヘムの一番奥に位置している。

「こんにちは〜」

お店に入ると、

「いらっしゃいませ!!」

と元気よく声がする。

慣れたもので、僕らはお座敷目指してズンズン進んでいく。

奥から、イカつい見た目の、左右田さんが顔を出す。

「こんにちは!!田中さん、もう結婚した?」

「いやいや!まだですよ!気が早いです!」

「良いじゃないですか、早い方が!結婚したら教えてよ!ビールで良いですか?」

「はい!!」

帳簿にビール3とつけると、すぐにキッチンに戻って行く。

「田中さん、ここ常連なんですね〜!!」

「はい!僕、ホーチミンに来て、ここで人生で初めてもつ鍋を食べて、すっかりハマっちゃって。一時期は、週3〜4回来ていましたね(笑)」

そうなのだ。博多もつ鍋-天国-は、お客様でもあるのだが、それは横に置いておいても、何度も来たくなる程美味い。左右田さんが常駐したのは、今年のテト明けからで、それまでは、代表の泉田社長が、日本と兼任していた。

「はいビールお待ちどう!!注文はどうしましょう?」

「もつ鍋セット3つで!!」

「はーい!!ありがとうございます!!」

また帳簿につけると、キッチンにすっ飛んでいく。

「じゃあ、西村さんの赴任を祝って、乾杯しよう!!」

「1.2.3ヨー!!」

西村さんも、既にSOCIALの歓迎会を終えているので、ベトナム式乾杯も、氷入りのビールも慣れたものだ。

「西村さん、ベトナムには大分慣れましたか?」

「はい、大分慣れましたが、未だにサービスアパートは問題だらけですね。」

「問題ですか?」

「はい。サービスアパートで、洗濯と掃除が週3回はついている筈なのに、定期的に行われなかったり、先週1週間は、お湯が出なくなりましたね(苦笑)」

「え〜!!大変ですね…僕のボロアパートならまだしも、西村さんの所は、かなり良いって評判を聞きますけど。」

「噂と実態は違うものですね。ハハハ。」

「まあ、今の話を聞く限り、しっかりとベトナムライフを満喫しているみたいだね!!」

「ハハハ×3」

談笑している間に、ベトナム人スタッフが、手際良くもつ鍋を調理してくれる。西村さんと、スタッフが、

「OK?」

「NO!」

「OK?」

「NO!」

のやり取りをしているのを面白がりながら待っている内に、気付けば食べ頃だ。

「もつ鍋、凄く久しぶりですよ〜!!うわ!美味い!!」

「俺も久しぶりだな〜!美味い!」

いつも通り美味しいもつ鍋を堪能していると、左右田さんがビールを片手にやって来た。

「左右田さん、お疲れ様です!!左右田さんがいらしてから、どんどんお客さん増えていますね!!」

「まあ、まだまだですけどね!!でも、日本人だけでなくて、ベトナム人のお客さんも増えて来てるから、悪くないかな!!はーい!!今いきまーす!!」

左右田さんは、休む暇なく、別のテーブルに注文を取りに行った。

(確かに、ベトナム人のお客さんも多いな。)

ベトナムでは、「モツは焼いて食べるもの」という認識だったのだが、美容に良いという点をFacebookなどでドンドン売り出して、今や完全にモツに対する認識を変えている。

僕らは、締めのチャンポン、雑炊まで平らげた。

「うわー!!食べた、食べた。美味かった!!じゃあ、そろそろ行こうか!」

吾妻さんは、明日の朝からまた出張だそうで、お店を出た後すぐに帰って行った。僕と西村さんは、僕の家の近くのガールズバーで飲み直す事にした。

「この辺、ガールズバーが多いですね〜」

「何だか、最近は更に増えて来てますね!」

ベトナムに日系企業が増えるにつれて、日本人を相手にしたお店も急速に増えている。この、ガールズバーが良い例だ。僕が赴任した1年前は、数える程しかなかったが、いつの間にやら、2〜3倍の数のお店が出来ている。

適当なお店に入ると、流暢な日本語で、

「いらっしゃいませ〜!!」

と、活気ある声がする。皆、お店で働き始めると、日本語のマニュアルを配られ、始めはほとんど日本語が話せない所から、接客をする中で徐々に日本語を覚えるのだ。やはり、日本語は流暢な子が指名を多く獲得するので、なかなかに厳しい世界だ。

僕は、銀行というと「半沢直樹」しかイメージがないし、西村さんの事もまだあまり知らなかったので、接客につく女の子はさておいて、様々お話を伺った。

(西村さん、ずっと銀行畑で揉まれてきた洗練されたビジネスマンて感じだな〜)

とても気さくで、良い兄貴分を得た気がした僕は、内心嬉しかった。

お店で会計を済ませ、帰り道、西村さんがボソッと言った。

「田中さん。あまり無理しないように気を付けて下さいね。私、銀行で、無理をして潰れていった人達を沢山見て来てますから。この1ヶ月見させて頂いて、お仕事大変でしょうが、くれぐれもご無理しないようにして下さいね。」

静かながら、説得力のある言い方に少し返事がためらわれた。が、すぐに思い直し、

「ご心配ありがとうございます。でも、まだ若いですし、全然大丈夫ですよ!!西村さんも、オフィスに居て頂いて心強いですし!!」

「そうですか!とにかく、無理は禁物です!これからお世話になりますが、宜しくお願いしますね!」

「こちらこそ、宜しくお願いします!」

そう言って、西村さんと別れ、帰途についた。

西村さんの心遣いが嬉しかったが、これまでも辛い時期は乗り越えて来たし、「自分は大丈夫!」という気持ちが強かった。

しかし、西村さんの忠告は、残念ながらこの後的中するのだった。

明日に続く…


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