実例から見えるファンづくりの仕掛けと工夫
こんにちは。
マーケティング視点で読解力を高めるノートでは、小さくてもファンを増やす仕組みと仕掛けがわかると題し、デジタルネイティブ時代の情報発信を主たるテーマとし、中小企業や個人事業主がオンラインチャネルを活用する際の前提となる、情報接触態様の変化を読み解き、IDやSNS、そして口コミを科学して理解するノートをお届けしてまいります。
1.1歩目を踏み出した後で見えてきたもの
私が、ファシリテーターとして関わった、SNSを活用して自社および商品の
ブランディングを行うための研究会では、初回のセッションで、本noteの第5章でご紹介したデジタルネイティブ時代の情報接触態様(スタイル)の変化や共感を生むコンテンツの特徴、共感を起点とするSNSの情報伝播の構造についてご説明をさせて頂き、共感型マーケティングの全体像を掴むとともに、事業機会の存在をご認識いただくところからスタートしています。
続いて、2回目のセッションでは、第6章でご紹介したオリジナリティとどこにもないストーリーを発信し、共感型マーケティングへ取り組まれている、地方の食品クラスタの事例をご紹介するとともに、自社の商品について一段掘り下げて理解するワークや、オリジナルの活用コンセプトを整理するワーク(演習)にお取組み頂き、プランニングを進めていただきます。
第2回目のセッション終了後、研究会にご参加されている皆様には、第2回の演習や、ご紹介したフレームにそって整理したファンづくりのコンセプトとシナリオに基づき、経営者や意思決定者の方に必要性を説き、経営者や意思決定者の方から、ファンづくりのアクションを後押しするという、お約束を取り付けて頂いたうえで、社内の協力者を募り、役割を定めた後、実際にファンづくりの第1歩(オリジナルのストーリーの発信)に踏み出していただきます。
そして、第3回の研究会では、各社が実際にSNSのアカウントを取得し、発信されたコンテンツや成果を持ち寄り、ご参加者が相互に交換することで、うまくいった成果や、社内で抱えている課題など、知見を共有するセッションを行っています。
本節は、2019年3月に行った研究会の第3回セッションにて、地方の食品クラスタが実際に発信されたいくつかのコンテンツを事前に拝見し、当方が気付いた点を、セッションの当日にフィードバックさせていただいた内容の中から、今後皆さんにお採り入れ頂きたい仕掛けや工夫、各社に共通で当てはまると考えられる留意点を抜粋したものを、ご紹介いたします。
本noteをご覧になっている方におかれましては、セッションにご参加されているお気持ちをもって、ファンづくりに先行して取り組んでいる実在の企業の事例から、共感を喚起するコンテンツの特徴や発信時の工夫を読み取り、ご自身が第1歩を踏み出す際、ご参考にしていただければと思います。
2.ファンづくり仕掛けと工夫
それでは、具体的に研究会第3回目のセッションにご参加された食品クラスタがFacebookやInstagramのアカウントから発信されたコンテンツ(いずれの企業もファンづくりの第1歩目に踏み出されたばかりで、発信した回数は2回~10回以内でした)の中から、当方が読み解いて参加企業のご担当にフィードバックした内容を見ていきましょう。
実際に発信されたコンテンツの中から読み解いた、ファンづくりの仕掛けと工夫について、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。
3.ブレないルールの規定
1点目のご紹介は「ブレないルール」の必要性です。
ご参加企業によるFacebookの2つの投稿見比べて頂き、差異点を、ご説明したのですが、1つ目の投稿には、「●●県産のぶどうにこだわる●●初のワイナリーです」という枕詞とともに、文末には投稿したご担当者の署名がありました。
もう一つの投稿は、枕詞はなく、『1月23日に通称「生産者個別ワイン」のビン詰をしました』、という書き出しから始まり、発信されたご担当の署名はありませんでした。
経営者の方や、広報・PRの方が、コンテンツの企画から撮影、投稿、コミュニケーションの窓口までを、一人称、一気通貫でご担当されるケースでは大きな問題にはならないのですが、企業の規模や役割によっては、コンテンツの制作について役割を決められていたり、中の人が複数いらっしゃるケースも、おありかと思います。
この場合、作成したアカウントから発信するコンテンツの世界観や発信するストーリーを表現する画像やテキストのメッセージについて、「投稿に関する基本的なルール」を定めておく必要があります。
共感者、ファンとの接点となるSNSのタイムラインは、言ってみれば食品クラスタの「顔」と言って過言ではありません。
食品クラスタを代表し、自社のブランドや商品の魅力を発信するアカウントは、オリジナルのコンセプトによって規定される「提供価値」を発信し続けるチャネルとして、どのコンテンツ(投稿)をご覧頂いたとしても、その世界観やテーマをご理解いただけるよう、コンテンツの内容や表現との間の整合を取ることが求められると、ご説明いたしました。
4.中の人の切り分け
2点目のご紹介は、「個人と企業」のアカウントを切り分けることです。ご参加企業の経営者が個人アカウントで発信した自社のブランドや商品に関する投稿と、経営者が企業アカウントから発信した投稿を見比べて頂き、ご説明いたしました。
1点目のご説明と重複してしまうところがありますが、共感型マーケティングで重要な視点が、当アカウントから発信される「提供価値の内容」や、「世界観」をブラすことなく、一貫性を保つことが、情報の受け手の理解を助け、共感を得やすくするコツだと考えています。
私が中の人問題と呼んでいる事象は例えば以下のようなブレです。
このようなブレがあると、情報を受け取る側の想定と、発信されるテーマやコンテンツとの間に乖離が発生しやすくなり、アカウントが発信するテーマやコンテンツに対する共感度が一気に低下してしまう(具体的にはフォローを止める)懸念があります。
アカウントに持たせる世界観(テーマやストーリー)と発信する内容のブレを未然に抑止するための対処策として、研究会では以下のアクションを推奨いたしました。
食品クラスタのアカウント(顔)は、「自社のブランドや商品の提供価値を発信し続けるためにある」という世界観をブラさないことが、フォローをしてくださった共感者の期待やニーズに応える基本姿勢であり原理原則なのではないかと考えています。
また、タグ付けする「#」ハッシュタグと発信内容の整合も必要になります。検索に用いた「#」ハッシュタグと、手繰り寄せた投稿内容が不一致になっていた場合、「あれ?」、「なんか違うかも」と、共感の前に、投稿内容への興味自体が失われる等、逆効果に働いてしまう可能性があることを、留意点としてご紹介いたしました。
4.発信時の基本的なルール
3点目の紹介は、特に中の人を務める方が複数人になる場合の発信時の基本的なルールである「トーン&マナー」の統一です。
企業アカウントの発信内容に関するトーン&マナーは4項目あります。
顔文字を一つとっても、例えば(*^_^*))といったポピュラーなものと、珍しい記号を組み合わせた複雑なものでは、投稿されたコンテンツが発する雰囲気が変わってきます。
トーン&マナーの4項目は、いずれも、オリジナルのコンセプトで定めた「誰に」が明確になっていれば、おのずと規定されるものです。
共感してくださるお客様であり、自社のブランドや商品についてご案内をしたいターゲット像をあまりに広く設定しまったり、明確に定義ができていない場合、様々な年齢層で多様な価値観を持つ方が対象になってしまう結果、例えば、くだけた表現を好まない方へ、カジュアルな投稿が届いてしまい、共感度を低めてしまう恐れがあります。
オリジナルのコンセプトを規定する過程で、どのような課題を持ち、効用を求めている生活者をターゲットに据えるのかを、明確にした上で、主たるターゲットのライフスタイルや価値観、共感してくださる方の顔を思い浮かべ、発信時の基本的なルールを定めておくことの必要性を、ご紹介いたしました。
5.「#」の活用
4点目のご紹介は、「#」ハッシュタグの工夫です。共感型マーケティングにおける「#」の効用は、第1に情報を検索される方が「#」を用いて、情報を手繰り寄せる際に、自社のコンテンツが表示され、興味や関心を持ってもらう「到達量(インプレッション)」を高める効用です。
もう一つが、ブランド名や商品名に加え、商品の特徴を表すテーマやストーリーといった食品クラスタの提供価値をテキストに換えた「#」を共感者がご自身の投稿内容に添えて発信してくださるという「応援量」を高める効用です。
研究会の参加企業の事例では、「#」に、屋号名やブランド名、商品名、所在する地域を付与して発信されている事例が多かったのですが、このような「#」の付け方を、私は「自己軸の#」と呼んでおります。
共感型マーケティングで採り入れたい「#」の付与は「顧客軸の#」です。
共感頂きたいと考えるターゲットのライフスタイル、価値感や、解決したい課題、商品に対して期待する価値や効用を「#」ハッシュタグに換えて、自社の提供価値を表す方法です。
研究会に参加された事業者の事例で申し上げると、「温活朝食のご提案」という発信コンセプトに基づき、アカウントの提供価値を表す「#」ハッシュタグとして、「#温活朝食」や、「#温活女子」、「#温活ごはん」といっう「#」をご提案いたしました。
主たるターゲットに対し、手間入らずで、朝の慌ただしい時間であっても、朝食を摂って、身体を内側から温めることを提案するアカウントである、という世界観を表現する「#」は、「顧客軸の#」であり、共感者が起点となった共有による情報伝播を期待することができるためです。
6.共感を引き出す投稿の特徴
5点目のご紹介は「共感量」が多い投稿の特徴です。研究会に参加されている食品クラスタが実際に投稿したコンテンツを拝見し、共感量を表す、「いいね!」や、「コメント」や「返信」という、一段進んだ感想や気持ちの表明、そして、Facebookにおける「シェア」やTwitterの「リツイート」といった、共有の起点となったアクションの回数が多いコンテンツの特徴を読み解くと3つに分類することができました。
一つ目は、ビジュアルの活用です。本noteでは、「シズる感」という表現でご紹介していますが、特に食品クラスタの場合、湯気が立ち上るような雰囲気を持つ写真や、まるでその場にいると錯覚するような目線(視点)で撮影され、構図が特徴的で、人の目に留まるビジュアルで訴求されている投稿には、人の心を動かす力があり、ポジティブな意思が示される回数が多いことがわかりました。
二つ目は、バックグラウンドです。老舗として重ねてきた歴史、どこにもない志やこだわりは商品に魅力を付加する固有のストーリーであり、特に「誕生秘話」や、創業者が苦労を乗り越えた経験談、お客様からの感謝の声などは鉄板だということがわかりました。商品が生まれた背景、歴史を積み重ねてきた経緯などのエピソードは人の心に響きやすいものです。
三つ目は、疑似体験です。例えば、ワインを取り扱う食品クラスタの場合、作付けや収穫の体験、オリジナルのラベルを作成し、自分だけのワインを作る、という現地に行かない限り体験できないイベントの投稿に対する反応が良いことがわかりました。
店頭に並べらた商品やラベルから得られる情報量は限られたものですが、普段は目にすることがないブランドや商品にまつわるバッググラウンドや商品がお手元に届くまでのストーリーを疑似体験するコンテンツには、商品自体の興味や関心を高める力あるということを、ご紹介させていただきました。
第7章(5)実例から見えるファンづくりの仕掛けと工夫、では共感型マーケティングの活用コンセプトを起点として、ファンづくりの第1歩を踏み出した食品クラスタが発信したコンテンツの中から、共感を喚起するコンテンツの特徴を読み取り、今後、情報発信に取り組まれる皆様へお採り入れ頂きたい工夫や留意点を共有させていただきました。
次章は、本noteの最終回になります。中小企業、小規模事業者、食品クラスタの皆様にとって、事業機会と言える、工夫次第で情報を届けられる時代の
共感型マーケティングについて、総まとめをさせていただくともに「最初のファンを1人作る」第1歩を踏み出す皆様へのメッセージをお届けしたいと思います。
ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。
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