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復興「中東のパリ」再び立ち上がれるか|気になる中東
前回記事では1975~90年にかけて内戦とイスラエル侵攻により首都ベイルートは荒廃、しかしその後シリアの駐留により安定を取り戻し、「中東のパリ」再興に向けた歩みを始めたレバノンの近代史を紹介した。
その後レバノンは実際にどのように再興されたのか。2015年8月にテレビ東京の「未来世紀ジパング」という番組で「謎のモザイク国家 レバノン」と題してこの当時のベイルートの様子をルポしており、ちょうどこの番組をDVDに録画していたので、その内容を引用しつつ紹介することとしたい。
なお下記リンクから、テレビ東京ビジネスオンデマンドでバックナンバーを視聴できるので、ぜひご覧いただきたい(初月無料)。
「未来世紀ジパング」は、「世界の沸騰現場から日本の未来を見る」をコンセプトとした番組だったが、昨年(2019年)9月に、8年に渡る番組を終えている。
さて、2015年と言えば、すでにシリア内戦による難民もレバノンに多数流入し、またISIL(イスラム国)による世界各地でのテロ活動も激しくなってきていた時期だが、番組の中で見る首都ベイルートは、一部に内戦の傷跡を残しつつも、観光客も多数訪れ、一流ホテルが建設され、高級ブランド店も立ち並ぶ明るく賑やかなリゾート地として復興を遂げていた。
私は20代の頃、92年にヨルダンを一人旅で旅行したことがある。実はその前年には湾岸戦争、すなわちイラクのクウェート侵攻に伴う多国籍軍のイラク攻撃があり、旅行した時期も日本ではまだ中東の緊張状態を伝える報道が多かったことから、少し心配ではあったが、行ってみたら何のことはなく、身の危険を感じるようなことは何一つ無かった。その意味で、日本のTVニュース等で切り取られている雰囲気と現地の実際との間には、ギャップがあるようにも感じている。もちろん日本の安全度と比較すれば、相当な差があることは疑いがないが。
番組では、日本の料理レシピサービス運営会社クックパッドがレバノンで同サービスを行っている会社を買収し、アラブ料理のレシピサービスを提供する取り組みも紹介されていた。世界的にも有名なレバノン料理の母国から、2億人を超えるアラビア語市場に向けた戦略ということだろう。ちょうどイスラムの断食月ラマダンの時期、日没後には「イフタール」と呼ばれる宴会で、むしろ通常月より食料の消費量が増える時期であり、ここを狙ってサービスを立ち上げたところ、レバノンはもとより、狙いどおりサウジアラビアやエジプトなど、周辺アラブ各国からも多くのアクセスがあり、期待以上の成果を上げたようだ。
「食を通じた平和」と言うべきか、国同士には摩擦や紛争があっても、そこで暮らしている人々はレシピを共有し、同じ料理を楽しんでいると番組では紹介していた。
インターネットやスマートフォンなどのテクノロジーの力、そしてそこに日本での成功ノウハウを横展開することで、草の根的に人々のつながりを強めることができるという、素晴らしいチャレンジではないだろうか。
今回の大爆発事故で、ベイルートの街は相当なダメージを受けた。実際にどこまで被害が広がっているかはまだよく分からないが、せっかくここ30年かけて進めてきた復興を大きく後退させたことは間違いない。とても残念なことだ。
ただこれを契機にレバノンが政治構造を改革し、その前提の上で国際社会が援助の手を差し伸べれば、再び立ち上がる日も来るはずだ。それをぜひ期待したい。
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記事は以上です。お読みいただきありがとうございました。
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