2023年映画感想No.91:魔術(原題『Brujeria』 ※ネタバレあり
丸の内TOEIにて鑑賞。東京国際映画祭2023ワールドフォーカス部門(第20回ラテンビート映画祭 in TIFF)。プロデューサーはパブロ・ラライン。
虐げる側の人間が抱える「いつか報復されるんじゃないか」という不安が加害を加速させるトリガーになるという物語でいうと今年公開された『福田村事件』でも鋭く描かれていたけれど、1880年のチリが舞台の本作の根底にもドイツ人入植者たちによって支配、搾取されていた先住民の怒りや悲しみが流れている。
『魔術』というタイトルやあらすじからも呪術的なペイバックが匂わされる物語ではあるのだけど、劇中で起きる不可解な出来事が本当にスーパーナチュラルな要因なのか、単なる奇妙な偶然なのか、入植者たちの不安や先住民の怒りのメタファーなのかが中々判然としない描かれ方になっていることで「こういうことかな?」と考えながら観る部分が大きかった。
冒頭、ドイツ人入植者に父親を殺された13歳の少女である主人公が祈祷師に出会うまでの見せ方が丁寧で引き込まれる演出になっている。
異様な出来事を先住民と結びつけることで暴力が発動し、父親を失った主人公は信仰も奪われる。ひっそりと父親を埋葬する主人公のところに入植者一家の奥さんと子供二人が来てするやりとりの内容が予想していたものと違ってドキッとするし、そこから主人公がどんどん見放されて行き場を無くしていく展開も苦しい。ずっと雨が強いのも不条理!という感じで切実に辛い。
一方で何を信じていいかわからない状態の主人公が祈祷師のおじいさんと初めて出会う場面では教会の神父に言われる「自分自身に正義を求めなさい」という言葉が響いているようなやりとりがあり、主人公が祈祷師を頼る動機が感じられるのも丁寧で良かった。
主人公が虐げられてきた先住民の記憶を幻視するような不思議な体験が次々起こっていく場面は、それがどう状況に影響するのかも含めてドキドキする描かれ方なのだけど、実際彼女が望んだ通りに報復的な出来事が起きるとそれがきっかけで彼女たちへの弾圧はより強まってしまうのが苦しい。
あらすじにあるドイツ人入植者の子供が犬になってしまう(なってしまったように見える)展開も本当に先住民たちの地下組織「正義の国」が呪術で起こした出来事なのかもしれないけれど、何かよくわからないことが起きると先住民が弾圧されるという抑圧の構造が強まることにしか繋がっていかないのが当時のチリの状況を寓話的に表現しているようにも映る。
不条理な世界に生きることを嘆き「ここではないどこかに行きたい」と泣いていた主人公が土地の記憶、先住民たちの記憶を引き継ぐことで帰属意識に目覚め、「ここに生きる」というアイデンティティを確立するラストがある。