パスタの話
今日の夕食はパスタでした。それでウチの相方が「ゆで加減はどうか?」と訊いたので、若干柔らかいかな、と答えたのです。
近頃シェフはイタリアで修行しました、と言うようなイタ飯屋、もといリストラーンテに行くと、パスタの茹で加減は私の感覚では「ん?ちょっと芯が残るような」という感じで出されます。あれが今のイタリア人が言うアルデーンテなんでしょう。
むかし学会出張でニューヨークに行きました。20年以上昔のことだから白状しちゃいますが、学者の海外学会出張って、基本観光旅行です。学会は自分の演題を発表したらさっさとおさらば。
それで、ニューヨークでザガットサーベイという、今の日本で言えば食べログみたいなので高評価だったイタリア料理屋に行ったんです。ところがそこのパスタが、はっきり言えば味噌煮込みうどんだった。いや、名古屋の味噌煮込みうどんは美味いです。私は好きです。しかしその店は、パスタはじっくり煮込むもの、と確信しているとしか思えませんでした。食べていたら店長らしき人が来て、当店のパスタは如何でしょうかと言うので仕方なくアルデーンテと答えたのですが、味噌煮込みうどんだった。
ところが、ウチの相方はヨーロッパ文化史に詳しいのですが、さっき相方のパスタを食いながらそのニューヨークの味噌煮込みうどん式パスタの思い出話をしたら、「いや、ドゥオーモが作られた当時のフィレンツェでは、パスタはとろとろに煮込むものだったよ」というのです。ルネッサンスの頃です。形がなくなるほど煮込んだパスタが大人気だったそうで、とするとあのニューヨークの店はルネッサンス当時のパスタを再現していたものか・・・。
ちなみにイタリア人がフォークを始めて目にしたのは11世紀、後にヴェネツィア総督になったドメニコ・セルヴォの元にビザンチン帝国から妃を迎えた席だったんだそうです。祝宴の席に料理が運ばれると皆一斉に手づかみで食べ始めたんですが、ビザンチン帝国から来た姫君はやおら金のフォークを取り出して食べ始め、一同目を見張ったとか。その頃のイタリアというか、ヨーロッパでは上流階級も飯は手づかみだったんですね。パスタも当然手づかみで食べていたんですが、ずっと後になってイタリアのどこかの国がフランス王家から姫を迎えた時、手づかみというのはどうも体裁が悪いというのでフォークを使ってみた、しかし当時のフォークは串が三本だったのでパスタにはイマイチ使い勝手が悪く、それで今のような四本串のフォークが考案されたってのは、すいませんどこかで読んだようなうろ覚えの記憶です。ビザンチン帝国の姫君が、と言うところまではちゃんと資料が手元にあります。
なお余談ですが、イタリア語の料理屋という言葉はリストラーンテ、オステーリア、トラットーリア、エノテーカと色々あります。この順に格式が高いとなっているんですが、フィレンツェのエノテーカ・ピンキオーリに行って「エノテーカだから気楽でいいんだろう」と大面ったら大変な目に遭います。あれは超が三つ着く高級店ですが、初代がエノテーカで始めたのでずっと店名がエノテーカのままなんだそうです。
ま、この辺で。