ナタリア・ロペス・ガヤルド『Robe of Gems』メキシコ、奇妙に交わる三人の女性の物語
2022年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。カルロス・レイガダスやアマト・エスカランテといった同時代のメキシコ人監督の作品で編集を務め、夫レイガダスの『われらの時代』では彼の妻役として出演していたナタリア・ロペス・ガヤルドの初監督作品。レイガダスは本作品の共同プロデューサーとして参加しているが、どこかのタイミングで彼とは離婚したらしい(どこにも載ってないがググると元妻と出てくる)。本作品には三人の女性が登場する。一人目のイザベルは物語の主人公で、家族とともにメキシコの田舎にある母親の別荘にやってくる。その屋敷をずっと守ってきたのが二人目の女性マリアである。彼女の妹は過去に誘拐されていて、その捜索の指揮をしたのが警察官で三人目の女性ロバータだった。彼女たちの物語は何かしら交わっているが、常に会話が突然始まって突然終わるため、つまり起/結のない過程だけで紡がれるため、いつもどこか漠然としている。"彼女が…"と話している"彼女"が一体誰のことなのか、"お願いがあるんだけど…"の"お願い"とはなんなのか、全く分からないのだ。否応なしに断片で構成された田舎町の、それも久々に帰ってきた故郷の日常生活に強制的に馴染ませるような感じは興味深いが、ただ不親切なだけで、どう考えても芸術的試みが自己完結して失敗しているとしか思えない。映像や演出は明らかにレイガダスやエスカランテから受け継いでいて、欲張らずに基本を抑えていたら普通に面白そうな映画になっただろうポテンシャルを感じるので余計に残念。興味深い失敗とでも呼んでおこうか。
様々な記事で題名"宝石のローブ"の意味が分からんとキレ気味に記述されていたが、ガーディアン紙によると仏教の説話が基にあるらしい。貧乏な男の粗末な服には、裕福な友人が宝石を縫い付けていたが、男はそれに気付かず貧乏な生活をしている。つまり、自分がそんな生活をしなくてもいいはずなのに、それに気付いていないことを表している。確かに、ロバータの息子であり、金に困ったマリアが渋々協力する地元の悪童アダンやそのボスなどは、三人の物語に対して詳細に撮られている。それはキャラ付けとして理解しやすいからなのか、それとも現代メキシコの病理としての犯罪や暴力を描きたかったからなのかは不明だが、こんな生活=妹の誘拐と何年にも及ぶ捜索、金のために犯罪を手伝うという生活に重なってくる。はず。次作以降に期待。
・作品データ
原題:Manto de gemas
上映時間:118分
監督:Natalia López Gallardo
製作:2022年(アルゼンチン, メキシコ, アメリカ)
・評価:50点
・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
1 . カルラ・シモン『Alcarràs』スペイン、ある桃農家一族の肖像
2 . カミラ・アンディニ『ナナ』1960年代インドネシアにおけるシスターフッド時代劇
3 . クレール・ドゥニ『愛と激しさをもって』生まれ変わった"私たちは一緒に年を取ることはない"
6 . リティ・パン『すべては大丈夫』リティ・パンはお怒りのようです
7 . パオロ・タヴィアーニ『遺灰は語る』兄ヴィットリオ・タヴィアーニに捧ぐ物語
8 . ウルスラ・メイエ『The Line』スイス、トキシックな家族関係について
9 . ホン・サンス『小説家の映画』偶然の出会いの連なり
11 . ミカエル・アース『午前4時にパリの夜は明ける』人生の中で些細な瞬間を共有すること
12 . フランソワ・オゾン『苦い涙』ピーター・フォン・カントの苦い涙
13 . ミヒャエル・コッホ『A Piece of Sky』スイス、変質していく男と支え続ける女
14 . アンドレアス・ドレーゼン『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』ラビエ・クルナズと国家の1800日戦争
15 . リー・ルイジュン『小さき麦の花』中国、花と円形は愛のしるし
16 . ウルリヒ・ザイドル『Rimini』"父親"を拒絶し、"父親"となる歌手の兄
17 . ナタリア・ロペス・ガヤルド『Robe of Gems』メキシコ、奇妙に交わる三人の女性の物語
18 . ドゥニ・コテ『That Kind of Summer』カナダ、性欲過剰者の共同生活から何が見えるか
★エンカウンターズ部門選出作品
1 . アルノー・ドゥ・パリエール『American Journal』フランス、独り善がりなシネマエッセイ
3 . Jöns Jönsson『Axiom』ドイツ、嘘とパクリで構成された人生
4 . Syllas Tzoumerkas&Christos Passalis『The City and the City』テッサロニキとユダヤ人の暗い歴史
5 . ベルトラン・ボネロ『Coma』停止した"現在"は煉獄なのか
7 . Kivu Ruhorahoza『Father's Day』ルワンダ、"父親"を巡る三つの物語
11 . アシュリー・マッケンジー『Queens of the Qing Dynasty』カナダ、"期限切れ"の未来
13 . 三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』聾唖のボクサーの日記
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