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No.22 ノンフィクション小説「ブロークンライフ!!」

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2017年1月下旬

「田中さん!早く早く!遅れますよ!」

「すぐ行きます!」

先に行くクエさんに、呼び掛ける。

僕と、クエさん、そして、研修チームは、

バリアブンタウ省にある、職業訓練校に泊まり込みで研修に来ていた。

クエさんは、10月に産休から帰って来た人材研修チームのマネージャーだ。

人材研修チーム1の古株で、年齢は僕と同い年だ。

が、僕とは比べ物にらならい程しっかりしている。

(ただ、何だか冷たいんだよな〜…)

そう。何故か、態度が冷たいのだ。

理由は未だに分からない。

今回の人材研修は、職業訓練校に昨年入学した1年生に向けて、

日本式のマナーを教えるものだ。

時間になり、職業訓練校の校長先生が

冒頭に挨拶をした。

早速、僕らの研修が始まる。

今回の研修では、学校側の意向で、

研修で日本人から指導をして欲しいとオファーがあったそうだ。

話は数週間前に遡るが、

「田中、お前1月末に、研修チームとバリアブンタウ省の

職業訓練校に行ってくれ。で、

そこで、トレーナーやってくれな。じゃあ、宜しく!」

(え!?トレーナーって…そんな簡単に言うけど…)

クエさんに相談をすると、

「凄いですね〜、田中さんは!私が3年間かけて

研修が出来るようになったのを、

数週間で出来るんですね〜。」

態度がとても冷ややかだった。

(俺、何かした!?何なんだろう?でもとにかく

やらなきゃならないからな。)

その日から、営業の隙間時間を使って、

人材研修の練習をして行く。

出張先の吾妻さんにも相談しながら、

何とか今日を迎えたのだ。

(全然完璧とは言えないけど、

もうやるっきゃない!)

僕は、そう肚を決めると、生徒に向かって声を張り上げた。

「皆さんこんにちは!僕は、田中と言います。

今日から、3日間、皆さんの講師を担当します。

宜しくお願いします!」

吾妻さん、クエさんに言われていたように、

話を聞こうとしない生徒もいる。

(聞いてた通りだな。真面目な子、不真面目な子、様々だ。)

「話を聞きたくない人は、出て行ってもらって結構!!

他の人の邪魔です!」

クエさんが、僕の勢いそのままに、

ベトナム語で通訳をしてくれる。

生徒達は、大きな声と、僕とクエさんの剣幕に

びっくりして、急に居住まいを正す。

その姿を内心おかしがりながら、僕は研修を続けて行く。

1日目は、順調に終わり、

学校内の食堂で、晩御飯を食べていた時、

「田中さん、今日はお疲れ様でした!

思っていたよりもずっと良かったですよ!」

クエさんが声を掛けてくれた。

(あれ?何だか少し態度が軟化したかな?」

嬉しかった僕は、

「ありがとうございます!クエさんと、研修チームのお陰ですよ!

明日も宜しくお願いしますね。」

少し、打ち解けられたようだ。

ふと、僕の携帯が鳴っているのに、気付いた。

(ゲッ!黒川社長だ。)

皆んなに、人差し指を立てて、シーっというサインを出すと、

僕は電話に出た。

「おー!お疲れさん。初日はどうだった?」

「クエさん、研修チームのお陰で、

何とかスムーズに終えられました。」

「そうかそうか!なら良かった!

言い忘れたんだけど、なかなかバリアブンタウ省に

行く機会もないだろうから、

ついでに営業も回って来いよ!じゃあな!」

ブチっと電話は切れた。

(営業回れって…3日間、トレーナーとして、

研修に参加してて、どうやって回れって言うんだよ…)

頭を抱える僕を見ながら、クエさんが、僕に同情するように、

「田中さん、晩御飯が終わったら、

研修の時間割について打ち合わせましょう。

工夫すれば、何とか時間を作れるかも知れません。」

「そうですね…。ありがとうございます。そうしましょう。」

内心、いつもながらの、

黒川社長の突然のオファーにウンザリしていた。

(何で、事前に言えないんだ?そして、

言い忘れてた事に対して、毎度ごめんの一言もない。

人材研修のサービス提供してる会社の社長がこれかよ…)

とにかく、晩御飯を終えたクエさんと僕は、

研修の時間割について打ち合わせる。

何とか、2日目の午前中は、クエさんに

メイントレーナーをやってもらう事で、

対応出来そうだった。

「良かった。何とかなりそうで。クエさん、ありがとうございます!」

「いえ。…田中さん、私、一つ謝らなければならない事があって」

「え、何かありましたっけ?」

「私、田中さんの事を、黒川社長の手先だと思って、

わざと冷たくしていました。ごめんなさい!

でも、私達の知らない所で、田中さんは苦しんでたんですね。」

「あ〜、そうだったんですか!いえ、全然気にしないでください。

でも、手先って(笑)クエさんは、黒川社長の事嫌いなんですか?」

「大っ嫌いです!!いつも偉そうで、表では会社の理念とか、

綺麗な事を言うけど、行動が伴っていません」

(ハッキリ言うなぁ…流石は、研修チームのマネージャーだ。)

僕は、変な所に関心していた。

恐らく、人材研修のプロとして、会社組織や、リーダー論について

勉強する中で、自分の所属する組織に置き換えて考えるから、

尚更なのだろう。僕も、この約1年人材研修について触れて来て、

同じ事を思っている。

「とにかく、田中さんが黒川社長の手先じゃない事が分かったので、

これから改めて宜しくお願いします。」

「いえ、こちらこそ宜しくお願いします!」

(何だかんだ、クエさんと打ち解けるキッカケが出来て良かった。)

残りの2日間の研修に向けて早めに休むべく、

それぞれ部屋に戻った。

僕は、急遽営業に行く必要が出来たため、

眠気と戦いながら、訪問先の洗い出しと、

資料の準備などをするのだった。

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