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ルチアン・ピンティリエ『Sunday at Six』ルーマニア、日曜六時に会いましょう

人生ベスト。ルチアン・ピンティリエによる初長編作品。ニューウェーブを感じさせるような鮮やかかつ不気味な冒頭で、じゃれ合う若者たちを窓越しに眺める女は、隣に立つ男に"これから貴方はヨン・アンギルよ"との言葉を投げる。男はラドゥという青年で、反ファシストのレジスタンス活動を行っているらしく、指示を出した女マリアは彼の上役だった。1940年の緊迫したブカレストの街を舞台にしているが、急速な世界の変化にまるで無関心な若者たちの姿は、どこか同年代の記録のように瑞々しい。しかしそれに続く、マンション中の住人が中庭を見下ろしている横をエレベーターで降りながら視認する映像やマンションの地下へと階段を降りていく映像は不穏そのもので、これは後に何度も反復される。決して地面に何があるか、地下の道を進んだ先に何があるかは明かされず、反復される度に映像が長くなることで一層緊迫感は増していく。一体何が起こったのか?

ラドゥは他のメンバーと接触するために訪れたダンスホールで、アンカという若い女性と出会う。互いに一目惚れした二人は、ラドゥがレジスタンス活動をしない日にデートを重ねる。避難訓練を横目に田舎でデートする光景は、どこか学校をサボった学生のような初々しい恋模様で、線路の上を歩きながら"このまま海へ行こうよ"と言ってみたり、テニスコート横で点数カウントを聞きながら英語遊びをしてみたり、遂には愛も深まって擬似的な結婚式をするまでに至る。しかし、ラドゥが失念していたっぽい"他のメンバー"とは他ならぬアンカのことであり、二人の恋人を巻き込んだ作戦は、二人を引き裂いていく。

同時代に同時多発的に発生した各国のニューウェーブ作品のように、本作品は題材以上に撮影も瑞々しい。マリアとラドゥの会合が行われる荒野では、奥にある丘の上で牛乳をバケツで捨てる男が登場し、終盤の銃撃シーンでは荒涼とした空き地に米粒のような人間が寒々しく響き渡る銃声と共に倒れるなど、ヤンチョー・ミクローシュばりのロングショットを自在に使っている。かと思えばカメラの前で真横に向かい合う男女のアップという構図を多用し、他全てを排除した彼らだけの世界(=恋愛でありレジスタンス活動であり)を作り上げる。この緩急が凄まじく上手い。絶望的なラストではこの"真横に向かい合う構図"が破られ、世界は崩壊していく。

また、この時代の東欧映画の特徴の一つとして、共産批判としてのナチ批判という描写が挙げられる。多くの場合、後者を苛烈に行うことで、前者を透かし見るというパターンを使うが、本作品では上記の通り、若者たちの姿は同年代の記録そのものであり、透かし見るどころか直球で届くよう敢えて曖昧にしているようにも感じた。同年代でありながら、方や命を賭して国を守ろうとして、方や仲間たちとスキー旅行を楽しもうとしている。そこに重なる"全てが変わっても彼らは若いままだ、批判などするはずもない"という言葉の重み。こんな非の打ち所がない怪物じみたデビュー作…こわ。

・作品データ

原題:Duminică la ora 6
上映時間:83分
監督:Lucian Pintilie
製作:1965年(ルーマニア)

・評価:100点(オールタイムベスト)

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