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mofi|映画・答え合わせ

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ハリウッド映画を中心に、新旧の映画の構造や効果を「答え合わせ」します。
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2024年1月の記事一覧

『ザ・ホールドオーバーズ(原題)』居残り学生と嫌われ教師の冬休み

『ザ・ホールドオーバーズ(原題)』居残り学生と嫌われ教師の冬休み

『The Holdovers』(2023年)★★★★。

快作。

一見既視感のあるプレミスだが、神はディテールに宿る。

アレクサンダー・ペイン監督、ポール・ジアマッティ主演といえば『サイドウェイ』のタッグチームだ。

そのコンビが、1970年のニュー・イングランドにある全寮制男子学校でのひと冬を描く。休みのあいだ、実家に帰れない数名の学生たちを泊まり込みでお守りする嫌われ教師と、母親に帰省を拒

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『アメリカン・フィクション』インテリが逆差別と衆愚に挑むとき

『アメリカン・フィクション』インテリが逆差別と衆愚に挑むとき

『American Fiction』(2023年)★★★・。

ハイブラウな映画だ。

物書きの苦悩、特に世間との感覚のズレを感じる男の憤りと、その私生活。そこへ一石を投じる行動が、思わぬ出来事のドミノ倒しを呼ぶという、シニカルなコメディ。

パーシヴァル・エヴェレットの2001年の小説『イレイジャー』を原作に、今をときめくライター、コード・ジェファーソンが監督デビューした本作。

これ、いくつか

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『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』老いてこそ人生を楽しめる

『ナイアド 〜その決意は海を越える〜』老いてこそ人生を楽しめる

『NYAD』(2023年)★★★・。

年寄りがスクリーン上で頑張る姿にはどこか見え透いたアジェンダを感じてしまうものだが、キャラクターに尋常ならざる精神力や、若者顔負けのフィジカルが伴うと話が変わってくる。『ナイアド』に、有無を言わせぬ共感力が伴うのはそのためだろう。

2009年を皮切りに、60歳をゆうに越える高齢でキューバ沖からフロリダまでの130kmを単独泳破することに挑戦した遠泳スイマー

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『フェラーリ』栄冠の代償、速さの対価

『フェラーリ』栄冠の代償、速さの対価

『Ferarri』(2023年)★★★・。

実話に基づく人物の生涯を追うのでなく、1957年のひと夏に物語を絞ったのは『フェラーリ』の切り口の肝。

伝記ものが数十年分のめぼしい転換点を切り貼りするのとはまた違った、登場人物たちのスナップ写真を見ているような鑑賞感がある。

2時間あまりで、元レーサーで起業したエンツォ・フェラーリ(アダム・ドライバー)の二重生活、直面する経営難とテコ入れ策、共同

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『TÁR/ター』:「アーティストなら人をクズ扱いしても許されるのか」への解

『TÁR/ター』:「アーティストなら人をクズ扱いしても許されるのか」への解

『TÁR』(2022年)★★★☆。
公開:2022年11月17日(北米)
IMDB | RottenTomatoes | Wikipedia

リディア・ター(ケイト・ブランシェット)はソシオパスだ。業界のトップで活躍しながら、周囲への心理的虐待と性的搾取に勤しむ、架空のアーティスト。近年よく見られるようになった、権威を嵩にかけた抑圧と転落の一部始終が、彼女を中心にして展開する。

トッド・フィー

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『ソルトバーン』持てる者、持たざる者の暗部(と局部)を露わにする怪作

『ソルトバーン』持てる者、持たざる者の暗部(と局部)を露わにする怪作

『Saltburn』(2023年)★★★・。
公開:2023年11月17日(北米→全世界)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

恐ろしい。『太陽がいっぱい』(1960)あるいは『リプリー』(1999)に次ぐようなソーシャル・クライマーの暗躍。それを、2006年のイギリスを舞台に語る。

主人公のソシオパスぶりが激しい。激しくて、何度か鑑賞を止めかける。

オック

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『REBEL MOON — パート1: 炎の子』のエロとグロとナンセンス

『REBEL MOON — パート1: 炎の子』のエロとグロとナンセンス

『Rebel Moon - Part 1: Child of Fire』(2023年)★★・・。
公開:2023年12月21日(北米→全世界)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

公開前から舞台裏までスケスケな作品も、考えもの。ザック・スナイダーが『スター・ウォーズ』用にこしらえた企画が却下され、その後Netflixがオリジナル作品として拾った長編2部作。と言わ

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