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マグヌス・フォン・ホーン『The Girl with the Needle』デンマーク、望まぬ赤ちゃん戴きます

2024年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。2025年アカデミー国際長編映画賞デンマーク代表。マグヌス・フォン・ホーン長編三作目。一次大戦末期のコペンハーゲンにて、軍需品として制服を製造する工場で働くカオリーネは窮地に立たされていた。戦地に行った夫の行方は杳として知れず、家賃滞納で住んでいた家を追い出されてしまったのだ。それを工場長に相談すると逆に口説かれて付き合い始めるが、結局はこのボンボン社長にヤり捨てされて、妊娠した状態で解雇されてしまう。夫も終戦と共に帰宅するが、普段はスケキヨマスクをして過ごすほど戦傷で顔が変わっていた。ある日、カオリーネは公衆浴場で堕胎しようとして失敗した際に、怪しげな養子縁組業者のダグマーに出会う云々。モノクロを最大限活かしたライティングが素晴らしく、ちょっとした暗闇でもシルエットしか分からなくなるほど強烈な黒い影となり、だからといって光が目立つわけでもなく、寧ろ闇の中から何かが手招きするかのような妖しさがある。実際に、雷が落ちた瞬間に部屋の隅の暗がりにマスクを外した夫の姿を幻視するといった恐怖演出が登場していた。ちょっとゴシックホラーっぽさもある。少なくともサーカス団が登場するなど時代背景的にも同時代の映画を参考にしていると思われる(『フリークス』っぽさもある)。また、冒頭の(そして何度か登場する)人の顔に別の人の顔を投影するという演出は、生きることへの苦しみを抱える人々がグロテスクに重なり合っているようにも見え、非常に気味の悪い演出だった。それに加えて、赤ちゃんの泣き声などのサウンド面も素晴らしく、いつまでも悲鳴が耳に残る。主演のヴィック・カルメン・ゾンネの声も存在感がある。というように、演出や小さな要素は素晴らしいのだが、全体的に見てみるとシーンごとの繋がりが悪く、単に観客を不快にさせたいだけのようにも見えて、何がしたいのか分からない映画だった。お金のためってのも動機の一つだ、と監督は上映後に言っていたが、作中にそこまでお金に執着する描写はなかったような…?(一瞬だけ寝落ちしたとこにあったのかも)。それでも、前作『スウェット』より全然マシになってるので、今後も頑張ってほしい監督の一人です。

・作品データ

原題:The Girl with the Needle
上映時間:115分
監督:Magnus von Horn
製作:2024年(デンマーク他)

・評価:60点

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