幼児の吃音は本当に吃音なのか?実は吃音症だけではないかも?
幼児期の言葉の問題として,発達性吃音(developmental stuttering)があります。
この発達性吃音については,多くの方々が説明されており、その記事が大変参考になると思います。
本記事では,吃音だけに焦点を当てるのではなく,他の疾患が隠れているかもしれない?という臨床的な視点について説明します。
吃音症には他の診断が併存することは多くの研究から示唆されています(Blood & Seider, 1981; Blood et al., 2003; Arndt & Healey, 2001; Riley & Riley, 2000; Schlanger & Gottsleben, 1957)。
アメリカの米国疾病管理予防センター(CDC)が行うアメリカ国民健康インタビュー調査では幼児(3~5歳)1万2千人中,吃音のある子どもは344人いました。そのうち,知的障害0.5%,限局性学習症15.3%,注意欠如・多動症10.5%,自閉スペクトラム症4%,その他の神経発達症18.6%という併存率が報告されています(Briley & Ellis Jr, 2018)。
日本における調査では,吃音児に併存していた他の問題として,神経発達症58%,構音障害17%,言語発達遅滞16%と報告されています(斉藤,2014)。
その他にも併存している,または鑑別が難しい疾患もあります。
音韻障害(Difficulty of phonological awareness)の併存が多いことは,学齢期の吃音児も含めた研究から報告されています(Blood et al., 2003; Ntourou et al., 2011)。音韻障害や言語発達に問題がある場合は,学齢期になるまで吃音が続きやすい可能性があるため,個別に評価して対応する必要があります(Paden et al., 1999)。
早口言語症(Cluttering)は,幼児期に診断することは難しく,多くは10歳頃から鑑別診断が可能となります。吃音中核症状とは異なり,流暢性の問題が目立ち,発話速度が速いか不規則に速くなる衝動的な話し方が特徴です(van Zaalen & Reichel, 2015)。また,早口になると,「何を言っているのかわからない」ことがあるほか,症状に対する自覚が少ないなど,吃音とは異なる様相を示しますが,吃音と併存して生じることが多いです。
場面緘黙症(Selective mutism)は家庭では普通に話すことができても,幼稚園などではほとんど発話がないなどの症状があります。吃音では,他人に指摘されるなどのために寡黙になることがあります。場面緘黙症に関与する要因の主なもの不安障害(社交不安障害)と考えられていますが,それ以外にも言語障害や発達遅滞,自閉スペクトラム傾向などが関与していないかを検討する必要があります(高木,2018)。
チック(Tic)は,吃音の随伴運動と誤診されることがあります。吃音の随伴運動は,何かしらの反動をつけて「とにかく言葉を出そう」とするための動作ですが,チックの場合では発話と関係ないタイミングで動作が生じます。
ダウン症(Down syndrome)では,吃音症状(少なくとも15%以上)を示すことが多く報告されています(Schubert, 1966; Preus, 1973; Van Borsel & Tetnowski, 2007)。吃音はある程度の言語発達が見られてから発症するので,知的発達遅滞ないし障害に伴って発話の発達にも遅れがあると,発吃は学齢期以降になることがあります。
このように,吃音症には他の障害が併存する場合が少なくないことが分かります。
その理由についは,何らかの神経発達症や慢性疾患(糖尿病・ぜんそく等)があると,情緒反応の抑制や欲求の我慢などの実行機能に影響が出ることが多く,それによって吃音症状が出やすくなるという仮説もあります(Choo et al., 2020)。
つまり,吃音児に他の障害が併発しやすいのではなく,併存する別の問題が吃音の症状を引き起こしやすくし,吃音が自然に消えづらくなる可能性があると考えることができます。
吃音症状に対して適切なアプローチを行うためにも,併存する可能性のある神経発達症などの評価も合わせて行うことを推奨します。
当施設では,言語聴覚士だけでなく,心理師や作業療法士,理学療法士の評価も行い,吃音症のみならず,お子様の発達全般のサポートを提供しています。
また,吃音症に対して,言語聴覚士によるリッカムプログラムをはじめとして,お子さんに合わせて様々な選択肢をご提示しています。
ご興味のある方は,以下のURLからお問い合わせください。
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