岩崎鋼

漢方を使う高齢者医療専門の医者

岩崎鋼

漢方を使う高齢者医療専門の医者

最近の記事

生薬の量の話

漢方薬で使われる生薬の量は古典では当然昔の度量衡で記載されています。例えば葛根湯は傷寒論(しょうかんろん)という本が原典ですが、 葛根(四兩)麻黃(三兩,去節)芍藥(二兩)生薑(三兩,切)甘草(二兩,炙)桂枝(三兩,去皮)大棗(十二枚,擘)からなり、これを一斗の水で煮て、二升まで煮詰めろとあります。 傷寒論という本は何度か書き直されていますが、一応後漢末期に最初に書かれたという事になっています。今では中国の色々な時代の度量衡はおおよそ推測されており、漢代の度量衡も判明して

    • オミクロン株に対するコロナワクチンの感染予防効果及び重症化予防効果について

      最初にコロナワクチンが開発され、その効果についての臨床治験結果が論文として発表されたときは、世界中の医者が腰を抜かすほど驚きました。なぜなら「感染予防効果95%以上」という数字を叩きだしたからです。 感染予防効果が95%以上もあるワクチンなどと言うものは、未だかつて存在しませんでした。例えば、インフルエンザワクチンのインフルエンザ感染予防効果は年によって違いが出るのですが、ざっと10年ぐらいを平均すると40%程度です。しかしそれでも「インフルエンザ感染を40%も低減出来る他

      • 金の神様

        今日ある患者さんと「金の神様」の話になった。無論詳細は伏せるが、私はその患者さんに「佐藤さん(仮名)、エホバがいるかアッラーがいるかは分からないけど、金の神様だけは本当にいますよ。でも神様なんだから、当然毎日あがめ奉って上げ膳据え膳しないと、神様はいなくなってしまうんだ」と言った。 患者さんはしばらくあっけにとられていたが、やがて私の言葉の意味が分かったらしく、最初はクスクス苦笑いを始め、やがて破顔一笑して診療が終わった。 その人に何故金の神様の話をしたのかは当然書かない

        • 大腸癌検診が無意味である理由

          統計によると、日本人は男性では10人に1人、女性は13人に1人が大腸癌になるそうです。しかし大腸がん検診で陽性になった人の少なくとも5割は大腸癌だから、大腸がん検診を受ける意味はある、と偉い先生方は言います。 しかし、私はそういうふうには人生を考えません。私は極たまたまゲイでした。そして極たまたま両親が自分が12歳の時事実上離婚し、極たまたま東北大学医学部に受かり、極たまたま60年の人生で7人を自殺ないし不審死で見送り、極たまたま親友を53歳で大腸癌で見送りました。そして極

          仕事の整理法

          一枚の、まあA4ぐらいの大きさの紙を用意します。そしてその紙を、縦線と横線で4区画に分けます。 縦線には上向きの矢印、横線には右向きの矢印を付けましょう。縦線は「仕事の重要度」を表し、横線は「緊急性」を表します。つまり、上の右のますは「重要で緊急」、上の左のますは重要だが急ぎではない、むしろ時間を掛けてゆっくり取り組んだ方が良いことです。下の右のますは急ぎだが重要では無い事、例えばクライアントがわーわー言ってきているが内容的には重要ではない、と言うようなことです。そして下の

          仕事の整理法

          何故殺さないのか?

          「何故殺さないのか?」 ものすごいタイトルで話をします。 今日、私の共済組合分の年金の通知が届きました。9年あまり、標準報酬月額が73万円で、それに基づく年金額が一年で35万だそうです。65歳からであれば43万円だったが、60歳から受け取るから差し引いて一年35万だそうです。 月々の標準報酬月額73万円が9年あまり。それに基づく年金額が一年で35万なのです。 質問します。何故日本人は、こういう年金制度を運用している国の役人や政治家を殺さないのでしょうか? 殺すという

          何故殺さないのか?

          「膿胸の想い出・・・上司の評価なんか当てにならないという話」

          とある老人病院に勤務していたとき、患者が肺炎になった。老人病院に入院しているような高齢者が肺炎を起こすのは日常茶飯事なのだが(大抵は誤嚥性肺炎)、その患者の肺炎はどうも様子が違った。抗生物質を連日注射しても高熱が続く。そもそもフレイルな(体力が弱った)高齢者の肺炎は、そんな高熱は起きない。一日熱が上がっても、すぐ下がってしまう。熱が下がったから肺炎が治ったのかというと、そうではない。要するに身体の免疫応答が細菌感染に負けてしまって、発熱出来ないのだ。 ところがその人は、抗生

          「膿胸の想い出・・・上司の評価なんか当てにならないという話」

          悟りと診療

          私は今日、悟りに達した。実は私は自分のあゆみ野クリニックで頻繁に悟りに達している。 なんて言ったら、お前は馬鹿かと人は言うだろうが、それはこう言うことだ。 私は一週間ほど前から、右下の奥歯、大臼歯の痛みでもだえ苦しんでいる。木曜日に歯医者に行ったら、大臼歯の歯根部に感染が起き、炎症が起きているという診断だった。激痛なのだ。それで歯医者でかぶせ物を外し、歯根部の神経が通っている管をぐいっと広げてそこに生じている感染部位をやっつけ、消毒剤を入れて仮蓋をしている。しかし今日、ま

          悟りと診療

          甲状腺疾患

          実は今石巻には甲状腺の病気をちゃんと診る医者がおらず、みんな困っています。 数ヶ月前まで、石塚内科の石塚先生が甲状腺疾患を診ておられました。石塚先生は元々石巻日赤で消化器内科を担当しておられたのですが、石巻には甲状腺の病気を診る医者がいないということを患いてご自分で勉強され、甲状腺疾患を診療されていたそうです。 ところが数ヶ月前石塚先生がまだ60歳の若さで早逝されてしまい、石巻には甲状腺疾患を診る常勤医がいなくなってしまいました。最近市立病院に週に一日専門医が仙台から来て

          甲状腺疾患

          冬虫夏草、伝統医学を検証するという事

          私は漢方薬を「きちんと科学的に」検証する仕事をやってきました。30歳ぐらいで社会人になってから60歳まで、30年はそれをやってきました。 真実というものは、かなり多くの人々にとって、都合が悪いのです。漢方薬の効果が科学的に証明出来るという事は、ある種の漢方薬は従来言われているような効果はないという事も証明出来るという事です。両者は裏腹です。だからこそ「漢方の名医」などと言われる連中は、漢方薬の科学的検証を嫌うのです。 例えば、漢方には「補う」という治療法があります。黄耆や

          冬虫夏草、伝統医学を検証するという事

          高齢者の安全な薬物治療ガイドライン2015

          ある方から、「人生で何がいちばんつらく情なかったか聞かせて」 と質問されました。私の60年の人生で辛く切ないことは山のようにありました。しかし個人の昔話を連ねたってあまり意味は無いでしょう。今多くの人に語るべき「辛く情けなかったこと」は、無論私の仕事のことです。これは、語り伝えるべき逸話です。 それは、私が漢方・中医学(中国伝統学を中国政府が整理統合したもの)を科学的に研究しようとしたら、前後から弾が飛んできたことです。前、つまり西洋医学から批判を受けたのは別に驚きません

          高齢者の安全な薬物治療ガイドライン2015

          伝統的日本食は健康によくない

          「日本食は健康によい」というのは、何故か世界常識になりつつあります。しかし純然たる日本食は、決して健康的な食習慣ではありません。 純然たる日本食しか食べないとしたら、少なくともビタミンB群、鉄、亜鉛、必須アミノ酸が決定的に不足します。ビタミンB群については明治時代の「脚気論争」が有名です。つまり、白米しか食わなければ日本食ではビタミンB群は摂取出来ないから、脚気になります。脚気って最近の若い医者は殆どみたことが無いでしょうが、今でもアル中で酒だけ飲んで食事はほとんど摂らない

          伝統的日本食は健康によくない

          寺澤捷年先生

          最近新見先生が私のことをあちこちで「岩崎鋼こそ日本の漢方界で最初に臨床医学分野で科学的な研究を始めた先駆けだ」と持ち上げているそうです。と言うか、御本人からそう言っているという話を聞きました。しかしそれは違います。 日本の漢方界で、最初に科学的な研究を始めたのは、基礎では丁宗鐵先生、臨床では寺澤捷年先生です。丁先生は私の直接の師匠のお一人です。今はご病気をされて引退なさっていますが、あの方は基礎の立場から本当に漢方を研究し、英論文として世界に発表するという事を始められました

          寺澤捷年先生

          ブランデンブルグ協奏曲の想い出

          バッハに「ブランデンブルグ協奏曲」という名曲があります。6曲からなる合奏協奏曲で、曲毎に主役を務める楽器が変わります。しかし実は6曲とも、裏でチェンバロが鳴っています。 このチェンバロは、はっきり聞こえては駄目なのです。あの曲のチェンバロの役割は、ぶっちゃけメトロノームです。リズムを刻むわけです。しかもメトロノームと違って、曲想に合わせて絶えず上手にリズムを揺らします。指揮者の代わりと思えば良いでしょう。指揮者本人は一切何の音も出しませんが、大編成の曲になればやはり指揮者が

          ブランデンブルグ協奏曲の想い出

          ウクライナ戦争の戦犯は誰か

          私は昔からロシア世界(ルースィ)を長く学んできたものとして、ロシアとウクライナが戦争をするなんて、ものすごい悲惨なことだし、あってはならないことだと考えています。無論全ての戦争は悲劇ですが、ロシアとウクライナが戦争をして殺し合うってのは、家庭内の争いが戦争になり、一つ家の家族が殺し合っているという事ですから。それはものすごく悲惨なことです。 しかし、それが非常に悲惨で、従ってどうにかしてこの悲惨な戦争を止めさせなければならないという視点に立てば、「いったい誰が元は一つ屋根の

          ウクライナ戦争の戦犯は誰か

          東北大学漢方内科

          裏千家だかなんだかの家元が、大学で講義をしているそうだ。ところが彼が講堂に入っていっても、学生は知らん顔。私語はするわ、スマホをいじくるわ。それで家元はカチンときて、 「君たちは学問をする志があるのか!」と怒り、それ以来講堂に入ると自分で「起立!礼!」と言うことに決めた。 というインタビュー記事を読んで私が感じたのは、それはその大学のレベルが低く、かつあなたの講義もつまらないからじゃないの?と言うことだった。 文科省が「医学部で漢方を教えろ」と言い出したとき、あちこちの

          東北大学漢方内科