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No.9 ノンフィクション小説「ブロークンライフ!!」

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翌朝、ぐっすり寝たと思ったが、スマホで時間を見るとまだAM5:30だった。

(あれ、意外と早く起きられたな。)

日本と、ベトナムは2時間の時差があり、ベトナムの方が遅い。時差の影響で早く起きられた事にまだ気付かず、

(多分、気が張ってるんだろうな。)

位に考えていた。

シャワーを浴びて、朝はやる事も特にないので、散歩をしようと外に出た。

ちなみに、この日は月曜日なのだが、ベトナムの祝日で、休みだ。ただ、黒川社長から、明日からの打ち合わせをするという事で、午後にオフィスに行く事になっている。吾妻さんは、今日から出張でベトナムのハノイに行くという事だった。

気になっていた、家の近所のベトナム料理のお店は、AM6:00だというのに、既に開いている。空腹を感じ、吸い込まれるように入った。メニューを見ていると、店員の男性がオーダーを取る為に近づいて来る。昨日吾妻さんが使っていた、ベトナム語を早速使ってみる。

「カナイ!モッカイ!」

ヤーと言いながら、男性は厨房に引っ込んで、すぐに料理を持って戻って来て、僕が座っている席のプラスチック製のテーブルにそれを置いた。

(おー!これこれ!こういうのが食べたかったんだよ!)

昨日のベトナム料理のお店は、確かに美味しかったが、観光客向けの綺麗な佇まいで、味も観光客が食べやすいように寄せていた。だが、僕は、海外に行ったら、その国の人達が食べている食べ物を食べたい性格だ。お腹は弱いのだが、お腹を壊しても気にしない。

(でもこれ、どうやって食べるんだろ?…まあいっか!適当で!)

後で知ったのだが、出て来た料理名は、ブンチャーで、ベトナム風つけ麺だ。つけ汁と、麺、葉っぱ類が別々の器に入って出て来る。自分の好みで葉っぱ類をつけ汁に入れ、麺をつけて食べる。だが、初めてで食べ方が分からなかった僕は、葉っぱで麺を巻いて、つけ汁につけて食べていた。

「うん!美味い!なんか、ベトナムに来たって感じがする!」

トンチンカンな食べ方をしながらも、ローカルのお店に一人で入って食べた事に満足感を感じながら、一気に食べ終えた。店員に『ティンティエン』と伝えると、

「ボンムイタン!」

と言ってくる。分からないとボディランゲージで伝えると、指で、4、8と教えてくれた。

(えっと。4、8だから、4,800ドンじゃ安過ぎるし、、48,000ドンかな?なら、50,000ドン渡せば足りるよね。)

店員に50,000ドンを渡すと、2,000ドンのお釣りをくれながら、

「シンカモン!」

と笑顔で言ってくる。僕も、

「シンカモン!」

と返す。「シンカモン」は、ありがとうだ。

腹ごしらえを済まし、ずっと気になっていた、ホーチミンで一番高いビル、テクスコタワーに向けて歩き出した。ホーチミンに着いてから、自宅から半径数百メートルしか出歩いていないので、今日は少し行動範囲を広げたい。

自宅から、レタントン通りに沿って歩いていくと、右手にCOMVIM CENTERが見える。それを通り過ぎて、更に進んでいくと、パッと開けた通りに出る。グエンフェ通りだ。ホーチミンさんの銅像も飾られており、観光スポットである。夜になると、どこからともなく若者達が集まり、それを目当てにした行商の人々も集まり、カオスな様相を呈す。今はまだ早朝なので、そこまでの人はいないが、それでもチラホラと人の姿はある。グエンフェ通りの真ん中を、右手の奥の方に見えるテクスコタワーを目指し、ぷらぷらと歩いていく。

「キレイな所だな〜」

呟きながら、どんどん歩を進める。やがて、テクスコタワーの麓に着いた。

「でかいなー!」

と感じたが、実際は、東京タワーよりも低い事を知り、驚いた。周囲の建物が、テクスコタワー程高くないからだろう。テクスコタワーは、正式名称を、テクスコフィナンシャルタワーと言い、韓国のテクスコグループ所有のビルだ。高さ265.5メートル、地上68階、地下3階を要し、2016年現在、ホーチミンで一番高いビルとなっている。中は、オフィスエリアと、商業エリアに分かれている。

まだAM8:00前後と、時間が早い事もあり、テクスコタワーには入らず、その周囲を見て回り、サイゴン川の方に向けて歩いた。途中K martに寄り、見た事がない銘柄のジュースを買った。サイゴン川沿いにある公園で、木の陰になっているベンチを見つけ、さっき買ったジュースを開けた。なかなか美味い。

「ふう。俺、本当にベトナムにいるな〜。」

一息ついて、改めてそんな事を考えていた。海外旅行といったら、多くても年に1回〜2回程度。合計しても長くて2〜3週間だろう。だが、今回の駐在は、最低3年、長ければそれ以上の期間ベトナムにいる事になる。学生時代に、東南アジア旅行をしていたと言っても、長期滞在した経験はない。だから、長期滞在をしてみたくて、海外勤務を希望していたというのもあるのだ。僕は、学生時代に海外留学をしてみたかったが、経済的な理由や、当時バドミントン部の部長として、部活動に精を出していた事もあり、ついに海外留学に行く事は叶わなかった。

そのため、海外駐在員になれたのは良いが、会社のためという気持ちは正直薄く、多分に自分が学生時代に海外留学に行けなかった目標を、今になって満たしている感があった。会社にとってみたら、迷惑な話かもしれないが。

ただ、元来やる気はある方なので、これから始まる海外での仕事にやる気を燃やしていた。ただ、一点気になっていたのは、ベトナムで担う業務が、海外進出コンサルティングではなく、人材研修・人材紹介・ITサポートの営業だという点だ。これは、内辞を受けて、その後黒川社長と面談をする中で聞かされた時には、驚き、多少失望もした。

(え。入社前から聞いていた、海外進出コンサルティングに関わるんじゃないんだ。)

聞くと、海外進出コンサルティングの部門は、黒川社長が携わり、僕は他の3つの部門の管理と営業に携わる事になった。釈然としない想いはあったが、贅沢も言っていられない。黒川社長の説明はこうだった。

「海外進出コンサルティングは、専門的な知識や経験が求められるから、いきなり携わるにはハードルが高い。始めは、他の3部門の営業職としてスタートを切り、ベトナムにも慣れて行ったら、ゆくゆく海外進出コンサルティングに携われるようにするつもりだ。」

この説明は、半分は納得していたが、半分は不満だった。

(言っている事は理解出来るけど、海外進出コンサルティングと、他の3部門は全く別だから相関性なんてないよな?野球で球拾いしていても野球が上手くならないのと同じだよ。)

以前にも、この経験はあった。新卒で入社した時に、「業務内容は、ITコンサルティング、飛び込み営業などはない。」と聞いていたが、新人研修で行ったのは、テレアポ、そして、横浜支社に配属されてから行ったのは、飛び込み営業だった。(補足説明をしておくと、当時、僕らの期の時に、会社がコンサルティングに舵を切ろうとしている時で、会社上層部や人事部の意向と、現場の意識とに差があったのだ。その為、退職者はかなり多かった。2012年4月に入社して、1年が経つ頃には、50名いた同期が、半分程に減った。僕がベトナムに渡航する時には、同期は10名強しかいなくなっていた。)

1年目の当時、僕がお世話になった、佐藤支社長も、本橋先輩も横浜支社にはいなかった。当時の僕の上司は、村崎部長。ひたすら謎の一発芸をやらせ、営業トーク練習という名の公開処刑をさせられた。(この経験は、営業トーク練習に対するトラウマを作った。)上記の状況に我慢の限界に達し、入社半年で僕は一度上司に辞表を出している。辞表を提出した時に言われた言葉を今でも覚えている。

「辞めてもいいけど、今辞めるのやめて。俺の評価に響くから。」だ。

(うわ〜。知っていたけど、この人本当のクズだな。)

と思ったのを昨日の事のように覚えている。ただ、辞表を提出したものの、大学時代の友人から励まされ、退職を思いとどまった。その後は、村崎部長からの態度も多少軟化し、飛び込み営業にも多少慣れて、とびきり優秀とは言えないまでも、成果が出て来た事で、入社してからの暗黒時代を何とか乗り切る事が出来た。余談だが、村崎部長は、その後、社内で問題を起こし、責任を取る形で左遷されている。「よい気味だ」とは思わなかったが、「やっぱりな」と感じた。

サイゴン川を見ながら、念願だった海外生活への期待に胸を膨らませながらも、本当に希望していた業務とは違う部門に携わる事に不安を感じる、複雑な心境だった。

ふと周囲を見回すと、先ほどまでウォーキングをしたりと、往来があったのだが、陽が高くなり暑くなってくるのに合わせて、蜘蛛の子を散らすように人がいなくなっていた。僕もその流れに乗るように、午後のオフィスでのMTGの前に、昼食と休憩をする為に自宅に引き上げて行った。

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