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ジャック・オーディアール『エミリア・ペレス』マニータスからエミリア・ペレスへの転身

2024年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。2025年アカデミー国際長編映画賞フランス代表。ジャック・オーディアール長編10作目。同名オペラ及びボリス・ラゾン『Écoute』を原作としている。メキシコで暮らす敏腕弁護士リタは、ある日地元で恐れられているギャングのボスであるマニータスから相談を受ける。それは長年の願いとして女性になって新たな人生を生きたいというものだった。大金に動かされたリタはマニータスの手術と家族のスイス移住を手配し、彼の死を偽装することで、エミリア・ペレスという新しい人物へ生まれ変わる手助けをする。その4年後、ロンドンでエミリアに再会したリタは、彼女が子供たちに会いたがっていると聴いて再びメキシコで全員が再会することになる云々。本作品において性転換は作中の"重要なギミック"として扱われており、残忍なカルテルのボスという男性的なキャラクターから家族を大切にしカルテルに殺された人々を助けるNGOを始めるような慈愛に満ちた女性的なキャラクターへ"生まれ変わる"のである。"改心した罪人"というプロットとしても男女二元論という意味でも、そんな単純化していいものなんだろうか?(『ミセス・ダウト』と比較されるのも納得)。ミュージカル映画としても、撮影/ダンス/歌詞はなんの感情も共有されず貧弱の一言に尽きる。リタやジェシーの人物造形も薄いので内面に抱える苦悩も見えてこず、物語全体が極めて薄っぺらく見える。しかも132分間も薄っぺらいキャラが行き当たりばったりな物語の上で踊っているので、飽き飽きしてしまった。ジャック・オーディアールはやっぱり苦手だな。パヤル・カパーリヤーをフランス代表に選んどけよ。

・作品データ

原題:Emilia Pérez
上映時間:132分
監督:Jacques Audiard
製作:2024年(フランス等)

・評価:30点

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