No.18 ノンフィクション小説「ブロークンライフ!!」
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2018年10月初旬
「お前さ、お客との飲み会、あれもうやめろよ」
某大手企業様との商談の帰りの車の中で、
黒川社長が僕に言った。
「飲みに行った会社で、成約に繋がった会社が何件あるんだ?」
「…数社ですね。」
「労力に対して、成果が伴ってないだろ。
何回も口酸っぱく言ってると思うけど、
無駄な行動はするな!
今日から飲み会禁止な!あと、それに伴う直帰も禁止。」
「はい。」
(俺のプライベートの時間を何に使っても、
自由じゃないのか?まるで会社の所有物だな…)
不満を持ちながらも、実際成果が出ている訳ではないため、
文句は言えなかった。言い返せない自分が情けない。
日本にいた時から、僕の成果の出し方は、
『狭く深く』だった。この習性は、
入社一年目当時の上司、村崎部長の方針で、
1年間でリストが100件強しか与えられなかった。
他の同期が、豊富なリストがあったのと比較して、
僕には手持ちが少なかった為、限られた企業を、
集中的に訪問し、仲良くなり、ある程度成果が出た。
その習性は、その後も踏襲していった。
しかし、ベトナムに来てからは、
黒川社長指示の下、
1ヶ月〜2ヶ月で、ビンズン省→ドンナイ省→ロンアン省
というように、リストがどんどん変更された。
仕方なく、他の省でも関係を保っていたい先は、
夜に飲みの席でお会いして、関係を継続していた。
(これで、今まで継続してきた関係構築も
完全に頓挫したな〜…)
そんな風に考えている内に、
COMVIM CENTERに着いた。
「お前は、このまま外回りだろ?じゃあ、後でな!」
そう言い残し、黒川社長はオフィスに上がって行く。
「一体どうしろってんだよ…」
僕は、半ばヤケになって、オフィスから少し離れたカフェに入った。
(せめて商材が、得意なITサポートだったならぁ〜)
黒川社長の方針で、この頃、ITサポートは維持、
人材研修7:人材紹介3の割合で営業をしていた。
しかし、そんな中で、成果が出るのは、
ITサポート、次に人材紹介が多かった。
日本で4年間ITに関わっていた習性で、
取引先に訪問すると、IT環境が気にかかり、
簡単な質問をして、そこから自然と提案に結び付く。
ベトナムへの進出企業からの人材紹介のニーズも多い。
(ただ、ITも、人材紹介も、
受注しても評価にならないからな…)
そう、一番の問題は、3部門の営業と管理を担当するにも
関わらず、評価されるのは人材研修の成果だけという点だった。
黒川社長からは、「とにかく人材研修で成果を出せ!!」
他の3部門のマネージャー、スタッフからは、
「田中さん、〇〇部門の営業を宜しくお願いします!」
と、完全な板挟みになっていた。
そんな状況に、
赴任して5ヶ月が経つ頃には、
すっかりと赴任当初の勢いは消え失せ、
ネガティブな考えになってしまっていた。
お手上げ状態で、カフェオレを飲む僕に、
LINEで連絡があった。
『犬飼です。お昼一緒にどうですか?』
ITサポートでお付き合いのある、
犬飼社長からだ。
渡に舟という感じで、
『ぜひ!オフィス前待ち合わせで宜しいですか?』
と返信した。
グーサインのスタンプが届く。
僕は、レタントン通りにある犬飼さんの
オフィスビルの前に向かった。
入り口付近で待っていると、
いつも通り飄々とした調子の
犬飼さんがいらっしゃった。
「田中さん!久しぶり!お元気?」
「はい!元気にしてます!犬飼さんもお元気そうで!」
「元気元気!さて、どこ行きましょう?カルーア辺り?」
「良いですね!」
カルーアは、レタントン通りの路地裏にある、
洋食屋だ。洋食屋なのだが、
日本食のメニューも多くある。
ランチは定食メニューの種類も多く、
そして美味い。
店に入り、犬飼さんは、生姜焼き定食を、
僕は、カツ丼定食を頼んだ。
「イェンちゃんとのその後はどうなの?」
「いや〜、なかなか進展がないですね〜。
何度かデートはしているんですが。」
「そっか!でも良いよね〜。青春してるな〜!」
「確かに、日本での恋愛と比べると、
高校生時代に戻ったような感じがしますね(笑)」
「そこが良いんじゃない!イェンちゃんの為なら、
恐い社長も恐くない!違う?」
「はい!と言いたい所ですが、
恐いものは恐いですね(笑)」
「ハハハ!そりゃそうか!」
犬飼さんは、こんな調子で、たまにランチや、
晩御飯に誘って頂いては、
気分を盛り上げてくださる、
僕にとって、とても有難い存在だ。
そして、何だかんだと理由をつけて、
いつもご馳走して下さる。
「いつもすみません。」
「良いの!良いの!こちらこそ、
いつもIT環境の面倒みてもらって、
感謝してますよ!」
そう言って、席を立つ。
犬飼さんのオフィスまで、
他愛ない世間話をして、歩く。
「さて、午後もゆる〜くやりますか!
そうそう、田中さん。」
「はい?」
「あんまり気張り過ぎちゃダメですよ!
私みたいに、緩〜くね!私はちょっと
緩すぎるかも知れませんが!ハハハ!
ではまた!」
不意を突かれて、涙が滲んだ。ちょっと遅れて、
「ありがとうございました!」
と言うと、手を上げながら、
犬飼さんはオフィスへの入り口に消えて行く。
犬飼さんのお陰で、気持ちがポジティブになれた僕は、
「さて、行きますか!」
と、タクシーを止めて、
午後のアポイントに向かうのだった。
明日に続く…
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