モーツァルトの演奏に個性は不要か ノット/東京交響楽団の古典派プログラム
東京オペラシティで、東京交響楽団の東京オペラシティシリーズ 第142回を聴いた。
リゲティ:ヴォルーミナ
ハイドン:チェロ協奏曲 第1番 ハ長調 Hob.VIIb:1
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第9番 変ホ長調 K.271「ジュノム」
指揮:ジョナサン・ノット
オルガン:大木麻理
チェロ:伊藤文嗣(東響ソロ首席)
ピアノ:務川慧悟
昨日に続いてのオペラシティ。連日コンサートに行ける財力があるわけではないが、「芸術の秋」ゆえにめぼしいコンサートが重なってしまった。
今日のプログラムを知ったときはびっくりした。ハイドンとモーツァルトの2曲が大好物だからだ笑
私が一番好きな食べ物はお寿司だが、洋食も好きで、コロッケ、オムライス、グラタンが特に好き。
洋食屋さんに行ったらその3つのセットがあったくらいの驚き。「誰のためのコンサート? 俺やん?」って感じ😅
さて、今日のコンサートの満足度を5点満点でいうなら、リゲティとハイドンは5、モーツァルトは1。それくらい対照的な感想だった。
まず、リゲティ。
トーン・クラスターは実際聴いてみるまでどんな感じかわからなかったが、最初の音からものすごい圧でびっくり! パイプオルガンのイメージが変わった!😆
バッハはこのような使い方は想定していなかっただろうし、これこそ演奏法や作曲の進化、深化だと感じた。
16分程度の曲だが、その間、パイプたちが意思をもった有機体のようにも見えてきて、これは映画「2001年宇宙の旅」で人間に牙を剥くHAL 9000やないか!と思ってしまったり😅
毎回アホな感想ばかりだが、他の真面目系コンサートレビューでは読めないぶっ飛んだ発想力がウリ?😂
後半は蝉時雨っぽい響きもあったりして、近くの人は退屈しきってたけど、私は非常に面白く聴いた。大木さんブラボー!(聴くのは3回目)。
さて、次はハイドンのチェロ協奏曲第1番。
大好きな曲なのでずいぶんたくさんのCDを聴いたが、最初に聴いたデュ・プレ盤が今もって最高。
陽光を浴びながら草原で弾いてるかのような奔放さ。こんなに元気をもらえる演奏は稀。
今日の伊藤さんはソリスティックな丁々発止ではなく、首席奏者ならではのオーケストラと調和したスタイル。
それだと物足りなさがありそうだが、伊藤さんの音色は瑞々しい若さがあり、ノットの伴奏も快活な躍動感があった。響きの美しさや潤いが絶品で、不満は感じなかった。
ノットの解釈で唯一アレっ?と思ったのが、第1楽章の第1主題で弦楽がレガートに聞こえる箇所があり(繰り返すときも同様)、そこだけ初めて聴く弾き方だったので驚いた。
他はいたって正攻法。とはいえ、平凡なオーソドックスに陥らないのがノットである。
古楽器でこの曲を演奏すると、音が痩せたり骨ばったりするのが気になる。かといって、編成が大きいモダン楽器だと厚ぼったくなる。
ノットはモダン楽器の長所であるビブラートを豊かに響かせつつ、すっきりしながらも痩せすぎない絶妙なバランスにしていた。名人芸だ。
さて、ハイドンのアンコールはバッハの無伴奏(第3番クーラント)。
これは私には物足りなかった。ハイドン同様抑えたスタイルだったが、バッハをソロで弾くなら圧倒的な個性(に連なる意気)がほしい。
後半の「ジュノム」はまったくいいと思わなかった。
CDで曲を覚えて耳コピして弾いてる人の演奏に聴こえた。務川さんがこの曲をどう表現したいかがさっぱり感じられず、楽譜の表面をなぞっているだけに聴こえてしまった。
テンポや強弱などの表現がことごとく予想の通りに進むので、人によっては安心感を得られるのだろうが、私などは「CDで聴くような演奏だなぁ」と思ってしまう。
第2楽章のアンダンティーノも、私の感覚からすれば速すぎる。動く歩道に立ってるみたいに感情があれよあれよと運ばれてしまう。
とはいえアンダンティーノってアンダンテより速いから、今日くらいのテンポが適切なのかな。
没個性な務川さんの弾き方はノットの指示?と一瞬思ったが、伴奏の方がはるかに雄弁だ。ピアノだけがのっぺりしている。
モーツァルトは変に楽譜をいじるべきではない、とは思う。ただそれは、何の工夫もなく楽譜通り弾けばいいというものではないだろう。
聴いてて「務川さん、この曲好きなのかな?」と感じてしまった。
昨日バッティストーニの「夜の歌」で、《曲に対する共感とはこのようなものか》を痛烈に感じすぎたせいもある。
務川さんの演奏は真っ白なキャンバスに独創的な油彩を描いていくのではなく、すでに描かれたイラストに色を塗る「塗り絵」のようだった。
つまり、既知のもの(既知の演奏、既知のイメージ)をなぞって聴衆に提示しているだけなのだ。
私が今日のリゲティを面白く感じた理由のひとつがその予測不可能性だが、務川さんの「ジュノム」はどうも刺激に乏しくのっぺりしたものに私には感じられた。
ただびっくりしたのは、第3楽章のカデンツァが終わったあたりからピアニストの雰囲気が変わり、指揮者やオケを挑発するような弾き方やタメを見せたのだ。
最後くらいは派手にやってやろうと吹っ切れたのか知らないが、あのノリで全曲やってほしかった。
ノットと火花飛び散る丁々発止なら、さぞかしスリリングだっただろう。実際はハイドンの伊藤さんのスタイルの延長。
室内楽風のハイドンはそれでよくても、「ジュノム」はピアノのウェイトが大きいし、作品の規模も大きい。
「推しに散々文句つけやがって!😡」と怒られそうなので、私の好きな「ジュノム」を挙げます。
ジャズピアニストの小曽根真さんが宮崎国際音楽祭で、デュトワの指揮で弾いた「ジュノム」(最後のインタビュー映像も面白いです)。
小曽根さんはこの曲が大好き(十八番)で、ジャズのビッグバンド用にアレンジして、録音(弾き振り)もしている。
この動画の演奏はカデンツァが完全にジャズになってたり、まさにやりたい放題だが、作品を損なっているとはまったく感じない(少なくとも私は)。
小曽根さんは個性的な演奏で自分をアピールしているのではない。むしろ、モーツァルトの天才性を何十倍も引き出しているように感じる。
これは誰にも真似できない強烈な「ジュノム」だ。クラシック畑のピアニストと比較するのは無理があるかもしれない。
しかし私は、務川さんにもっと自分の個性や音楽性を曝け出してほしかったのだ。ノット、いや、モーツァルトに遠慮してしまったのではないだろうか。
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