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はつらつとした猥雑さ―漫画『スインギンドラゴンタイガーブギ』

 先日、ひさしぶりに書店の漫画コーナーに立ちよったのですが、そのときに偶然みつけたのがこの漫画『スインギンドラゴンタイガーブギ』
 手にとるやいなや、ほとんど間髪いれずにレジに持っていったじぶんがいました。

 作者は灰田高鴻(はいだこうこう)というかたで、講談社の「モーニング」に、昨年4月から連載がされているようです。

 既刊は、4巻。公式サイトによれば、「戦争ですべてを失ったこの国、そしてその音楽が再生する歴史を描く、一大ニッポンジャズストーリー」とのこと。

 作品の舞台は、第二次大戦後、GHQ占領下の日本。福井に住むひとりの少女が、「姉の仇」である「オダジマタツジ」なる人物を探しもとめ、ウッドベースをかかえて上京することから物語ははじまります。

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 ジャズにかんする漫画といえば、小玉ユキの『坂道のアポロン』、そして石塚真一の『BLUE GIANT』が有名です。
『坂道~』は1960年代の長崎を、『BLUE~』は現代の仙台および東京を舞台としていましたから、本作『スインギン~』が時代設定としてはいちばん古く(昭和26年)、ちょうどジャズの本場アメリカが、ビバップからハードバップに移行しつつあるホットな時期の話です。

 もしタイムマシーンに乗れたら、いつの時代にさかのぼってみたいか。
 わたしは、戦後の復興期から高度経済成長期へとむかっていくこの1950年代というディケイドに、なにか惹かれるものを感じてしまいます(みなさんは、いつの時代がいいですか?)。

 小説でいえば、野間宏や梅崎春生がえがいたような、あるいは映画でいえば、小津安二郎や成瀬巳喜夫がカメラにおさめたような、戦後のこの時期の独特の景色。
 いちどでいいからその時代に迷いこみ、その時代の空気を肺にめいっぱいに吸ってみたい。あわよくばカストリ焼酎を胃の腑にながしこみながら…。

 この漫画からも、まさしくその当時のなんともいえない暗さと明るさがつたわってきます。荒廃のなかから湧きたってくる、はつらつとした猥雑さ、とでもいえばよいでしょうか。

 2巻までいっきに読んでしまいましたが(まだ2巻しか読んでいないくせに語るのではない、というかたにこそ、ぜひピエール・バイヤールの『読んでいない本について語る方法』を読んでもらいたい)、はやくもつづきが気になりそわそわとしております。

 あまりうるさいジャズの講釈もなく、いっぽうでロマンスの予感もあり(とはいえくりかえしになりますが2巻までしか読んでません)、ジャズにまったく興味のないかたでもじゅうぶんに楽しめる内容になっています。

 1950年代にもしさかのぼれるとしたら…でも、食あたりとかがちょっと怖いですかね。わたし、胃腸が弱いもので…。


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KOHEYA Ryutaro
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