心療内科の問診票

心療内科新患の問診票はたいていハエの頭みたいな小さな字でこまかーく症状や経過が書かれている。文字が小さくなると言うのはその人の心のエネルギー、つまり心気が虚しているからと私は思っていて、「問診票が心気虚」と弁証する。



しかしいざ堪えに堪えたものが爆発して飛び込んでくる人は、文字も爆発している。顔真卿の祭姪文稿(さいてつぶんこう)みたいな問診票。心療内科やりながら祭姪文稿を覧ると「顔真卿、えらいことになってるな」ってのはすぐ分かる。つかあの文字を覧たら中国語が読めない人でも「この著者は何か大変な目に遭っている」というのは感じるだろうけど。問診票がが肝風内動。



要注意なのが中高年男性だ。彼らの問診票は簡潔だ。



「頭痛」。



本人を診察室に入れると「10日前から頭痛がします」。



これにSG顆粒を出して帰してはいけない。頭痛は今回初めてですかとか、夜眠れてますかとか、当たり障りのない問診をしながら探っていく。はあ、時々頭痛があるんですね、あんまりよく眠れないんですね、と頷きながら「10日前ってのは、なんか変わったことありました?」



それでもこの人たちは言わない。



「いやー、特に変わったことは」



そうですか。お仕事とか家庭で特にお変わりなかったんですね。



ここで私は相手の目を一瞬見る。前にも言ったがまじまじと患者の目を見るというのは賢くない。患者は避ける。しかし相手の懐に「ぽん」と飛び込むときは一瞬相手の目を見る。そうするとこの人々は仰天するようなことを言い出す。



「いや、別に特にって訳ではないんですが、娘が年末に入院しまして」



それはそれは。どうなさったんですか?



「脳出血らしいんです」・・・。 



おとーさん!!!



それでやっと事情が分かるのだ。ここまで知れば誰しもSG顆粒ではダメと分かるんだが、ここまでたどり着くのが大変。いや、かなわんですな、ああいう諸兄は。

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