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幽霊塔〜江戸川乱歩と黒岩涙香
先日、フォロワー様の読了記事を読んでいたら、ふと「この本、読んだことがある」感覚を覚えた。
懐かしい記憶を辿る。子ども向けとは思えない衝撃的に恐ろしい挿絵と『ゆうれい塔』というおどろおどろしい題名に怯えつつ、当時何度も開いた分厚い児童書。
小学生のころ、家にあった少年少女世界の名作文学を片っ端から読んでいた。かなり古いシリーズで、なぜうちにあったのかわからないが1冊にいくつも物語が入っていて、おやつを食べながら読むのが極上の楽しみだった。今思うと、本が汚れそうで怖いのだが仕事で忙しかった母に咎められることもなく、自分の読書習慣はここから始まったのだと思う。
さて、その『幽霊塔』だけれど、フォロワー様の読まれていた江戸川乱歩版を読んでみた。
微妙に登場人物の名前が記憶と違う。普段読んだ本のことはよほど印象に残らない限りすぐに内容を忘れてしまうにも関わらず、『幽霊塔』に登場する2人の女性の名前はおぼろげに記憶の引き出しにしまわれていた。
『秀子』と『浦子』(黒岩 原版ではお浦となっている)
私が読んでいたのは黒岩涙香の作品だったようだ。ちなみに今では青空文庫で読めるけれど、なかなか難しい表記もあることから、読んでいたのは児童向けに読みやすく編集されたものだと思う。
なぜ作者が違うんだろうと不思議に思って調べたら、元々『幽霊塔』はアメリカの女流作家アリス・マリエル・ウィリアムソンの『灰色の女』を基にした作品ということである。
それを黒岩涙香が『幽霊塔』の題名で翻案。そしてその後、少年時代に涙香ファンであった江戸川乱歩がそれをリライトしたのだという。
物語の舞台はある田舎町の西洋屋敷。そこにある時計塔は初代持ち主の大富豪が巨万の富を隠すために建てたもので、あまりに複雑な構造ゆえ、隠した本人がそこから出られず死んでしまう。
その後の持ち主の老女も、何者かに襲われた際、犯人の手の部分を骨へまで食いちぎり肉片を口の中に咥えたまま殺されるという壮絶さ。やがてその時計塔には幽霊が出るという噂がまことしやかに近隣住民から囁かれるようになるのだった。
それから時を経て主人公の叔父である元判事がこの時計塔屋敷を買い取ることになる。そこに現れる魅惑的な謎の美女、その手に常にまとう不可解な長い手袋....老女殺し犯人の正体に刻々と迫っていく緊張感。暗号に隠された財宝の行方、おびただしい数の蜘蛛が蠢めく養蟲園の悍ましさ....。
そして主人公と謎の美女と元婚約者の間で生じる愛憎劇にもハラハラさせられる。
『幽霊塔』は身の毛がよだつ不気味な展開のうちに予想外の真相へといざなわれる、謎解きロマン満載の物語なのだ。
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何度も読んだはずなのに、肝心の誰が犯人なのかを全く覚えていなかった私は、長年かけてようやく結末に辿り着いたような心地になる。大人になってこの物語とこんなふうに再会する日が来るとは.....。
物語はどこで繋がっているかわからない。読書の醍醐味はこんなところにもあるのかもしれない。
少年少女名作文学に掲載されていた『ゆうれい塔』については、先日の引越しの際に全て処分してしまったため読み返すことができないのがとても残念だ。やはり本は古くてもとっておくものだとつくづく後悔した。
(もしも手元に持っていらっしゃる方がいれば、それが黒岩涙香自らの編集であったのかぜひ教えてください)
最後に、この物語との再会の機会をくださった方に心より感謝を伝えたい。
〜今から60年前、僕は『幽霊塔』に出会った。
ものすごく面白かった。怖くて、美しかった。
歯車やロマンスにあこがれ、それが種となり、
僕は『ルパン三世カリオストロの城』を作った。
宮崎 駿
幽霊塔 / 江戸川乱歩#読了
— ゆい@📚️ (@yui55230) December 28, 2024
時は大正、人力車走る時代に九州長崎の洋館『幽霊塔』で起きた事件。
私の好きな要素満載でした。
謎の美女、無残な死体、隠された部屋、謎に導かれて読む手が止まらず一気読み。
濃厚ミステリー。 pic.twitter.com/fLRipTHB3L