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  • 2024年映画感想

    2024年に書いた映画の感想。

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    2023年公開作品の感想です。

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2023年映画ベスト10

2023年映画ベスト10 01 The Son/息子 02 TAR/ター 03 BLUE GIANT 04 ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック! 05 別れる決心 06 エンパイア・オブ・ライト 07 aftersun/アフターサン 08 AIR/エア 09 ファースト・カウ 10 カード・カウンター The Son/息子 エゴイスティックな父権の抑圧によって深刻化していく青年の苦しみを「理解できない側の視点」で描く語り口の鋭さ。欠落感を抱えて生きることがい

    • 2024年映画感想No.22 ぼくのお日さま ※ネタバレあり

      「眼差し」の雄弁さ~肉体的な感情の発露 ヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞。 冒頭、野球の練習中に初雪に目を奪われる越山敬達演じる主人公タクヤの描写が「眼差し」というこの映画の重要な文法の宣言になっているように感じた。野球の練習ではなく初雪に意識が向かう彼の美しさへの感性が後にフィギュアスケートという競技に惹かれる展開に繋がっているように思う。 野球をしている時も、アイスホッケーをしている時もタクヤは動かない。そんな彼が自発的にフィギュアの練習を始めること自体に「一歩踏み

      • 2024年映画感想No.21 SUPER HAPPY FOREVER ※ネタバレあり

        何気ない描写の精度の高さ 新宿武蔵野館にて鑑賞。 冒頭から明らかに様子のおかしい主人公・佐野の行動はどこかコミカルな無軌道さがあるのだけど、それが大きな喪失によって破綻した現実だとわかると全てが切なく反転する。次に何をするのかわからない佐野の行動はそれ自体に目が離せない描写の面白さがあるし、探し物をしている彼を通じて「もうそこにないもの」がなんなのかを観客に想像させるような語り口が印象に残る。 やりとりそれ自体の面白さも強いし、最後まで見ると序盤の何気ない場面の精度の高さに

        • 2024年映画感想No.20 ソウルの春(原題『12.12: The Day』) ※ネタバレあり

          毎回感心する韓国映画の文化的成熟度の高さ ヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞。 独裁政権だったパク・ヒョンヒ大統領の発足から暗殺まで、全斗煥(チョン・ドファン)の軍事クーデターによる新軍部政権発足から光州事件に代表される民主化運動への武力弾圧など、自国近代史の負の歴史をちゃんと映画にできるところが韓国映画界の本当に素晴らしいところだと思う。ちゃんとお金をかけて広い射程を持つ高水準な作品が作られ、そこにちゃんとお客さんが集まる。そうやって映画を通じて「二度と起こさないために

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          2024年映画感想No.19 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ ※ネタバレあり

          主人公二人と冬村かえで〜対照性を示す冒頭の編集 キネカ大森にて公開初日に鑑賞。 追いかけっこしていた男の子が人を殺している池松壮亮演じる冬村かえでと出会う冒頭の場面から引き込まれる。イノセンスを抱えたまま殺し屋になってしまった冬村のバックボーンを示唆するような象徴的描写なのだけど、映画の掴みになる緊張感のある描き方としても上手い。 血みどろの冬村からリゾート地で遊んでいる高石あかり演じるちさとと伊澤彩織演じるまひろに切り返す編集はこのシリーズらしい緩急であり、この「緊張対緩

          2024年映画感想No.19 ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.18 スオミの話をしよう ※ネタバレあり

          久しぶりに観る三谷幸喜監督作品 キネカ大森にて公開初週末に鑑賞。 三谷幸喜は日本で一番有名な映画監督の一人だと思っているのだけど、個人的には監督作品もその他の脚本作品や舞台作品もほとんど通ってきていない。 ただ、新作が公開されるとなるとすごいレベルでプロモーションされるし、俳優陣はめちゃめちゃ豪華だしと、普段映画館に来ない層までを相手にするようなザ・大衆娯楽作品がどういうチューニングで作られているのかにはすごく興味があった。 面白くなりそうだった部分 「スオミの5人の夫

          2024年映画感想No.18 スオミの話をしよう ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.17 ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ(原題『The Holdovers』) ※ネタバレあり

          アレクサンダー・ペイン最新作〜「人生のままならなさ」という作家性 1回目をBunkamuraル・シネマ渋谷宮下で、2回目をキネカ大森で鑑賞。 アレクサンダー・ペイン監督は「人生のままならなさ」について描く監督だと思う。理想の人生は望んでも手に入らないことの方が多い。その現実と向き合うことはとても辛いけれど、だからこそ「そこから抜け出す救いもこの世界にはある」という優しさにより心を揺さぶられてしまう。 人生の限界についての話であり、同時に人生の可能性についての話でもある。その

          2024年映画感想No.17 ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ(原題『The Holdovers』) ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.16 キングダム 大将軍の帰還 ※ネタバレあり

          豪華な役者で見せるダイジェスト演出 キネカ大森にて鑑賞。 前作『キングダム 運命の炎』から始まった趙軍との戦いの続きを描く。冒頭にあるキャストの豪華さを活かした前作のあらすじダイジェストがカッコ良かった。キングダムといえばこのオールスター感!というところをちゃんと押し出している。 前作は作品間の描いていない時間をもろにバーフバリすぎる石像ダイジェストで描いていたけど、前作の直後から始まる今作はちゃんと前作で起きたことを説明しないといけないという事もあって役者の顔で一つ一つの

          2024年映画感想No.16 キングダム 大将軍の帰還 ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.15 クレオの夏休み(原題『Ama Gloria』) ※ネタバレあり

          親密な距離感を映すカメラワーク ヒューマントラストシネマ有楽町にて鑑賞。 幼いクレオとナニーのグロリアの関係を映す冒頭からスタンダードサイズの画角やクローズアップな撮影が二人の親密さを強調している。映画のファーストシーンはクレオの近視の検査であり、彼女の目から見える世界の追体験としても近視眼的な撮影手法に必然性が生まれている。 「幼いクレオが何を見るのか」という眼差しを巡る物語であることをファーストシーンで宣言しているように感じられるのだけど、「クレオが読めない文字を横から

          2024年映画感想No.15 クレオの夏休み(原題『Ama Gloria』) ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.14 関心領域(原題『The Zone of Interest』) ※ネタバレあり

          保たれる"普通"の異常さ 109シネマズ川崎にて鑑賞。 冒頭のピクニックがどこにでもあるのどかな家族の光景だからこそ、のちにその家族がアウシュビッツのすぐ隣で生活している所長一家だとわかると見えていた"普通"の異常さにより大きなショックがある。誕生日を祝ったり、子供を学校に送り出したり、ガーデニングを楽しんだり庭のプールで遊んだりと、平凡で豊かな家族の幸福が描かれるほどにすぐ隣にある残酷な現実に無自覚なことのおぞましさもより際立つような描かれ方になっていると思う。 「無関

          2024年映画感想No.14 関心領域(原題『The Zone of Interest』) ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.13 ルックバック ※ネタバレあり

          「表現すること」の救いと苦しみ ヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞。 原作は読んだ時にショックが大きすぎてしばらく引きずってしまうくらい心に刺さった作品だったのだけど、この映画も映画化作品としてあの原作の素晴らしかったところがしっかり描かれていてとても良かった。 「何かを表現すること」についての救いと苦しみについて描かれた物語だと思うのだけど、この映画でも観ながら何度も過去の自分の経験を思い出す瞬間があって、文字通りルックバックするような映画体験だった。同時に、何も知らず

          2024年映画感想No.13 ルックバック ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.12 告白 コンフェッション ※ネタバレあり

          ハイコンセプトなあらすじと監督の作家性の融合 シネクイントにて鑑賞。 まずは「死ぬと思ったから昔の重たい罪を告白したのに生き延びてしまったので殺し合いになってしまう」というジャンル映画的な強いあらすじがあり、その中に「人生の停滞」を巡る主題という山下敦弘監督の作家性もしっかり感じられる密度の高い内容。ほぼワンシチュエーションの二人芝居というミニマムな設定、74分というタイトな構成ながらとても見応えがあった。 緊張関係の必然を作り出す手際の良さ 大学登山部の卒業登山で一緒

          2024年映画感想No.12 告白 コンフェッション ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.11 若武者 ※ネタバレあり

          二ノ宮隆太郎監督らしい厭世と自己嫌悪 ユーロスペースにて鑑賞。 他の二ノ宮隆太郎監督作同様、強烈な厭世感と自己嫌悪に満ち満ちた登場人物たちが描かれている。世界がおかしいから自分の人生が壊れているのか、自分が壊れているからこの世界もおかしいのか、その行き詰まりを解決する方法が見つけられないことで破滅の予感だけが膨らんでいく危うい若さが心に残る。 胸の内側にパンパンに憎しみを抱えた坂東龍汰演じる主人公のワタルも、まるで通り魔のように他者のモラルを攻撃的する髙橋里恩演じるエイジや

          2024年映画感想No.11 若武者 ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.10 マイ・スイート・ハニー(原題『Honey Sweet』) ※ネタバレあり

          キャスティングに必然性のある物語 MOVIX京都にて鑑賞。 ユ・ヘジンが主演でラブコメをやることで、ルッキズムを含めた「男らしさ」を批評的に再定義してみせるような恋愛描写で展開する物語になっているところが面白かった。 主人公もヒロインも家庭内のマチズモ的な価値観によって人生の犠牲を強いられているという設定があり、そんな二人がお互いの存在によって抱えていた欠落を再生して他者と生きる幸せを再構築していく。二人の人生を搾取するものの象徴的な場所である金融窓口での出会いの場面では、

          2024年映画感想No.10 マイ・スイート・ハニー(原題『Honey Sweet』) ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.9 パスト ライブス/再会(原題『Past Lives』) ※ネタバレあり

          パーソナルな物語を巡る眼差しの導入 TOHOシネマズ日比谷にて鑑賞。 人にはわからない登場人物たちのパーソナルな感情、関係性を巡る物語だということを「傍目からみて関係性が理解できない」という他者からの目線で示すファーストシーンからグッと引き込まれる。パッと見てわかるほど単純でも、一言で説明できるほど簡単でもない。唯一選ばれた可能性である現在として男女が並んで語らう姿があり、そこから過去を遡るからこそ二人が歩んできた長い時間と、後戻りできない人生の限界が常に横たわっている。

          2024年映画感想No.9 パスト ライブス/再会(原題『Past Lives』) ※ネタバレあり

          2024年映画感想No.8 ネクスト・ゴール・ウィンズ(原題『Next Goal Wins』 ※ネタバレあり

          酷い状況のサッカーアメリカ領サモア代表 TOHOシネマズ川崎にて鑑賞。タイカ・ワイティティ監督新作。 冒頭からアメリカ領サモアのサッカー代表が2001年のW杯大陸間予選でオーストラリアに31-0と歴史的大敗を喫する映像があまりに悲惨で笑ってしまうし、その出来事を経て10年後にさらに酷くなっている代表チームが出てくることで「全然悲劇を乗り越えようとしてない人々」というコメディとして遠慮なく笑える設定を示しているように感じた。試合前のグダグダなシヴァタウだけで「多分このチームは

          2024年映画感想No.8 ネクスト・ゴール・ウィンズ(原題『Next Goal Wins』 ※ネタバレあり