全部壊して、エンドロールにしてくれ。
突然襲ってきた。
いや、ゴジラではなく、
あ、ゴジラも突然襲ってくるのだが。
来たときにはすぐそこ、手の届くところまで迫ってた。
あ、ゴジラもすぐそこ、皮膚が見えるほどに迫って来るんだけど・・・
話ややこしいな。ゴジラ映画を観に行ったわたくしの話です。
始まる前、当然だが備えた。
空っぽにした。
ご承知のようにわたくしは「空(くう)」には親しい。
ぜんぜん楽勝のはずだった。
ここ数ヶ月忙しく久しぶりの映画、プレミアムシートでゆったり。
庶民の君たちは、一般席でがまんしなさい、などと悪ぶってた。
始まった。
浜辺美波が可愛い。
神木隆之介、迫力。
つまり朝ドラ『らんまん』夫婦役二人がまた出てる。撮影どっちが先だったんだろう、いや同時かな、役の切り替えどうしたんだなどとつまらぬことを考える余裕すら、あった。
ところがある瞬間、どん、と来た。
時計をスクリーンのあかりに照らして見ると(アップルウォッチではない。映画鑑賞時はふつうのやつ)、映画終了まであと45分ある。思えば、いつもは映画で時計することはないし、終了時刻を覚えていることはない。今日に限って。
そう、今日に限って。
物語が一段落した。「ここで終わろうよ。いいよこれで」と思った。とにかく早く駆け込みたいから。
ところがですねあなた。博士(Dr.コトー診療所)が言うではないですか。
「実はゴジラ撃退の作戦が水面下で進んでいるんですよ・・・」
いいって。
もうここまででいいって。
ゴジラ強いやん。
見たやん。
やられたやん。
勝てっこないやん。
Dr.コトー診療所が、作戦について説明する。この会議、長くなる?
ぜんぜん入ってこない。
わたくしはわたくしの作戦で忙しいのだ。
気を紛らす作戦。
それは、Dr.コトー診療所の作戦を批判すること。
プランに穴を発見し、「だから効果ない」と証明する。
なんてったってゴジラ、強いんだよ。
そんなこっちゃ、勝てっこないんだよ。
佐々木の蔵ちゃん、言ってやって。
それじゃあかん、映画そろそろこのへんでお開きにしようって、言ってやって。
というか、慎野万太郎博士、物語を終わらせるのが主人公の役目でしょうが。叫ぶでも何でもいいから、終わらせてよこの会議。おじゃんにして。不成立にして。
ところが、万太郎博士は意外なことに、手紙など書き始めるのである。
こうなったらもう、いまここでゴジラ出てきてくれ。それで、全部壊して、エンドロールにしてくれ。
時計を見る。まだあと30分ある。
夜寝てるときは7時間でも8時間でも行かずに済んでるやん。それを思えばたったの30分なんて、あっちゅーまだ。「あっという間」では弱いから、「あっちゅーまだ。」最後、○つける。そのほうが強い。説得力増す。
30分というのも数字が大きい。半時間・・・ではなんとなく大きくなった気がする。なんといえばいいかな・・・知らぬ間に物語は進んでいく。
ゴジラはまだ出てこない。
早く出ろよ。なにやってんだ。コンビニ寄ってんじゃねーよ。早く来いよ・・・とヘルプのアルバイト学生待つ居酒屋の店長になってる。
やばいから、デニムの前ボタン、こっそり外した。これで少しは緊張がゆるむ。
プレミアムシートにしておいて、良かった。
あ。いかん!! 「ゆるむ」と、油断して、出てしまうかもしれない。いま出たら、「右と左へ泣きわかれ〜」で、悲惨なことになる。画面の惨状なんて、まだマシなくらいの。
ようやくエンドロールになった。
ここであわてて立ったら周囲の皆さんの迷惑だ。
高校の同級生の顔と名前を一人ずつ思い出そう・・・・誰一人、浮かばん!
中学は・・・浮かばん!
大学は・・・オレ、大学行ったっけ? わからん!!
明るくなった。
こうなると、不思議なもので、なんか、ふつーになった。
ゆったり、よゆうで劇場出て、ようやく。
気づいた。
ファスナー、開けっ放しだった。
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