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バガヴァッド・ギーターと仏教

バガダット・ギーターとは、著名なインド古典の一つ。サンスクリット語で、日本語に訳すと「神の詩」となる。バガダット・ギーターは、それ自体独立した書だが、同時にヒンドゥーの叙事詩『マハーバーラタ』の一部でもあった。さらにバガダット・ギーターは、後代に続く仏教へ影響を与えたと考えられている。

バガダットギーターは、神の化身クリシュナが馬の御者-ハイヤーの運転手のようなもの-として、君主アルジュナに付き添って自分の考えを述べる形で進行する。そして君主アルジュナは、血を分けた親族との激しい権力闘争の一方の頭だった。彼は、敵方である従兄弟や大叔父らとの戦争を躊躇っていた。

本書で語られる思想において最も注目すべき点は、「行為と結果の分離」にあるとみる。

「あなたの職務は行為そのものにある。決してその結果にはない。行為の結果を動機としてはいけない。また、無為に執着してはならぬ。アルジュナよ、執着を捨て、成功と不成功を平等(同一)のものと見て、ヨーガに立脚して諸々の行為をせよ。」(第二章四七行)

「クシャトリア*にとって、義務に基づく戦いに勝るものはない。たまたま訪れた天界の門である戦い。あなたは殺されれば、天界を得、勝利すれば地上を享受するだろう。だから戦え。立ち上がれ。苦楽、得失、勝敗を平等(同一)のものとみて、戦いの準備をせよ。そうすれば、罪悪を得ることはない。」(第二章第三一行)
*クシャトリア.・・・古代インドのバラモン教の階級社会には、4つの階級があった。最高級のバラモン(僧侶)、クシャトリア(武士)、下位階級のヴァイシャ(庶民)とシュードラ(隷民)。

冒頭にバガダットギーターのテーマは、「行為と結果の分離」と書いた。クリシュナは結果が成功しようと失敗しようと、そんなことは関係ないのだと説く。義務・行為の遂行がすべてだと。
そして、義務を果たした結果が良ければ、この世で報酬を受け、失敗すればあの世で報われる。無為に執着して罪悪を得ることを最も恐れよと。義務を果たさなければ何の成功もなく、それどころか不名誉・辱めさえ受ける。

「アルジュナよ、女々しさに陥ってはならぬ。それはあなたにふさわしくない。卑小なる心の弱さを捨てて立ち上がれ。」(第二章第三行)
煽るアルジュナ。

しかし、ここからさらに論理は展開される。

「行為のヨーガにより行為を放擲し、知識による疑惑を断ち自己を制御したものを、諸行為は束縛しない。それ故、知識の剣により無知から生じた、自己の心の中にある疑惑を断ち、行為のヨーガ*に依拠せよ。立ち上がれ、アルジュナ。」(第四章第四一章)
行為のヨーガとは、最高の境地に帰結する行為を指し、執着することなく、行為そのものに専念すること。

生死を賭した戦争を前にして二つの執着を断ち切れ、とクリシュナはアルジュナに迫る。一つは生への執着。もう一つは氏族の執着と。

クリシュナは言う。
「知識なく、信頼せず、疑心ある者は滅びる。疑心あるものは、この世界も他の世界もまた、幸福はない。」(第四章第四〇行)

行為のヨーガとはかくあるものだ、とクリシュナは語る。そしてそれは徐々に「帰依」「悟り」に収斂していく。義務を実行した結果が最悪でも、天界を信じることによって救われるのだと。

「自ら自己を高めるべきである。自己を沈めてはならぬ。実に自己とは自己の友である。自己こそ自己の敵である。自ら自己を克服した人にとって、自己は自己の友である。しかし、自己を制していない人にとって、自己はまさに敵のように敵対する。」(第六章第五行)

ここから、仏教へ向かう道筋が見えてくる。これは仏教でいう「悟り」の境地なのではないか。そういえば、仏陀はクシャトリアの生まれだった。当然彼はバガダットギーターを知っていて、自らの思想の血肉としていただろう。バガダットギーターの思想は、クシャトリアの間の思想なのだから。

そこで仏陀は、戦争を前に究極の精神状態で生まれたバガダットギーターの思想を、全階級・全人民に向けて開放した。彼は富裕な王族の子息というクシャトリアの地位を捨てて、あらゆる階級の救いを追い求めた。その末に辿り着いたのが、当時の思想のビッグバンともいえる仏教だったのだ。

現代風に言い換えれば、どれだけ頑張ろうと「成功」するかどうかは誰にも分からない。だが、立ち向かって立派に行動することは、必ず「成長」に繋がる、といったところだろうか。
「成長」とは、愛憎、貧困、老い、病、死、どんな境遇にあっても、心平静に立ち向かえるようになること。苦境でなお自己を治めることであり、「悟る」とは、その「成長」の究極点なのだと。

「自己の義務の遂行は、他人の義務の優れた遂行に勝る。」自分の為すべきことを実行することは、たとえ拙いやり方であったとしても、他人の優れた成果に勝るのだから。

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毛針
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