【校閲ダヨリ】 vol.52 NIE(Newspaper in Education)について、元教員の視点から考えてみる
みなさまおつかれさまです。
今回は、近頃私が気になっているNIEについて書いてみようと思います。
NIEとは、Newspaper in Educationのイニシャルをもじった呼称で、「新聞を使った教育活動」のことを指します。
何をいきなり教育のことについて素人が語るんだよ。
と思われても残念ですので、プロフィールにも載せてはいますがあらためて申し上げますと、私は校閲者として働き始めるまで数年間、公立中学校の国語科教員として教鞭をとっていた過去があります。(中学校国語・社会、高等学校国語の免許を持っております)
残念ながら教職を続けることは叶いませんでしたが、現在でも教育に関する情報収集はしており、校閲や出版という仕事を通して、現場の先生方を応援したいという思いは少なからずあるのです。
さて、そんなわけで今回のテーマですが、広い視座での教育活動を意図しておりますので、対象は現場の先生方にとどまらず、ご家庭でのお子様の教育活動に生かしていただいたり、職場での新人教育の一環として取り入れてみても一定の効果が期待できるかと考えます。
NIEという言葉を初めてお聞きになり「各新聞会社が自分たちの業界を廃れさせないように画策して起こした運動なのでは?」と思う気持ちはよくわかります。実際にそれを否定できるだけの根拠はどこにもありませんが、「そこそこ歴史がある活動である」ということはいえるかと思います。
アメリカでは1930年代からスタートし、日本では遅れること1989年に活動が始まりました。
世界80カ国以上で行われていることを考えると、やはり教育的効果も相応にあることが見て取れるわけです。
新聞のメリットって何? テレビやネットがあれば要らないんじゃない?
確かに、「テレビやインターネットなど情報インフラが発達した現代において新聞は不要」という意見も多く聞かれますよね。
日本新聞協会の調査では、20年前に比べ1世帯あたりの部数はおよそ半減しており、発行部数は1800万以上も減少しています。
情報の即時性という観点では、確かにテレビやインターネットに遠く及びませんが、私個人としては、新聞にはこんなメリットがあると考えています。
・一つのニュースにかける文字数が圧倒的に多い
・良質な文章
・よりどころとして機能する情報
・受け身の姿勢でも、幅広い分野の情報が得られる
それぞれ説明します。
・一つのニュースにかける文字数が圧倒的に多い
ご存じの通り、新聞は紙で出すことが基本なので、レイアウトが存在し、文字数も有限です。しかし実際に読んでみると、一般的なウェブニュースやテレビニュース(テレビの場合は文字数というより割いている時間といったほうがわかりやすいかもしれません)とは比較にならないほど、読むのに時間がかかります。1記事あたりの文字数が多いのです。
ウェブ記事には基本的に文字数の制限はありませんが、あまり長すぎると読んでもらえなくなる傾向が高いといわれており、各社適当な長さで文章を閉じているものと思われます。テレビは基本的にタイムスケジュールの中で動いていますし、コメンテーターのコメントの時間も必要なので、純粋なニュースの時間はそれほど多くありません。文字数が多いほど、伝えられる情報が濃く、多くなるのは言わずもがなでしょう。
・良質な文章
内容を抜きにして、非常にきれいな文章です。きれいというのは「誤字脱字がほぼない」ということはもちろんですが、使用語句、「起承転結」といったマクロ構造、助詞(てにをは)助動詞などミクロ構造、どれをとっても優秀です。
面白い文章かどうかは各自の判断ですが、「そつなく伝わる文章」という点で右に出る媒体はないと思っています。
・よりどころとして機能する情報
これは職業柄なのかもしれませんが、情報によりどころを求めてしまう癖があります。実務においても、「新聞が言っていれば大丈夫」と判断するときが多くありますし、ウェブ記事に対して精度も高いと考えています。
テレビニュースも基本的には通信社からの情報をもとに発信されていますので、この点においては問題ありませんが、さかのぼりがしづらいというデメリットが存在します。資料として添付する際にも新聞は便利です。
・受け身の姿勢でも、幅広い分野の情報が得られる
ウェブニュースは、自分から求める情報にタッチする、いわば能動的な姿勢で知識を得る場合が多いと思います。完全にシャットアウトするのであればそれもよいのかもしれませんが、視野は狭まってしまうでしょう。
新聞の場合は一冊(という言い方をしておきます)のなかに社会面やスポーツ面、経済面、地域面など様々なカテゴリがあり、特段望んではいないのだけれどついでに読んでしまうといったことがあります。もちろん、状況に応じて「読まない」ということも可能です。
あくまで個人的に考える新聞のメリットですが、いかがでしょうか。結構あるものですよね。
これらを教育活動に生かしていくのですが、どういった活用をすればよいでしょうか。
NIEの公式ウェブサイトを見ると、各自治体の教育機関の事例集が出てきます。
多く見受けられるのは、「自分が気になった記事を選び感想を書く」「グループで調べ学習、発表会を行う」「ディベート、討論会」などです。
現役教員の頃は、「新聞で授業をしてください」と言われたら、私も飛びつきそうな魅力的なテーマですが、実際の現場を知る人間にとっては、いささかマンネリな感じもします。そのくらい、社会的な教材では採用されやすい授業案です。
ここでは「上記以外で、家庭でもできるNIEを構築しなさい」というお題を出されたつもりで考えてみたいと思います。
1.「1記事しっかり読みますマラソン」
グループワークが使えないとなると、必然的に個人での活動になります。研究授業や公開授業でグループワークを行うと、それだけで子どもたちがいきいきと活動しているように見え、派手で見栄えがするものですが、学習効果はどうかというと「何も考えていない」が半数以上ということがよくあります。リーダーシップをとる子どもが大体のシナリオを構築し、残りはそれぞれ分業で手伝いをする、といった感じです。ベテランで指導力が高い先生はみんなが考えることができる導きをしますが、若手教員にはハードルが高い授業方法でもあると思います。
ひとつ目は「1記事しっかり読みますマラソン」を提案してみます。
自分が選んだ記事でもよいし、指導者(先生でも、おうちの方でも、上司でも)が選んだ記事でもよいとします。
これを、ちゃんと読むだけです。
わからない漢字が出たら、正解を調べ、ふりがなを振ります。(意味も調べられれば、なおよいです)。調べ方は、辞書が望ましいですが、ネット環境があればネットでも構いませんし、それもなければ身近な人に聞くのでも構いません。
とにかく「完走する(読みきる)」ことが大事です。
小説や書籍を一冊読み通すと、それだけで達成感を得られるものですが、新聞というものは1記事だけでもそれが得られます。特に日頃読む習慣がない人にとってはなかなかの苦行かもしれませんが、マラソンがそうであるように、だんだんと癖になっていきます。
相手のスピードに合わせ段階的に深度を深め、最初は「読むだけ」、次第に「感想」、最後は「要約(どんなことが書かれているか)」まで書ければ大団円です。
本案は、読むことへの「面倒臭さ」や「活字に対する苦手意識」を取り去るのを主な目的に据えています。いろいろと効果を盛り込んだ指導案は魅力的ですが、全てが求めるレベルに達することは少ないですし、評価(これは現場目線ですが)も多視点にわたり煩雑になるケースが多いので、ストレートな方法を提案しました。
読むことに慣れてくれば、必然的にそれについて考える余裕が生まれ感想も書けるようになるでしょうし、要約だって夢ではありません。(小中学生はとにかく要約が苦手です)
ここを足がかりとして、次の活動に入っていきます。
今回はひとまず、導入部分のご提案にとどめますね(すみません、長くなりすぎてみなさまの時間を奪ってしまうので)。
読者のみなさんのなかに、これを機に新聞を読んでみようかなという方がいらっしゃったら嬉しい限りです。
それでは、また次回。
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