好きな気持ちを「じゅっとハンコ押す」
ケインズは言う。
「経済学は、本質的にモラル・サイエンスであって自然科学ではありません。すなわち経済学は内省と価値判断を用いるのです」
経済学はそうだと思う。いまのアメリカン資本主義が人間を幸せにせず、環境破壊、戦争、分断、格差を生み出したように、何が欠けているかというと内省と価値判断だ。
では、ビジネス(商い)はどうか。
ぼくははっきりと、「自然科学」として取り組んでいる。
自分の大事なお金を投資するのだもの、リターンが見込めない行動は取らない。もちろん、予測不能だが、とはいえ、可能な限り再現性を求めてきた。
だから理論もどんどん更新していく。
たとえば、ブランド論。
本も何冊か出してるが、「若気の至り」がある。
ふわふわしてる。
いまのぼくは、ロゴにせよ、パッケージにせよ、プライシングにせよ、ネーミングにせよ、「いくら稼ぐか」の視点でデザインする。
投資とリターンは、ブランドにもいえる。
日本橋三越が、レジ袋、紙袋の全面無料化に踏み切ったという。
これはブランド論からすればきわめて論理的な結論だ。
買った弁当を安っぽいビニール袋にぶら下げ、三越の玄関を出入りされたのでは「三越」ブランドが傷つく。
すべての行動は「ブランドの稼ぐ力を高めるか?」で計測されるべきであり、これを「ブランドIQ」または「ブランド偏差値」と呼ぶなら世の中のビジネスの多くは落第点である。
机上の空論
というのがある。
デジタルを進め、レジをセルフにし(セブンイレブンほか)、袋のいるやつはぶら下がってるのを必要な枚数自分で持ってけ(スギ薬局ほか)、「袋いりますか? 5円です」と駅弁売ってるやつまで言う始末。ハダカの弁当持って新幹線ホーム行けってか。
いやいや、そうすると、これまでうちが負担していた袋代が原価から減るじゃないですか。利益増えます。
そういうのを、机上の空論という。未来を見ようよ。いま減らした5円の原価、未来につながるか?
商品には「機能ゾーン」と「ブランドゾーン」がある。
機能ゾーン = ブランドゾーン
が理想で、その和がバリュー(価値)、そして価格だ。
機能ゾーン > ブランドゾーン
な商品はバーゲン、たとえばスーパーセールでよく売れる。
スーパーセールで売れた!!
と喜んでいる人は、自社の商品が
機能ゾーン > ブランドゾーン
であり、価格競争まっしぐらだと自覚する必要がある。
言い換えれば、ブランドへの「好き」が少ないのである。
これの極端な例がジュースの安売り自販機。
トンカチ持った男の子のイラストついてるやつね。
「本来150円のものを100円にします」
機能ゾーンだらけで、ブランドゾーンはほぼゼロ。
逆に、某著名アパレルブランドは
ブランドゾーン >> 機能ゾーン
で、アパレルであれば本来持っていなければならない
耐久性
着心地の良さ
がゼロに近い。
だからぼくは買わない。好きになれない。
さて;
商いには、「気持ち」がある。気持ちしかない。「好きな気持ち」の蓄積で、ブランドができる。
好きな気持ちを「じゅっとハンコ押す」ためには、その店のロゴの入った袋を、買い物したあとぶら下げて家まで持って帰ってもらう必要がある。その時間が「ブランド好き」な恋愛を高める。
昨日、とっても美味しい老舗和食店でお持ち帰り弁当予約していたのをもらいに行った。四の五の言わず、さっと、美しいその店の紙袋にお弁当2つ入れてくれた。これです。そのお店への「好き」な気持ちが、自宅まで歩いて帰る時間、高まり、蓄積された。
現在の商いの現場に広く見られる、デジタル化、セルフレジ化、省力化、無人化、ロボット化は機能ゾーンを広げるだけであり、本来がんばって焦点を絞るべき「好きを集める」ブランドゾーンをどんどん小さくしていっている。
それはないでしょ
というのがJOYWOWの意見だ。
なので、クライアントさん、JOYWOWの仲間たち、MAIDOメンバー、NPO法人JW-UPでは、この、行き過ぎた機能ゾーン化を元の健康的な姿へ戻そうと動いている。
次の本は「ブランドを育てる」になるかもね(笑)