グザヴィエ・ボーヴォワ『Drift Away』刑事、アルバトロス号で己と向き合う
2021年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。本作品はノルマンディの小さな街に暮らす警察官ローランの日常生活を描いている。ウェディング写真を撮ってる横に死体が降ってくる冒頭から、『プティ・カンカン』でも始まるのかと思いきや、"これはただの自殺ですね"として一瞬にして解決する。その後も酒場での喧嘩仲裁、海岸での不発弾処理など関連のない挿話が並べられていく。ローランには軽口を叩けるような仲の良い同僚がいて、長年連れ添ったパートナーと遂に結婚しようという話になり、細やかながら幸せな人生を歩んでいた。そんな中、牧場関連のトラブル(政府の飼育頭数規制?)を抱えていた農夫ジュリアンが猟銃を持って自殺騒ぎを起こし、ローランは誤って彼を殺してしまう。ボーヴォワのその他の作品と同じく、日常生活の積み重ねの先に大きな事件が起こるというもので、実際に前半1時間はローランの生活に寄り添う"身体慣らし"のような時間が設けてある。そして、目の前でジュリアンが死んでも、時間は無情にも淡々と過ぎていく様が提示される。そして、塞ぎ込んだローランは、祖父と同じように海へと駆り出し、静かな空間で己と向き合っていく。とはいえ、全体的に鋭利さに欠いて間延びした感じは拭えず。映画祭でよく見かけるタイプの作品だなあと(各所で"数合わせ"などとバカにされているが、そこまで悪い作品ではないと思う)。
・作品データ
原題:Albatros
上映時間:115分
監督:Xavier Beauvois
製作:2021年(フランス)
・評価:60点
・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
1. ラドゥ・ジュデ『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』コロナ、歴史、男女、教育
2. ベタシュ・サナイハ&マリヤム・モガッダム『白い牛のバラッド』これも全て"神のご意思"か
3. アロンソ・ルイスパラシオス『コップ・ムービー』メキシコシティの警察官についての物語
4. グザヴィエ・ボーヴォワ『Drift Away』刑事、アルバトロス号で己と向き合う
5. ドミニク・グラフ『さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について』戦間期ドイツを文化的側面から観察してみた
6. フリーガウフ・ベネデク『Forest: I See You Everywhere』明けない夜、変えられない出来事
7. マリア・シュラーダー『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』ガール・ミーツ・アンドロイドボーイ
8. ホン・サンス『イントロダクション』ヨンホとジュウォンのある瞬間
9. ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ『メモリー・ボックス』レバノンと母娘を結ぶタイムカプセル
10. マリア・シュペト『Mr. Bachmann and His Class』ぼくたちのバッハマン先生
11. ナジ・デーネシュ『Natural Light』ハンガリー、衝突なき行軍のもたらす静かな暴力性
12. ダニエル・ブリュール『Next Door』ベルリン、バーで出会ったメフィストフェレス
13. セリーヌ・シアマ『秘密の森の、その向こう』一つの家二つの時間、小さなお母さんと私
14. アレクサンドレ・コベリゼ『見上げた空に何が見える?』ジョージア、目を開けて観る夢とエニェディ的奇跡
15. 濱口竜介『偶然と想像』偶然の先の想像を選び取ること
★エンカウンターズ部門選出作品
1. Samaher Alqadi『As I Want』エジプト、"Cairo 678"の裏側
2. Andreas Fontana『Azor』レネ・キーズはどこへ消えた?
4. ユリアン・ラードルマイヤー『Bloodsuckers』もし資本主義者が本当に吸血鬼だったら
6. Silvan & Ramon Zürcher『The Girl and the Spider』深い断絶と視線の連なり
7. Jacqueline Lentzou『Moon, 66 Questions』ギリシャ、女教皇と力と世界
8. ファーン・シルヴァ『ロック・ボトム・ライザー』ハワイ、天文台を巡るエッセイ
9. ダーシャ・ネクラソワ『The Scary of Sixty-First』ラストナイト・イン・ニューヨーク
10. ドゥニ・コテ『Social Hygiene』三密を避けた屋外舞台劇
11. Lê Bảo『Taste』原始的で無機質なユートピアの創造
12. アリス・ディオップ『We』私たちの記録、私たちの記憶