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NIKE×sacaiでみるコラボ戦略におけるブランドの狙い

こんにちは。ライターのSakai Natsumiです。

新作を出すたびに話題になり、人気でなかなか手に入らないNIKE × sacaiのコラボスニーカー。
この記事を読もうと来てくれた方の中には、抽選応募に挑戦したことがある方も少なくないのではないでしょうか。

sacai × Nike『Zoom Cortez SP』

2015年から始まったこのコラボレーションですが、先月スニーカーの新作が発売されました。過去のものも含め、NIKEとsacaiのコラボについてのニュース記事やレポートは数えきれないほど出ており、それだけ注目度と話題性が高いことが分かります。

ではなぜ世界でそんなにウケたのか?
Knowns Bizが持つ顧客やブランドのデータを元に、NIKEとsacaiのコラボ企画について分析していきます。

世界的スポーツブランドNIKE

NIKEは、認知率89.8%、満足度4.1と非常に人気のあるスポーツ用品ブランドです。
スニーカー、アパレル、帽子やバッグなど幅広く展開しています。

特にスニーカーは名作と言われる型をたくさん生み出していて、世界中にマニアと呼ばれるようなオタク、コレクターがたくさんいます。
エアジョーダンやエアマックスなどスニーカーに詳しくなくても聞いたことのあるような有名なものがたくさんあります。

Knowns Bizのデータによると、NIKEの顧客は35~49歳が全体の49.5%を占めています。男性55%、既婚54%、子供なし51%と、性別や婚姻有無、子供有無すべてで、ほぼ偏りがないという結果です。

NIKEのソシエタスクラスター分析(個人的価値)
NIKEのソシエタスクラスター分析(社会的価値)
NIKEのソシエタスクラスター分析(消費的価値)
NIKEの7journey分析

顧客のソシエタス分析を見ると、個人的価値ではスポーツブランドらしく"アウトドア"の項目がとても高く出ています。
また、"ジェンダーバイアス"も高い値になっています。
世界的に世代を問わず親しまれるブランドなだけに少し意外な気もしますが、男女の区別がはっきりしている人が多いという結果です。

個人的価値の"理論重視"や"完璧主義"、社会的価値の"出世優先"や"ワーカホリック"などの該当率が高くなっていることから、しっかり者、まじめといった人物像が見えます。

消費的価値では"リピート消費"の割合の高さから繰り返し利用する人が多いと読み取ることができ、ブランド選考率(72.4%)やロイヤル層(24.9%)の数字にも表れています。

NIKEのブランドイメージは、"カッコいい・イケてる"、"ベーシック・定番的"、"爽快元気・エネルギッシュ"が上位3つに来ています。

クールな印象の白と黒のロゴ、世界の有名スポーツ選手の広告起用などは、「かっこいい」や「エネルギッシュ」といったイメージにつながります。

大坂なおみ選手とNIKEのコラボアパレル

また昔の人気スニーカーの復刻版が出るとすぐ売り切れることもあるほど、ベーシックモデルにも根強い人気があります。

アパレルのデザインも個性的なものというよりは、ロゴやプリントのアクセントが効いたシンプルでスポーティ・カジュアルなものが多い印象のため”ベーシック・定番的”のイメージが強いのも納得の結果です。

シンプルなデザインのNIKE新作
シンプルなデザインのNIKE新作

総じて、NIKEは知名度が高くベーシックなデザインが大衆に受けているブランドと位置付けられます。

日本発パリコレブランドsacai

sacaiは日本のアパレルブランドで、認知率11.1%、満足度3.74となっています。
異素材を組み合わせたデザインが特徴的で、2011年からはパリコレに進出し世界にも認められるビックメゾンへと成長を遂げています。

年齢分布では40~44歳が多く、価格帯も高いことから(トップス2~5万円くらい)若い世代よりも中年層の利用が多いと言えます。
sacaiもNIKE同様、性別や婚姻有無、子供有無に関しては大きな偏りは見られませんでした。

sacaiのソシエタスクラスター分析(個人的価値)
sacaiのソシエタスクラスター分析(消費的価値)

ソシエタスクラスター分析に関しては、"モノ重視"や"プレミアム消費"が高いことから気に入ったものには対価を払う傾向があると分析できます。
sacaiの服は高級ですが、デザインやブランドコンセプト、ストーリーなど付加価値に対して魅力を感じていると言えます。

また、"ジェンダーニュートラル"の該当率が高いのはNIKEと対照的です。
sacaiは元々スタイリストやバイヤーなどファッション業界人の間で話題になり人気になり、今でも大衆というよりは服が好きなコアなファンを抱えているブランドです。

ファッション業界は活躍している女性が多いこと、ファッション自体ゲイカルチャーと関係する点が多いことなど、さまざまな理由からsacaiのユーザーにはジェンダーレスな考え方が流れているのかもしれません。

イメージ分析を見ると上位3つは、”期待感・ワクワク”、”上品・優雅”、”映え系・いいね”、です。
デザイン性の高いアイテムは写真映えしますし、ハイブランドの上品な雰囲気やハイブランドを購入した時のワクワク感がイメージに影響しています。

「異素材を組み合わせたデザインが特徴的」だと前述しましたが、ハイブリットデザインのsacaiと言われるほど組み合わせデザインがブランドの色となっています。

ニット×ナイロン生地や、ウール×ジャージといった素材のミックスに留まらず、フェミニン×スポーティやアーミー×エレガントなど違う系統のディテールを一着に落とし込むようなデザインもsacaiのアイデンティティと言えます。

ナイロンとニットのハイブリッドブルゾン(デザインはMA-1とライダースが重なっている)
ライダースとダウンのハイブリッドデザイン
トレンチとMA-1のハイブリッドデザイン
ミリタリーコートのウエストを絞り、ビスチェを加えマスキュリン×ドレッシーのハイブリッドに
タイトなパンツにミニ丈のボリュームのあるスカートとボトムは女性らしく、トップスにオーバーサイズのスウェットを合わせスポーティMIXに。今っぽい抜け感をプラスしバランスを取っている。

sacaiは、唯一無二のデザインがファッションファンに愛されているブランドと言えます。

NIKE× sacai 顧客の共通点と相違点

ここまでそれぞれのブランドを個別にみて特徴を述べてきましたが、ここからはNIKEとsacaiを比較していきます。

ハイブランドとスポーツブランドという点で顧客の特徴には大きな違いがあるかと思いきや、意外にも顧客の価値観には共通点も見られました。

NIKEのソシエタスクラスター分析(個人的価値)
sacaiのソシエタスクラスター分析(個人的価値)

NIKEとsacaiの顧客のソシエタスクラスター分析を見ると、個人的価値では「モノ重視」「完璧主義」「一徹凝り性」「倹約家」「強心臓(頼られリーダー)」などが共通して上位に来ています。

NIKEのソシエタスクラスター分析(消費的価値)
sacaiのソシエタスクラスター分析(消費的価値)

また消費的価値では、「リターン期待型」「ブランド消費」「失敗回避型」「オンリーワン消費」「プレミアム消費」「ジャケ買い消費」などが両ブランドにおいて上位15以内に入っていました。

どちらも“商品の価値”を物の良さやブランド名、希少性に置いており、衝動買いではなく検討してから購入に至る人が多いと読み取れます。

その中で対照的なのが、NIKEの「ジェンダーバイアス」とsacaiの「ジェンダーニュートラル」の価値観です。

NIKEのソシエタスクラスター分析(社会的価値)
sacaiのソシエタスクラスター分析(社会的価値)

また、社会的価値の結果にも違いが見られます。NIKEは「出世優先」「ポジション重視」「ワーカホリック」が高い割合を占めているのに対し、sacaiの場合は「仕事憂鬱」「環境や社会より自分大事」「独身ライフ謳歌」「関わり面倒」といった項目が高くなっています。

仕事や性に対し慣習的な考え方の消費者が多いNIKEと、自由や自分に軸を置いている消費者が多いsacaiと大まかにカテゴライズできそうです。

Knowns Bizのイメージ分析の上位15項目に注目してみます。
共通して入っているのが"カリスマ性がある"、"期待感・ワクワク"、"カジュアル・プチリラックス"です。

逆に対照的なイメージと取れるのが、"カッコいい・イケてる"↔︎"上品・優雅"、"ベーシック・定番的"↔︎"個性的・他にない"、"爽快元気・エネルギッシュ"↔︎"深み渋み・落ち着いた"("NIKEのイメージ"↔︎"sacaiのイメージ"と表記しています)となっています。

2022年12月に発表されたNIKE×sacaiのコラボアパレル
2022年12月に発表されたNIKE×sacaiのコラボアパレル

去年の12月に発表されたNIKEとsacaiのコラボアパレルコレクションは、ほとんど性差のないジェンダーレスなデザインでした。

上記で紹介したsacaiのコレクション写真を見ていただくと分かるように、sacaiのクリエーションは個性があり華やかなものが多いです。実際に売られているアイテムも、変形したようなシルエットや異素材の組み合わせなど特徴的なデザインが多く見受けられます。
一方、NIKEのアイテムは左右対称、シンプル、ジャストサイズでスポーティなものが中心です。

そんなNIKEとsacaiがコラボして作ったものが、上の写真のコレクションです。全体的に見るとスポーティで軽快な印象。色も使いやすい黒やカーキでまとまっています。
ディテールを見ていくと、sacaiのアイデンティティとも言える"異素材ミックス"が至る所に採用されており、切替や斜めポケットの位置、サイズ感などにこだわりが見られるデザインです。
両ブランドの特徴がバランスよく活かされているように感じます。

Nike × Sacai『Zoom Cortez SP』

コラボスニーカーは、CortezというNIKE初のスニーカーをモデルにしたものです。シューレースが2枚あったり、ソールやロゴも重なっていたり、(語弊を恐れずいうならば)「フォトショップを触ってたらちょっとずれた」ようなデザインは歴代のNIKE×sacaiのコラボスニーカーを継承しています。

足元を主役にコーディネートできるような、ボリューミーで存在感のあるスニーカーです。

まとめ 「コラボのメリットは」

今回取り上げたNIKEとsacaiのコラボレーションは、2015年のスニーカーからはじまり今に至るまでずっと人気を保っています。逆に、人気があるから何度もコラボが実現しているとも言えます。

なぜこんなにコラボがハマったのか?
その理由を下記のように分析します。

  1. カリスマ同士のコラボだった
    NIKEもsacaiもイメージ分析に"カリスマ性がある"が上位に来ていました。
    人はカリスマ性に惹かれる生き物です。この2ブランドがコラボしたらどんなものができるんだろう?という期待感が高まります。

  2. 意外性の中の親和性
    一見スポーツブランドとデザイン性の高いコレクションブランドのコラボは意外な組み合わせに感じますが、sacaiは異素材MIXをするときによくナイロン生地を使います。ナイロンを使うとスポーティになります。
    つまりsacaiはNIKEと実は相性がいいのです。

  3. 価格帯
    sacaiのパーカーは4-6万円します。NIKEとのコラボパーカーは2万円弱です。sacaiに憧れているけどなかなか手が出ないという人にとってはsacaiの服をゲットするチャンスとなります。
    NIKEのパーカーは1万前後なのでNIKEの顧客にとっては少し高くなりますが、デザイン性やハイブランドとのコラボということにたいしての付加価値に魅力を感じる人であれば購入に至るかなといった価格です。

sacaiの利用者の中には、NIKEを買う人がたくさんいるでしょう。
しかしNIKEの顧客がsacaiを買っているかというと考えにくいですし、このコラボによりNIKEの顧客がsacaiも買うようになるという狙いは小さいと考えられます。

それは、sacaiの方が価格帯がかなり高いこと、sacaiの服はデザイン性が高いのでNIKEの顧客にとっては使いにくいアイテムが多いことが理由です。
とはいっても、sacaiにとっては世界に「sacai」の名と実力を広める絶好の機会です。

ではすでに知名度のあるNIKEにとっては?

NIKExsacaiは「話題性」が高くさまざまなメディアに取り上げられます。インスタでは#nikesacaiが18.5万件、#sacainikeが12.7万件投稿されていますし、YouTubeでも着用レポートや応募結果発表生ライブなどの動画がたくさん出ています。
日本だけでなく世界各地からSNSにアップされています。

話題性が高ければ、それだけ興味を持つ人が増えて売上につながります。
また、前述したように"ファッショナブル"や"ジェンダーレス"なイメージも広がりNIKEに新しい風をもたらします。

コラボレーションをするということは、単純に「話題づくり」「新規顧客の獲得」「知名度アップ」といった効果が期待できるのはもちろんですが、他社と一緒にものづくりをすることで新しい技術や知識を得ることができたり、インスピレーションを受けたりと"普段と違う"様々な経験をすることで社内もブランド自体も活性化されます。

すでに世界的ブランドとして地位を確立しているように見える NIKEですが、止まることなく常に新しい挑戦をし続けることがずっとトップブランドでいる秘訣のひとつなのかもしれません。

そしてそんな大きなブランドとコラボができるsacaiもまた、素晴らしいクリエーションを続けてきた実績と、コラボをしても"らしさ"を失わない強いアイデンティティを認められた実力派ブランドであると言えます。

筆者のひとこと

15年ほど前、私がまだ高校に通っていた頃、日本はファストファッションブームでした。
そのブームは数年続き、文化服装学院に入学して卒業してからも勢いは衰えず。
H&M、ZARA、FOREVER21、TOPSHOPなどが次々とオープンして、高級ブランドの街というイメージだった銀座にもファストファッションブランドがたくさん出店しました。

そしていつからか、全身ハイブランドよりも「ハイブランド×ファストファッションがイケてる」という感覚が広まっていきました。
その背景には、海外セレブなどファッションリーダーの存在もあったと思います。
安っぽい服というイメージを拭いきれていなかったファストファッションにもおしゃれなイメージがつき、光があたったのです。

学生時代や20代前半、ファストファッションとハイブランドとのコラボはいつも楽しみにしていました。
H&Mとマルニがコラボしたり、ユニクロとルメールがコラボしたり、発売日にはオープン前に行列ができていたりして盛り上がっていた記憶があります。

最近ではユニクロのコラボがSNSでもよく話題になっている気がします。
その中でもmameやジルサンダー、マルニなど最近のコラボはどれも好評ですよね。

ここまでNIKEにもsacaiにも触れず何を言いたいのかというと、、笑
「コラボ」には特別な力があるということ。

ある程度出尽くしてしまった感があるファッションの中で、"新しいデザイン"や"新しいジャンル"はもう生まれにくくなっています。
そこで注目されるのが"リバイバル"や"コラボ"となるわけで、「ギャルソンがすごいシルエットの服発表したぞ!!!」という盛り上がり方はもうなくても、「ギャルソンとGUがコラボだぞ!!(架空)」という話題の作り方が増えているという話をしたかったのです。

ギャルソンとGUが!?とコラボ相手の意外性も話題性を高める立派な要素になります。
どこかで見かけたのですが、SNS時代の今、バズるには「居酒屋で話題になるようなネタ」が好まれるそうです。
ギャルソンとGU、NIKEとsacaiなんて、ファッション関係者が集まったら話題にならないわけがないのです。

ファッションは贅沢品とはよく言われたもので、どう付加価値をつけて売っていくか。
でもビジネスビジネスしすぎては消費者に引かれてしまうので、どうエンタメ性とバランスをとっていくか。
そのあたりがテーマだなと感じました。

その戦略にまんまと踊らされたくないような、気持ちよく踊らされたいような。
そんな一消費者としての気持ちを抱えつつ、今回のNike × Sacai『Zoom Cortez SP』応募に挑戦したら見事落選した筆者です。

現場からは以上です。

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