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【短編】消灯までの15分
消灯間近、二人の男女が、薄暗い院内のラウンジに置かれたソファに座っている。
コロナの感染対策で、ソファには間隔を開けて座るように促すため、一人が座るスペースごとにバツ印の張り紙が貼られており、誰もいないのだからそんなものは無視をすればいいものを、彼らは律儀に距離を保っていた。
普段であれば、煩わしく思いそうなものであるが、お互いに認識しつつも、病棟が違うために、なかなか関わることがむずかしく、
【ショートショート】秘密を愛しすぎた女
「貴方のせいでまた店を変えないといけなくなったじゃないの。サロンでも開けてくれなきゃ割に合わないわ」
少し焦げ臭い花束を、女はグランドピアノの上に投げた。
小さな顔を引き立てるグラフのピアスと胸元の開いたシルク生地のドレス、高いハイヒールは脆い心をかろうじて守っていた。
この男の正義漢ぶった瞳に逆らえないのは惚れた女の弱みなのか、はたまた、ただその瞳にいい人間として映りたかったからなのか。男の
【ショートショート】貫けないなら優しくしないで
「相談があるの」
「どうした? 珍しい」
いつもふざけたように話す彼も、真面目なトーンで答えてくれた。
「女も戦わなくちゃいけないと思う?」
「いいや」
彼は間髪入れずに答えた。意外だった。
「あたし、もう戦いたくないの」
必死に抑えた声の震えは、伝わってしまっただろうか。
「ごめんなさい。明日も舞台なのに。でも、どうしても貴方に聞きたくて」
「いいよ。どうせ家で寂しく飲んでるだ