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高堂つぶやき集。
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2020年5月の記事一覧

もぎたてを求めてチェコの市場を散策していると、そこはかとなく苺が朝陽に照らされ、輝いて映った。考えてみれば、店のすぐ裏手に苺がなっていない限り、もぎたてなんかあり得ないだろうに、あの苺はやけに新鮮であった。人もまたよくもがれるが、それでもなお初心の鮮やかは失いたくないものである。

ふと眼下を眺めると、ネックレスが輝いていた夜があった。眼球が味わえるものなんて微かなのだ。きっとドーハの夜景そのものが或る異性への贈り物で、彼女が睡り、その胸元が輝きはじめたのだろう。夜の帳族。眼帯をして初めて視えるおおきな異星人を私はこう呼んでいる。視えないが故に、私は信じる。

最近、私の周囲には書物を神棚に奉り、手をあわせる方が増えている。神と紙のはき違えだが、木札よりよいと個人的には視ている。「神はいる。いないときでさえも」と云ったのは誰だったか。神の名残りだけでも、人は概して生きていける。本も同じであろう。読書の余韻が人のそびらを押してくれるのだ。

プノンペン郊外に動物園がある。妙な動物園で、バナナを食べずにビールを飲む猿しかほぼいない。過日、檻のそとに出てしまった一匹の猿が、檻をよじのぼり再びなかに入れろと怒っていた。まことの自由を手にいれてもなお、元の牢獄に還ろうとする姿勢は、コロナ騒動渦中の人類と重なるところがある。