マガジンのカバー画像

メヒコ暮らしの話をします

41
エネルギーに溢れていて、どこか危ういけれど、惹きつけられてしまう。メキシコはそんな国です。
運営しているクリエイター

#子どもの成長記録

言葉を贈り合う

言葉を贈り合う

週末の朝。
洗面所でピアスをつけていると、鏡の右端にぴょこんと小さな黒髪の頭が映り込んだ。くりくりとしたふたつの目と鏡越しに視線がぶつかると、”にーっ”と笑って言う。

「おかあさんのピアス、めっちゃ可愛くてとっても似合ってる!」

そぅお?ありがとう。照れ隠しに答えるわたしの言葉を終わりまで聞かずに、黒髪頭は鏡から消え、パタパタとどこかへ走り去っていった。

誰かに褒めてもらうこと。

それって

もっとみる
太陽のようなハグをくれる先生

太陽のようなハグをくれる先生

娘が通う幼稚園まで、車で10分。通園バスがないので、毎朝同じ道をかれこれ1年半送り迎えに通い続けている。緩い坂道をのぼり、角を曲がって園舎の正面まで来ると、職員さんが近づいてきて車のドアを開ける。

何度繰り返しても、この瞬間が苦手だ。

通い始めて1年半が経とうという今でも、ドキドキしながら、職員さんに手を引かれ歩いていく小さな背中をじっと目で追ってしまう。

そんなとき、幼稚園の入口で周りが振

もっとみる
【写真エッセイ】この色彩のなかで

【写真エッセイ】この色彩のなかで

メキシコで暮らしていると、ときおりはっとするほど美しい色彩に出会う。

そしてそのたびに思うのだ。3歳の娘の小さな瞳に今この景色はどんなふうに映っているのだろう、と。



旅が得意なわけじゃない。とりわけ「街歩き」がメインの旅は、ベビーカーに不向きながたがたの石畳に、子どもが食べづらい伝統料理のレストランばかりで、正直言って楽しさよりもまず疲れを感じてしまう。

それでも、ホテルのプールで遊ぶ

もっとみる
だから、もう少しここにいたい

だから、もう少しここにいたい

娘が通うメキシコ幼稚園の先生と話していると、こちらの視界がぱっと開けるような感覚を味わうことが度々ある。

正解のない日々の子育てのなかで、迷い悩んで足元がぐらりと揺らぎかけたとき、背中を「ぽんっ」と叩いてくれる。

ついこの間も、わたしはそんな彼女らにまた一つ救ってもらった。



バレエ教室の入り口で

娘が通う幼稚園の園庭は、狭い。都市部の園だから仕方がないけれど、日を追うごとに活発になり

もっとみる
幼稚園に伝えたい101回目のグラシアス

幼稚園に伝えたい101回目のグラシアス

もしいつかこの数年のメキシコ生活を振り返って、一番感謝を伝えたい相手は誰かと問われたら、わたしはきっと「娘の通った幼稚園の先生たち」と答えるだろう。

「ここはあなたの娘とあなた方家族にとっての、第二の家なのよ」ーーかつて先生からもらった言葉が、いまも忘れられない。あれからもうすぐ8ヶ月だ。

「グラシアス(ありがとう)」を100回言っても足りないほどの感謝を、娘の成長の記録と共に、ここに書き留め

もっとみる
「1万kmを旅する絵本」と娘の物語

「1万kmを旅する絵本」と娘の物語

リビングのはじっこ、窓辺の小さな陽だまりのなかに、娘の本棚はある。ここはわたしがこの家で一番の好きな場所だ。

本棚の前に体育座りをして、並んだ背表紙を指でなぞると、絵本1冊1冊が愉しげに語りかけてくる。絵本のなかの物語。そしてそれに出会った頃の、娘の物語を。



すこし前、今年の夏の話だ。

その日迎えの時間に幼稚園へ行くと、出てきた娘の手には、小さな白いプラスチックカップが大切そうに握られ

もっとみる