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【校閲ダヨリ】 vol.76 言葉の力

みなさまおつかれさまです。

とうとう、年一回の更新になりつつありますが、それが現在の私の身の丈に合ったペースかなと思っています。

初頭五餅校閲事務所を起こしてから、全て一人でやっておりますので、目の健康やワークライフバランスを考えると、
「釣りに行きたい」気持ちはないがしろにできないのです。(笑ってください)

2023年のベストフィッシュ(釣り方、サイズの総合点で選定)


幸い、言葉が廃れたり、言語事項の潮目が変わるまでには多くの時間を要しますので、いままでの記事もしばらくは問題なく使えるでしょう。
たくさんあるので、字引き感覚で都度役立てていただけますと幸いです。


さて、今年もいろいろなことがございました。

年の始まりの風呂修理(古民家に住んでいます)、釣り場でできた新しい友人との交流(とてもきれい・安全とは言えない池で泳ぎだす中学生を叱ったことも)、愛犬との別れ、トイレ修理、エアコン修理、炊飯器故障、祖母の手術など、人間(日本特有のものかもしれませんが)がいわゆる「快適」に過ごせる環境の幅だったり深さだったりは、針の先ほどしかないと実感し続ける一年でした。

同時に、世界では筆舌に尽くしがたい凄惨な事態が各地で発生しています。
言葉がもつ力」とよくいわれますが、それすら及ばない、暴力が支配する世界。
言葉の力とはなんなのか、真剣に再考する一年にもなりました。


言葉がもつ力

私を含む、出版や広告、マスメディア関係に従事する人には特に、「言葉には力があると思っているんでしょう?」という世間的なイメージがついてまわると思っています。
確かに、私の周りにもそういう人は多いし、「そう思わなければやっていられない」という人もたくさんいるかなと感じます。

私ももちろん、言葉が持つ力を信じたい一人ではありますが、この一年で(5年前くらいから徐々に)「単に“力”とは言えないのかもしれない」と考えるようになりました。
」とは、そのものがほかのものに及ぼす影響、働きのことを指しますが、言葉の場合はどうでしょうか。



・誰かが言った(書いた)言葉や文章に心を動かされる、考えさせられる。

・ブランドのタグラインや商品のキャッチコピーに目を留めたり、感心したりする。

・座右の銘を決める。



こんな場面で、言葉の力を感じるのではないでしょうか。

しかし、現在の私の考えは「言葉はツール」です。
美容師が使うハサミや、料理人が使う包丁、学校の先生が使うチョーク、オフィスワーカーが使うPCといったようなツールです。

なぜか。

言葉は「発する者」がいなければ「画竜点睛を欠く」状態だからです。
そして、言葉が力をもつには、「発する者の属性」が大きく関わると感じています。

たとえば、あなたのことを何も知らない人が発した言葉と、あなたのことをよく知る人が発した言葉では、どちらの影響力が強いでしょうか。
言わずもがな、「よく知る人」でしょう。
よくある偉人の言葉が私の心に刺さった試しはあまりないですが(孔子など、「本質を捉えているな」と感じることはあります)、みなさんはいかがでしょうか。
しかしまた、「同じ業界の偉人の言葉」であれば刺さるという経験はないでしょうか。
映画や小説など、後半に「泣かせる言葉」が増えるのは、前半でその人物の人となりを知っていくからこそかもしれません。


言葉の力は「受け手次第」

このように考えていくと、言葉の力は「受け手次第」ともいえるように思います。
受け手次第で、その人を支える言葉にもなれば、余計なお世話になる言葉もある
「頑張っているのに『頑張れ』といわれるのはつらい」人もいらっしゃるでしょう。

相手のことをよく知り、状況がわかり精神状態も想像できるからこそ「何も言わない」で寄り添ったり、待ったり、ただ抱きしめたりするほうがよほど沁みるという場合もありますよね。

私は大学時代に言語学をやり始め、数年間はおしつけがましい「言葉の力」を発散していたように思います。
人生経験を重ね、より言語学の本質を知るようになり、校閲者となって「言葉はツール」だと捉えるようになってから、「何も言わない」選択がしやすくなったように思います。
(何も言わない場合はノンバーバルコミュニケーションのもつ力が表に出てきます)


祈り

祈り」とは不思議なもので、誰がどうなってほしいのか具体的なところは「言葉で考えているけれど、多くの場合口には出さない」。
「あなたのお子さんが大病せずに、勉強をたくさんしたり好きなことに熱中したり、恋をしたりしながら立派に成長してほしい」と事細かに祈りの内容を言葉に出している人を見たことがありません。
それは「恥ずかしいから」ではなく、相手や自分のことを真剣に思いやっているからこそなのではないでしょうか。
「心から祈る」と言わずとも、祈りは「心から」なのです。


最後に

本年も、たくさんの方にお世話になりました。
みなさまの健康と発展をお祈りし、歳末のごあいさつとさせていただきます。


2024年も「初頭五餅校閲事務所」をどうぞよろしくお願いいたします。



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