寺地はるな 『雫』は永遠を表す形
雨の雫はあつまって川となり、海へと流れ込み、やがて空にのぼっていく。その繰り返しが『永遠』を意味する。
〜でも永遠ってなんなんだろう。
雨は循環しているかもしれないけど、人は変わっていくし、いつかは死ぬ。
寺地はるなさんの新作『雫』は、同級生4人の過去30年を遡りながら、永遠とは何か を問いかける物語だ。
よくあるフィクション小説で描かれるような、厚い友情で結ばれた4人...という訳ではない。境遇も性格もまるで違うけれどお互いに相手をそれとなく気にかけている。世の中ではこのくらいのあっさりした友達関係の方が多いのではないだろうか。
リフォームジュエリーのデザイナーを仕事とする珠(たま)。お客が持ち込むジュエリー(宝石)は、ただの『もの』ではない。記憶、思い入れ、あるいは願い。リフォームによって形は変わっても、そのジュエリーに込められた思いは延々と引き継がれていく。
珠の同級生、森は職場でパワハラに遭い、退職を決意する。職場でも学校でも合わない人というのはどの世代においても一定数いるものだ。
他の人にとっては良い人であったとしても、自分にとってはそうでないこともある。そしてそのような場合、なぜ良い関係を築けないのかと自分に原因を探しがちだ。優しく真面目であればあるほど自分で自分を追い詰める。彼もそんな1人だ。
リフォームジュエリーの経営者である、高峰。
見た目がよくて富裕層の彼は、昔からの人気者だ。しかし、次第に家庭に息苦しさを覚えるようになっていく。
家庭の事情で遠い親戚にあたる高峰家に預けられたしずく。彼女は中学卒業後、地金加工の修業をし、手に職をつける。口数が少なく感情を表に出すことは稀だ。この物語のキーパーソンとなる人物。
この4人と、彼らを取り巻く人々との人間模様は30年もの歳月をかけて、読者自身の過去をも見つめさせる。
誰かのことを案じ、幸せを願うのだとしたら、その人に伝えるべきメッセージは何なのか。
何かが終わって、なにかがまた始まる。
寺地はるなさんの作品はこれまでも心の深いところで共感するものばかりだ。
そして今作の『雫』のラストはなんとも清々しく、新しい一歩を踏み出したくなる、そんな1冊。
あの日のことは忘れないよ
しずくの小惑星の真ん中で
流れるまんま 流されたら
抗おうか 美しい鰭で
壊れる夜もあったけれど 自分でいられるように
スピッツ『美しい鰭』