方舟と根絶やしザメ
ギルガメシュとエンキドゥはそれはそれは広い船の甲板を歩いていた。周りには陸地さながらに石造りの小屋が並んでいるが、これは神命を受けて作られた方舟がひとりでに増築を続けているためである。出航した始めの日には大通りが、二日目には上水路が、三日目には下水道が整えられた。事態が変化を見せたのはそれからだ。
「それで」ギルガメシュが言った。「アンフィスバエナはどうなった」
「殺られタ」エンキドゥが答えた。泥をこねて作った頭はちょうど桶をひっくり返したかのようで、その中央でモノアイが焦れったげに揺れている。「これデ最後のつがいが死に絶えタ。絶滅ダ」
二人は泉の前に差し掛かった。周囲には虎やユニコーンが集まり、水面に浮いた夥しい量の血を途方に暮れたように眺めている。ここで世にも珍しい双頭の蛇のつがいが死んだ。最早水が引いた後の地上に栄えることはない。
「無惨なことだ」ギルガメシュは哀悼の意を表した。「これでは皆が水を飲めない。エンキドゥ、毒を中和しておいてくれ」
「わかっタ。君はどうスる」
「彼に会いに行く」
そう言うとギルガメシュはそばのマンホールを開き、船内へ降りていった。梯子の先は天井や壁を配管が覆う回廊になっていて、その上をタマリンが駆け回り、あるいは燕が巣を作っている。皆滅びゆく地上から救い出された生物だ。
船内は常に変化しており、その最奥に辿り着けるのはギルガメシュだけだった。複雑な道筋を辿った先は柱が並び立つひと際大きな船室になっている。生き物の気配はない。
「ノアよ。猛き船長よ」ギルガメシュが声を張り上げた。「邪悪なサメが船に入り込み、洪水から救い出した種を絶滅させて回っている。対処を」
暗がりから山のような巨体が姿を現した。青銅のような肌。ギラギラと輝く目。触手じみて蠢く髭。
「失せろホモ・サピエンス」半神(デミ・ゴッド)種の生き残りは言った。「私に指図するな。おまえが自分でどうにかしろ」
【続く】
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