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私の好きな本 vol.1|コロナ下の生活・つめたいよるに・侍女の物語

はじめに

みなさま、ごきげんよう。

なんだか春がサクッと終わってしまい、梅雨に突入しそうな雰囲気である。

コロナの脅威が去らぬ今、週末を家でお過ごしの方も多いのではないだろうか。例に漏れず、私もその一人である。

そんなステイホームの時間に彩りをもらたすのが「読書」かもしれない。

最近知ったのだが「読書」にはストレス減少の効用があったりするらしい。知らんけど。

今日は、これまでの「ステイ・ホーム」期間に於いて私が読んだ本の中で、特におすすめしたい本を2冊ご紹介させていただこうと思う。

1. 『つめたいよるに』|江國香織

私は江國香織が好きだ。彼女の作品は、まるでショートケーキのように甘ったるくて、それでいて、アンニュイな感情を惹起させる。その気だるさが心地良くて、一度読んだ作品であっても、読み返すことが多い。

今回は江國香織の『つめたいよるに』をご紹介したい。

この本はデビュー作『桃子』を含む21編が連なるオムニバス的作品集である。特筆すべきは、この作品集に於ける”みずみずしい色彩表現”である。その色彩表現を通じて、何気ない生活の中に潜む、幸せ・儚さ・美しさが鮮やかに描き出されている。

特に気に入っているのが、『デューク』という作品である。
たまご料理・梨・落語が好きで、キスのうまい、犬の「デューク」が死んだ翌日、「わたし」は男の子にめぐり会う。何気ない一日を、その男の子と過ごす作品である。

この作品では、随所に仏教観及びキリスト教的要素が織り交ぜられており、一つ一つの表現の中に、丁寧にメタファーが組み込まれている。

情景描写も、とても美しい。最後のシーンを少し抜粋してみる。 

デュークはもういない。
デュークがいなくなってしまった。
大通りにはクリスマスソングが流れ、うす青い夕暮れに、ネオンがぽつぽつつきはじめていた(略)
「今までずっと、僕は楽しかったよ」
「そう。私もよ」
下を向いたまま私が言うと、少年は私のあごをそっともちあげた(略)
「僕もとても、愛していたよ」
淋しそうに笑った顔が、ジェームズ・ディーンによく似ていた。
「それだけ言いに来たんだ。じゃあね。元気で」
(略)
私はそこに立ちつくし、いつまでもクリスマスソングを聴いていた。銀座に、ゆっくりと夜がはじまっていた。

リモートで仕事をするようになり、家にいる時間が相対的に増加した。それに伴い自分の生活習慣や環境を見直す余白がうまれた。

その時改めて、「何気ない日常の中にも、たまーに心を揺さぶられるような瞬間に出会うことがある」という点に気付かされた。自宅の窓から見える朝焼けの美しさ、17:00に流れるメロディを聴いた時のなんともいえないしみじみとした感情... もしかすると、江國香織の作品に流れている思想に、図らずも出会えたのかもしれない。

江國香織の作品は、何気ない日常に潜む美しさに気付かせてくれるように思う。ぜひ、この作品を読む際には、紅茶とチョコレートを準備して欲しい。きっと、特別な時間になると思う。

2. 『侍女の物語』|マーガレット・アトウッド

2番目に取り上げるのは、マーガレット・アトウッドの『侍女の物語(原題:The Handmaid’s Tale)』である。「ジョージ・オーウェルの『動物農場』が好きだ」という話をkoboくんにしたところ、オススメしてくれたのでポチって読み始めた。

舞台は、テロによって政府が倒されメディアが封殺された、聖書を原理的に解釈する独裁国家「ギレアデ共和国」。この国に於いては女性は完全に自由を奪われ、ただ「子供を産むための道具」とみなされている。主人公オブフレッドは、まさに「道具」として、司令官の家に派遣される…… というのがあらすじである。分類としては、ディストピア小説に当たる。

そういえば、現在の我々の状況もリアルタイムのディストピアであるといっても過言ではないだろう。

感染症によって、人々の行動は著しく制限されている。「感染拡大防止」を隠れ蓑として、(一部の国に於いては)個人情報の行き過ぎた利用や国家権力の肥大化、そしてポピュリズム的な政治的手法が黙認されている。特定のレイヤーだったり国籍・人種に対する排斥運動が人々の支持を集めるようになっている。

イェーリングは『権利のための闘争』の中に於いて、「世界中のすべての権利=法は闘い取られたものである。重要な法命題はすべて、まずこれに逆らう者から闘い取られなければならなかった」と述べている。

類推して考えれば、私たちがすべからく享受している各種の権利、そして民主主義及び高度な法治国家としての矜持は、先人たちが夥しい血を流しながら権力から勝ち取り・構築されてきたものであるといえる。感染症ごときを理由に揺るがされては、たまったものではない。

本作品では、一貫して「自分であること」を収奪された主人公が描かれている。しかし、色彩感溢れる生活の描写であったり鮮やかな心情表現から、権力が彼女の「心の中の自由」までは、収奪できなかったことをうかがい知ることができる。

この物語は、ディストピアに対する「異議申し立て」の物語であり、そして精神の自由の強さを教えてくれる作品であると私は解釈した。緻密で、色鮮やかな、それでいてフェミニズム的匂いが全然しない作品であり、興味が湧いた方はぜひご一読されることをオススメする。

おわりに

実は、koboくんと以前編集会議をしていた時に、「オススメの本のレビュー」という企画が上がったことが今回の記事につながっている。

vol.1と銘打っている為、今後も定期的に読んだ本に関して感想などをつらつらと記事にできればと考えている。

今回ご紹介した2冊を実際に手に取って読んでみた際には、感想をコメントしていただきたい。また、その他レビューして欲しい本などあればお気軽に書き込んでほしい。

では、また。

(taro)

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