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クリストファ-・アレグザンダ-の思考とアジャイルの共通点4つのこと
昨年読んでいた本ですが、アジャイルを語るうえでは欠かせない一冊であるなと感じたので書き残しておこうと思います。
クリストファー・アレグザンダーって誰?
そもそもでクリストファー・アレグザンダーって誰かというと、1936年生まれのウィーン出身の都市計画家・建築家で、約3年前に他界されています。wikipediaによると以下のような生涯を送られていたよう。
ケンブリッジ大学で数学を学んだ後、アメリカに渡り、ハーバード大学で建築学を学び、カリフォルニア大学バークレー校教授になる。建築・都市計画の理論としてパタン・ランゲージを提唱したことで知られる。
日本ではその理論を元に、盈進学園東野高等学校(埼玉県入間市、1984年)を建設した。
なぜアジャイルと関係あるのか?
なぜこの建築家がアジャイルと関係あるのか不思議に思うひとも多いかと思いますが、ソフトウェア開発に従事している方であれば、デザインパターンについて耳にしたことがある人は多いかと思います。
その考えの元となった「パターン・ランゲージ」について提唱した人物がこのアレグザンダーであり、この「パターン・ランゲージ」の考えはスクラムなどのフレームワークの元になっているとされています。
パターン・ランゲージとは
書籍によると、パターン・ランゲージとは以下に定義されるものとのこと
パターンがいかにして組み合わされるかを示したシステムであり、デザイナーに対してある全体性を形成する助けとなるもの
それではこの「パターン」とは何か?となるが、パターンとは2通りの意味があり、1つは「ルールとしてのパターン」であり、もう1つは幾何学的なパターンのような「図像としてのパターン」を持ち合わせているとのこと。
ん、、なんかちょっと難しい・・?
そう、「パターン」と言葉にすると一言ですが、この「パターン」についての定義は想像以上に奥が深く、正直まだ私もこの「パターン」というものについてうまく言語化できるようにはなっていないんですが、この本を読んでみて私なりに感じたアジャイルの原点となっているような共通点4つを書き残しておこうと思います。
アジャイルとの4つの共通点
1つ目:デザインの目的
まず共通点があるなと感じたのは冒頭にあった以下の一節。
すべての建築の目的、その幾何学的構成の目的とは、生き生きとした場所をもたらすことである。
アジャイルをやっているとよく「生き生き」といったワードを聞くことが多いですが、建築の目的と通じるものがあるということには意外な気付きがありました。
2つ目:形は機能に従う
デザインに関心のある人の多くが耳にしたことがあるという言葉で、「形は機能に従う」という言葉があるとのこと。こちらの言葉は、ルイス・サリバンという建築家が1896年に出版した文章におけるものとのことですが、こちらはソフトウェア業界では有名な「コンウェイの法則」に通ずるもがあると感じました。
コンウェイの法則とは「システムを設計する組織は、その組織の構造をそっくりまねた構造のシステムを設計してしまう」という法則ですが、システムが組織に影響されるのと形が機能に従うというのは非常に似た話なのかと感じました。
3つ目:「分析」「綜合」「枚挙」の方法
デカルトの著書「精神指導の規則」でも記載されているもので、「分析」「綜合」「枚挙」の方法というものがあり、その具体的な方法は以下の通りとのこと
分析:複雑な問題をより単純な要素に分解する
枚挙:問題を十分に明白になるまで分解したか、見落としがないか点検する
綜合:単純で明白なものとなった問題を解き、それを分析の課程を逆にたどって再構成する
こちらはアジャイル界隈でよく言われるような「まずは小さくはじめる」ということや、大きなストーリーポイントのBacklogがあった場合は小さくリファインメント(分解)するといったような考えに通じるものだと感じ、建築の世界においても同じような思考で建物の構造が設計されているというのは驚きでした。
4つ目:システムAとシステムB
1981年から1985年にかけてパタン・ランゲージを使い、埼玉県入間市に盈進学園東野高校を建築した際にシステムAとシステムBという考えを用いたという話があり、それぞれの定義は以下とのこと。
システムA:
「生き生きとしていること」に基づいている。リアルであること
いわば、直営方式(内製)。
先に予算を決めて、そこに収まるようにデザインしていく
システムB:
効率を重視。利益を上げられるかどうかが判断基準。リアルではない抽象的イメージ
いわば、ゼネコンを通して一括して請け負う方式(外注)。
デザインを決めてから施工費用を算出
このシステムAとシステムBの調和が難しく、アレグザンダー自身はシステムAでいこうとしたが現場の施工会社と意見が対立し、途中で帰国を余儀なくされたということであったが、これはまさにアジャイル開発とウォーターフォール開発の話と通じるものがあると感じました。
これらの苦労の末に完成したキャンパスが日本に現存していて、現在も学生達に利用されているということで非常に親近感を持ちながら読むことができました。
パターンという考えがもたらしたもの
「デザインパターン」もそうですが、この「パターン」という考えはアジャイルやソフトウェア開発に多大なる影響を与えていて、その最も大きなもののひとつがJames Coplienの「組織パターン」であり、「クリストファー・アレグザンダーのパターン」の思想を、ソフトウェア開発に昇華させ結実したものになっています。
こちらの本ではソフトウェア開発の現場で起こりうる数々の場面を「パターン化」していて、「ソフトウェア開発では技術的な側面にとらわれず、人間的な側面に目を向けろ」という彼の根本的な主張は今日の数々のアジャイル的な思想の元となっているかと思います。
おわりに
いままでアジャイルに関する本は40冊くらい読んできましたが、クリストファーアレグザンダーまでくるとかなり哲学的なものでアジャイルの沼に入ってきたなぁと感じる一方で、アジャイルの思想の奥深さについての理解が少しできてきたかと感じます。
最後にアレグザンダーの有名な言葉とされる一言を載せておきます。
「私たちは2つの漠然としたものの間にある種の調和を見出そうとしている。それは、まだデザインされていない形と、適切に表現し得ないコンテクストとの間の調和である。」
この「調和を”見出そうとしている”」と現在進行形になっているのはアジャイルソフトウェア開発宣言の冒頭と同じなので、もしかしたらこういったものが参考になって宣言文が書かれたと推察してみるのも楽しい。
アレグザンダーに関する書籍は他にも色々あり、昨年には以下のクラウドファウンディングで翻訳本が出版されていたりもします(私も参加したので謝辞に名前入れてもらえた)
ただこちらは積読していてまだ読めてないので、、時間を見つけて読んでみようと思います