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ラドゥ・ジュデ&クリスティアン・フェレンツ=フラッツ『Eight Postcards From Utopia』チャウシェスク以降のテレビCMから社会を垣間見る

ラドゥ・ジュデは最新ドキュメンタリーを2本、ロカルノ映画祭2024に出品した。本作品はその片割れであり、哲学者クリスティアン・フェレンツ=フラッツと共に作り上げた、チャウシェスク政権崩壊後のルーマニアで放映されたテレビCMを8つのジャンルに章分けして分類した映像論文のような作品である。日本のCMに慣れた人間から見ると海外のCMは結構宣伝物と関係ない部分でドギツいものも多いという印象だが(大学時代に海外のCMを研究する授業があった)、本作品ではそのドギツさに加えて、CMの断片を繋いでいるのでそもそも宣伝物がなんなのかも分からないCMも多かった。冒頭の"ルーマニア人の歴史"の章では、チャウシェスクが演説を行う党大会の会場で携帯を鳴らし、"自由に話せる権利は得たから今度は無料で話せるぞ"と謳う携帯電話の広告があって、これ放映して良かったんか?と思うなど。上記の授業にて、フランスの洗剤?のCMで画面端にペイント服のヌード女性をサブリミナル的に紛れ込ませたことで売上が爆上がりした的な話を教えてもらったが、本作品にも明らかに性的なイメージを持つ広告が多かった。男が登場すると男同士のじゃれ合い、筋肉、スポーツ、車、億万長者、美しい妻と子供との豊かな生活!という感じ、女が登場すればチョコを舐める、足を組み替える、尻を突き出すなどの性的なイメージが多く、結局はどちらが出ても男向けという印象。というか、そういう価値観を刷り込もうとしている感じすらある。また、中盤で銀行マンが"私たちは皆、お客様の資産を増やすために努力しています"という台詞を訂正され続ける長回しシーンがあった。これは広告ではなく撮影風景なんだろう。よく考えてみると長編一作目『The Happiest Girl in the World』が広告撮影の話だったし、『Uppercase Print』はチャウシェスク時代の社会主義ユートピア的広告と現実を照らし合わせるような作品だったし、『世界の終わりにはあまり期待しないで』は当事者性を奪い続けるグローバル企業の安全講習ビデオの撮影風景を描いていたので、このシーンもその系譜にあるし、興味のあるポイントは一貫している。また、社会主義政権崩壊以後のテレビCMということで、ペプシ/シェル/P&Gといった西欧企業のCMもかなり多く、どこもローカライズしてかなり攻めた広告出してた。

・作品データ

原題:Opt ilustrate din lumea ideală
上映時間:71分
監督:Radu Jude, Christian Ferencz-Flatz
製作:2024年(ルーマニア)

・評価:80点

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