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展覧会 #28 須田悦弘@渋谷区松濤美術館

秋晴れの休日、渋谷区松濤美術館を訪れました。

1981年(昭和56年)に開館した松濤美術館は、渋谷の高級住宅地に馴染む素敵な建物。

建物の中央は地下から屋上まで大きな吹き抜けになっていて、地下には噴水があります。

1階入り口の先にある、吹き抜けを渡るブリッジから見た快晴の青空。

1階ロビーの窓から見える紅葉。

地下から2階まで繋がる螺旋階段。

各所に置かれた椅子やソファーは黒で統一されていて、かなり年季が入ったものもあります。そして、鏡がたくさんあるのが珍しいなと思いました。


今回の展覧会は、東京都内の美術館では25年ぶりとなる須田悦弘(1969年~)の個展。

普段、道端で見かけるような草花や雑草。実は本物と見紛うほどに精巧に彫られた木彫作品です。須田悦弘(1969~)は独学で木彫の技術を磨き、 朴 (ほお)の木で様々な植物の彫刻を制作してきました。須田によって生み出される植物は全て実物大で、それらを思いがけない場所にさりげなく設置することで空間と作品が一体となり、独自の世界をつくりあげています。
(中略)
今回、須田の初期作品やドローイング、近年取り組んでいる古美術品の欠損部分を木彫で補う補作の作品等をご覧いただくとともに、本展のための新作も公開します。
渋谷区立松濤美術館の建築は、「哲学の建築家」とも評される白井晟一(1905~1983)によるものです。
(中略)
ここに須田の植物を配することでどのような作品となるのか。白井建築を舞台にした須田悦弘のインスタレーション作品としてもご期待ください。

美術館HPより

須田悦弘
会期:2024年11月30日(土)〜2025年2月2日(日)

渋谷区松濤美術館
東京都渋谷区松濤2-14-14
交通アクセス(電車の場合)
京王井の頭線 神泉駅下車 徒歩5分
JR・東急電鉄・東京メトロ 渋谷駅下車 徒歩15分

須田悦弘といえば、2021年に閉館した品川の原美術館に常設展示されていたインスタレーションを思い出します。

1930年代の洋風邸宅を再生し、現代美術専門の美術館として1979年に開館した原美術館。
須田悦弘のインスタレーション作品は、おそらく元々水回りの何かがあったと思われる、壁が壊れて配管が剥き出しになった空間に赤い花が添えられているものでした。
赤い花によってその小さくて暗い廃墟のような空間が特別なものに感じる、とても印象的な作品でした。

今回の展示を観て、須田悦弘が作り出す日常的な植物の姿は、パブリックな空間でありながら個人の邸宅のような雰囲気も併せ持つ松濤美術館に違和感なく溶け込んでいて、作品と場所の相性の良さを感じました。


フロアマップを片手に、小さな作品を見逃さないように展示室を歩きます。

ひょろっとした細い茎に支えられた一輪のヒナゲシ。

道端で目にする雑草の様子がリアルに再現されていて、木彫であることを忘れてしまいます。

隙間からひょっこり顔を出すドクダミ。

朝顔の花は、薄くてしっとりした花びらの質感が伝わってくる。

2階展示室で一番美しいと思った木蓮。

枝ぶりやつぼみ、花の咲き具合を色々な角度から眺めていました。いくら見ても飽きない。

木彫も好きだけれど意外と心をつかまれたのは、パネルに描かれた木蓮の花。制作年を見ると1991~92年に描かれたものですが、この場所のために描いたのかと思うくらい壁との一体感がすごい。


須田悦弘の作品には、既存の空間に木彫作品を配置する手法と、自作の空間のなかに木彫を配置する手法があるといいます。
地下1階の展示室には、後者の手法で制作された作品が2点ありました。

こちらは卒業制作作品を再現した《朴の木》という作品。

空間を包む素材が光を含んで、内部は白い光が溢れている。
中に入って奥に配置されたプラチナ製の花を観ることができます。

こちらの《東京インスタレイシヨン》は1994年に開催した2回目の個展で、銀座の駐車場に建てた作品。

《東京インスタレイシヨン》は設計図やデザイン、駐車場で設営している写真など、当時の資料も一緒に展示されているのが良かった。


多摩美術大学在学中に制作した初めての木彫作品《スルメ》(1988年)のクオリティがすごい。


多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業後、株式会社日本デザインセンターに入社(1年で退職)したという経歴を持ち、その後も続いたパッケージデザインの仕事が紹介されていました。
「十六茶」や「シードル」、「ニッカウヰスキー」などメジャーな商品を手掛けていたのですね。


久しぶりに訪れましたが、やはり建物が素晴らしくて、居るだけでテンションが上がります。
展覧会は作品数はそれほど多くなく、ひとつずつじっくり眺めて楽しめる内容でした。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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