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#小説
アルフォンス・ミュシャ:死季
これがミュシャか――暗殺者はそう思った。ひび割れたような肌の深い皺に、柳の枝を思わせる長い髭。藤椅子に浅く腰掛け、現世を忘れたかのごとく微睡んでいた。初代ボヘミア皇帝にして最強の魔術師、アルフォンス・ミュシャは当年とって79歳になる。
燭台が照らす暗い広間の隅で、殺し屋は肩透かしを食ったような気分で短刀を手に取った。そしてその瞬間、自分が死地の只中にあることを知った。
「解れよ」呆けたよう
ギロチナイゼーション 1582 パート2
男は空間から隔絶された部屋の中で、牢獄の様子をじっと窺っていた。白亜の部屋には時の流れもなければ距離もなく、ただ意思だけ、男の意思だけが横溢していた。ゆえに部屋は時空間の制限を受けず、主の望む方へ舵を切ることができた。部屋は男をギヨタンの幽閉された牢へと運んだ。彼がそこへ向かったのは煮えたぎるような憎悪のためだった。
「聞けギヨタンよ」男の無貌の顔に開いた口は、それ以上開きもしなければ閉じもし
ギロチナイゼーション 1582 パート1
焼け落ちんとする本能寺は炎の中で光り輝いていた。
信長はじっと畳の上に座するがまま。目前には一本の小刀が横たえられている。手勢が謀反人の軍勢に勝てぬと見るや殿中に引き返し、ここを終焉の地と決めた。その戦の音も今は遠い。彼の耳に届いてくるのは周囲を焼き焦がす火の音と、今にも押しつぶされようとする梁の軋む音だけだ。
彼が割腹した後は、燃え盛る火が介錯人の代わりとなろう。言うなれば自らの野望に
ザ・ウィッシュボーン
この世界で語られる言葉は、自らに込められた意図やその目的を、自らの意志で語り始める。
――第1の願い
第2願望期。夏。フランツの駆るバイクは打ち捨てられた廃墟の街を走っていた。辺りには霧のように濃い砂煙が舞っている。並び立つビルは水底の海藻に似て、輪郭だけがおぼろに揺れていた。
フランツは分厚いゴーグル越しに前方を睨んだ。昼間だというのに辺りは暗い。空にわだかまるねがいの分厚い層に阻まれて
ウィキ・ザ・デスペディア
1. ナジャドは追われる身だ。走り去る列車に飛び乗って追っ手を撒いたこともあれば、神父に化けて検問を突破したこともある。百戦錬磨とは言わないまでも窮地を脱するだけの才覚はいつでも持ち合わせていたし、何より彼には集合知が味方についていた。集合知とはつまり、ウィキペディアのことだ。彼は脳幹に搭載したHDDをウィキペディアと同期していて、そこから尽きせぬ泉のように情報を汲み出すことができる。
ナジャ