うつ病で2ヶ月休職した私が、初期研修を無事2年で修了して思うこと。〜研修医の十の掟〜
最終更新:2024年2月29日、什を十に修正
この度、初期研修を無事修了しました。
実は、私は1年目の時にバーンアウトし、2ヶ月の休職を経験しています。
でも、ちゃんと復帰でき、私が確実に研修を終了できるよう、職場は万全のサポート体制を敷いてくれました。
お陰様で当初の予定通り、無事2年間で修了することができました。
社会人であり、研修医である私の人格を尊重してくれた、今の職場に本当に感謝しています。
当たり前のことかもしれませんが、実はとても難しく、とてもとても大切なことです。
ところで、私が初期研修の2年間、ちゃんとsurviveするために意識していたことがあります。
数えてみると、ちょうど10個ありました。
日本史好きの私なので、会津藩校日新館の什(じゅう)の掟(おきて)を文字って、「研修医の十の掟」と名づけて紹介してみようと思います。
これから研修医になる人へ、そして今研修医の人へ、贈る言葉。
研修医の十の掟
①毎日真摯に学び続けること
毎日、一日一つでも構いません。学び続けましょう。
日々真摯に診療していれば、「これってどうなんだろう?」という疑問(Clinical Question)が湧いてきます。
その疑問をそのままにせず、Up To Dateの「Summary and Recommendations」だけでも読んでみてください。
(多くの臨床研修指定病院が、Up To Dateを契約しているはずです)
そして、経験溢れる尊敬すべき指導医にも質問してみてください。
指導医はそのために存在していると言っても過言ではありません。
一日につき、一つの学び。
学んだことを振り返ってEvernoteなどにまとめていけば、自分だけの参考書が出来上がります。
その積み重ねがかなりの力になるはずです。
それを「成長」と言います。
②目の前の仕事を堅実にこなすこと
信頼を得るにはどうしたら良いか。
それは、目の前の仕事を堅実にこなすしかありません。
看護師さんから頼まれたことは、すぐに現場で必要なこと(指示出し、薬剤オーダーなどなど)ばかりです。頼まれたら最優先で処理しましょう。
看護師さんとも雑談をよくしますが、やっぱり、頼まれたことを迅速にやることは現場で本当に有り難がられます。
そして、「これ、やります!」と宣言したことは、最低限ちゃんと全うしましょう。期日を守らなかったり、そもそもやると言ったことを忘れてしまうのは論外です。
信頼を築き上げるのは大変ですが、信頼を失うのは一瞬です。
③周囲への感謝とリスペクトを忘れないこと
コミュニケーションを大切に、多職種スタッフや他科と協力しましょう。
先にも書いたように、現場を回してくれる看護師さんからの頼まれごとは真っ先にやることです。看護師さんの存在無くして現場は回りません。
感謝をしても仕切れないほど、看護師さんの存在は病院にとって大きいものです。
また、看護師さんはケアのプロであり、薬剤師さんは薬のプロ、PT・OTさんはリハビリのプロ、技師さんは検査のプロ、MSWさんは社会福祉のプロです。
診断と治療のプロである医師ですが、それ以外のフィールドはその道のプロにリスペクトを持って相談しましょう。もちろん、他科のコンサルトの際も同様です。
お互いのプロフェッショナリズムに感謝と敬意を払って仕事をすることは、必ずや、患者さんにとって最適な治療につながるはずです。
④自分のからだと心をちゃんと労わること
どんなに忙しくても、食事・睡眠・休息だけはしっかり取りましょう。
私たち医師とて人間です。空腹、寝不足、疲労はパフォーマンスに悪影響を及ぼします。それで一番迷惑を被るのは、他でもない、自分が診る患者さんたちです。
研修医生活は、毎月ローテーション科が変わり、つまりは周囲の環境も1ヶ月でガラッと変わる、非常にストレスフルな生活です。
それでからだや心に変調をきたすのは、むしろ当たり前だし、正常な反応です。それなのに、「自分が弱いんだ」と思い込み、無理するのだけはやめましょう。
もし、
・寝つきが悪い状態が続く
・食欲がない状態が続く
・体を動かせない状態が続く
・休日もソワソワしてリラックスできない状態が続く
以上どれかに当てはまったら、からだの不調のサインです。
そんな時は無理しないようにし、周囲に相談してみてください。
健全な精神は、健全な肉体に宿ります。(By ウィリアム・オスラー)
⑤困った時に一人で抱え込まないこと
報告・連絡・相談(ほうれんそう)を大事にしましょう。
研修医の後ろには、研修医の診療行為の責任を被ってくれる指導医がいます。その指導医へのほうれんそうは、自分が「やりすぎかな?」と思うくらいでちょうど良いです。
研修医がほうれんそうをせずにやってしまったことは、指導医とて責任が取れません。ほうれんそうをして小言を言われる、と言うこともなくはないかも知れませんが、ほうれんそうをせずに大事を招いてしまい、患者さんが不利益を被ることに比べたら、非常に些細なことです。
ほうれんそうができない新人は、一般企業では上司からの信頼をなくす、くらいで済みます。
でも、ほうれんそうができない研修医ほど恐ろしいものはありません。
なぜなら我々の判断や行為は、患者さんの命を左右するものだからです。
研修医の勝手な自信はすぐに捨てて、指導医へのほうれんそうを徹底しましょう。
そこから良いアドバイスを指導医から引き出せれば、良い研修にもつながりますよ。
⑥臨床は正解のない世界だと知ること
大学までの座学と臨床には、大きな隔たりがあると知りましょう。
今まで、医学部受験や大学のテスト、そして医師国家試験などなど、医師になるまでの人生には「正解ありきのテスト」が常に付き纏っていました。
しかし、臨床には正解がありません。
なぜなら、皆さんがこれから対峙するのは、教科書通りの知識ではなく、個別性を持った人間そのものだからです。
「この患者さんの治療はどうするか」
質問自体はとてもシンプルで、国試ではいつも唯一解があった問題。
実際には患者さんの病状、他疾患併存、生活背景、家族背景、信条などのパラメータがいくつも存在するため、正解は一つではない場合がほとんどです。
正解が一つではないからこそ、悩み、考えなければなりません。
そして、それは真面目にやればやるほど、ストレスがかかる行為なのです。
この意識がないと、臨床に出た時にバーンアウトしかねません(私は気をつけていても陥りました)。
一つの正解を得るのは孤独な戦いでもいいでしょう。
でも、正解が一つではない世界では、一人で戦わず、みんなで最善解を導けば良いのです。それがチーム医療なのですから。
⑦同期と実力の比較をしないこと
研修医である以上、たいてい同期がいるものです。
そして、同期という存在は友人である一方、ライバルとして考えがちです。
「これまでに〇〇症例経験した!」
「今日は〇〇の手技をやらせてもらって成功した!」
同期のこういった喜ばしい成功報告に対して、どうしても自分との実力比較をしてしまいがちです。
でも、他者との実力比較は、精神衛生上、不健全です。
切磋琢磨という意味で、頑張れる人なら良いでしょう。
ただ、そうでないなら、同期と無意味な実力競争はお勧めできません。
自分の成長を考えるならば、比較するのは常に、「昨日までの自分」と「今日の自分」であるべきだと思います。
どうせ、これからの医師人生で(嫌と言うほど)症例も手技も経験するのですから。それなのに、無意味な実力比較で一喜一憂するなんて、馬鹿馬鹿しく思えてきますよ。
同期は同じ戦場で戦う戦友として、良好な関係でお互い支え合っていきましょう。
そして、昨日の自分から少しでも、今日の自分が成長していたなら万々歳です。自己肯定感を持って、研修生活を進んでいきましょう。
⑧世の中の変化に順応していくこと
昨今、AIの進歩が目覚ましいです。
今話題のChatGPT、その非常に高いレベルの文章構成力には、言葉の紡ぎ手として少なからずの脅威を感じています。
これから全く未知の、新しい時代がやってくるのも時間の問題でしょう。
ところで、
「長時間、身を粉にして働くことこそ素晴らしい」
「泥を啜るような経験をしなければ、一人前にはなれない」
本当にそうですか?
それが、本質的なことなのですか?
私が出会ったアメリカのレジデントは皆、オンオフメリハリつけて働いていて、とても楽しそうにしていますよ。
それでいて、日本人の同世代のレジデントに比べたら、雲泥の差がつくほど優秀ですよ。
「死ぬまで働くくらい頑張れ」
そんな言葉は、死ぬ寸前まで頑張って「しまった」人間なら、絶対に言いません。むしろそう言えるのは、そんな辛い経験なんて全然してないからです。
頑張り疲れた人にとって、「頑張れ」と言う言葉は、残酷以外の何者でもありません(安易に「頑張れ」と言うのは、本当に気をつけてください)。
ひと昔前までの、形だけの美学やモラルも、本質的でないものはあっという間に過去の遺物と成り下がるでしょう。
そのようなものにしがみつくのではなく、時代の変化に対して、柔軟に順応していってください。
そして、これからますます台頭してくるであろうAI。
知っている、と言うことなんて、既に何のアドバンデージにもなりません。
いかに考え、いかに使い、いかに動くのか。
人間の真価が問われる時代です。
⑨痛みを知るただ一人であること
医師という職種は、いわゆる「エリート」と定義されるのでしょう。
難関である医学部入試を突破できる実力を持ち、自分の努力で道を切り拓いてきた、一般的には「成功者」に分類される集団だと思います。
私も医師ですが、私はかなり苦労して医師になった背景があります。
強度のHSP(Highly Sensitive Person)故ずっと生きづらさを感じていましたし、東日本大震災で被災し、二浪もし、入学後はせっかく掴んだ留学のチャンスをコロナ禍で失うなどなど、たくさん辛い経験もしました。
そして、研修医になり、バーンアウトを経験しました。
うつ病の診断がついて、2ヶ月休職も経験しました。
でも今は、その経験を経てもなお、「人生は素晴らしいもの」だと、自信を持って言えます。
家族や仲間の支えが無ければ、
尊敬する先生方から教えを受けていなければ、
心の支えというべきものに出会っていなければ、
今の私は存在しません。
つまりは、
自分の努力だけで常に切り拓けるほど、人生は単純でもないし、甘くもありません。
自分が思っている努力の他に、環境、運、縁といったものが無数に絡み合い、人生はできています。
例えば、アルコール依存症の患者さん、自殺未遂を繰り返す患者さんに対して、医師は陰性感情を抱きがちです。
「自分だったら、こんな馬鹿な真似はしないのに」と。
それも、自分の人生を自分で切り拓いてきた、確固たる信念故の副作用ではないでしょうか。
でも、「どこかで一つ違えば、目の前にいる患者はきっと自分だっただろう」という思いを、頭の片隅にでも良いのでとって置いてください。
私たちは、医師である前にまず「人」です。
だからこそ、
「痛みを知る、ただ一人であれ」(米津玄師「M八七」より)
と思うのです。
⑩自分の命と人生を何より大事にすること
どんなに時代が変わっても、
医師の仕事は、患者さんの命と人生を救うこと、です。
そのためには、医師自身が、自分の命と人生を守る、そして充実させることが、とても大切なことだと思っています。
それが、未来に出会う患者さんの幸せにつながるはずだからです。
自分の命を守れないほど健康を蔑ろにする人に、他者の命が救えるわけがありません。
自分の人生をどうでもいいと思っているような人が、他者の人生を大切にできるわけがありません。
一回限りの命を、人生を大切に生きている人は、今までの人生で学び取ってきたことや経験してきたことの数も、深みも違うと思います。
それらは、患者さんという「人」と向き合う上で、知識の面でも、それ以外の面でも、かけがえのない糧になるでしょう。
だからこそ、
まずは、自分の人生を、何よりも大切に生きてください。
所詮、人間にできる最大限のことは、「いま、ここ」を大切に生きることなのですから。
長くなりましたが、これが私の「研修医の十の掟」です。
このnoteを書くことが、私にとって、初期研修2年間の集大成と言っても良いと思います。
これから研修医になる人へ、そして今まさに研修医の人へ。
少しでもお役に立てれば幸いです。
私は、4月から、総合診療医(家庭医)を目指して、引き続き医師人生を歩んでいきます。
「試される大地の研修医」から、「試される大地の見習い総合診療医」へ。
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