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『Aavesham』
監督:Jithu Madhavan
出演:Fahadh Faasil、Hipzster、Mithun Jai Shankar、Roshan Shanavas、Sajin Gopu など
公開:2024/4/11
2~3億ルピーの制作費に対して、15億ルピーの興行収入をあげているマラヤラム映画。
しかし、トレーラーを見ても派手な演出があるわけではなく、何がウケているのかがよく分からなかったので、実際に観てきた。
なお、公開から1か月以上が経っているが、劇場はほぼ満席だった。
前半のあらすじ
航空工学を学びにバンガロールまでやって来たケララ出身の大学生3人組Bibi、Aju、Shanthan。暴力的な上級生Kuttyに目を付けられ、「かわいがり」を受ける。復讐を誓った彼らは夜な夜なローカル酒場に繰り出して強力な後ろ盾を探す。そこで最終的に知り合ったのが、真っ白な服装に金の装飾品を全身にまとった不思議な男Ranga。彼は酒場の荒くれ者たちを統率する手腕を見せ、忠臣のAmbaanがRangaの武勇伝をたくさん語るも、どことなく胡散臭い。
Rangaは3人組をとても気に入り、毎晩のように電話で呼び出して酒盛りをする。そしてついにはホステル暮らしをする彼らに家をあてがい、大量のたばこやビールを与える。3人組がRangaに近づいたのはあくまでもKuttyへの復讐のため。親交が深まったころ、「大学に乱暴者がいて酷い目にあった」という話をRangaの前でさりげなくする。するとそれに激怒したRangaは、ホーリーの日に大学構内で衆人環視の中、Kutty一味をボコボコにする。
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観る前は本当に面白いのかと懐疑的だったが、これがめちゃくちゃ面白い。
そして、Fahadh Faasilが良い役をしている。
主演のFahadhはケララ出身の有名俳優。
活躍の場はマラヤラム映画がほとんどだが、タミル映画にも一部出演している。
2022年に公開されたタミル映画『Vikram』ではKamal HassanやVijay Sethupathiらと共演し、癖の強い2人に負けない存在感を放って、見事な三つ巴を演じた。
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Fahadhがマラヤラム映画界でどのようなポジションにいるかは分からないが、女性ファンが多いんじゃないかと思う。
南インドのアクション映画はいつも野太い歓声が飛び交うが、今日は観客から黄色い声も多く聞こえた。
Rangaの登場シーンが最高だった。
復讐のための強力な後ろ盾を探してローカルバーを開拓していく3人。咥えたばこをしながらトイレで用を足している時に、後ろからマラヤラム語で「火を貸してくれないか」と声をかけられる。Bibiが「しょんべんが終わってからでいいだろ」と邪険に言い返し、「わかったわかった」と答えが返ってきたその直後、Fahadh演じるRangaがBibiの前にグイっと顔を突き出してシガーキスする。
劇場内に響く黄色い歓声。
南インドのアクション映画では、主人公の登場シーンが凝った演出になっていることが多いが、この登場の仕方は映画史上屈指だと思う。
この演出を考えた人を抱きしめたい。
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Fahadhが演じたギャングのRangaは捉えどころのない人物。
剽軽なのだが、どうも目が笑っていない。
パーティー大好きで人懐こいが、他人との距離の詰め方がおかしい。
Rangaの忠臣AmbaanはRangaの過去をよく語るが、実際に自分が見たわけではなく真偽のほどは怪しい。
かつてお金のことで親族と揉めて、従兄を殺害し、自宅のキッチンに死体を埋めたというエピソードとか。
さて、前半の終盤、Ranga一行は乱暴者上級生Kuttyを成敗するのだが、Rangaは指示を出すだけで自身は全く手を出さない。
以降の乱闘でもRangaは相手に手を触れることすらしないが、実はこれには理由がある。
過去に従兄を殺めた際、母親に二度と手を血で汚さないと約束したからだ。
しかし、Rangaがギャングであることを嫌った母親は彼を捨てて家を出て行ってしまい、このことが彼の心にぽっかりと大きな穴を作っている。
この母親を強く慕う気持ちが、結果的にこの映画をハッピーエンドに導くことになる。
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後半のあらすじ
Rangaとつるむようになってから、学業に支障が出た3人組は危うく落第しそうになる。再試験のチャンスをもらうが、Rangaの元ボスReddyに誘拐されるという新たなトラブルに巻き込まれる。ReddyはRangaを憎んでいて、大学生たちに彼の居場所をリークするように脅す。当初の目的だったKuttyへの復讐も果たしたことだし、学生らがRangaと少し距離を置くことを告げようと彼の根城に行くと、2人の手下が何らかの罪でRangaに殺されかけているところだった。それとほぼ同時期に、3人は自分たちにあてがわれた家のキッチンで、死体が埋められている痕跡を発見する。恐怖を抱いた彼らはRangaに黙って家を出て、友達のホステルに身を寄せる。可愛がっていた3人が姿を消したことに気付いたRangaは感情的になって彼らを探しまわる。それを知った3人はRangaに直接会って関係を断ちたいと伝えるが、裏切られたと感じたRangaは彼らを殺そうとする。殺される前に殺すしかないと悟った学生たちはReddyに電話して、ReddyとRangaを対戦させるように仕向ける。自身の命の危機の中で、もう暴力を振るわないという誓いを破ったRangaは超人的なパワーでReddy一味を殲滅する。そして次は、学生たちを殺そうとするのだが……。
以下、ネタバレ含みで。
襲撃に来たReddy一行を一人で壊滅させたRanga。
次は、自身を裏切った大学生3人組を殺害するために、家の中に隠れている彼らを探し回る。
その際、「俺には本当の友達がいないんだ!近づいて来るやつらは、みんな金や力目当てなんだ!」と心情を吐露する。
Rangaが3人組に家やたばこやビールで破格のもてなしをしたのも、本当の友達ができたと思って喜んでいたからだったのだ。
身をひそめながらRangaの悲痛な叫びを聞いたShanthanは、思わず「Sorry!」とソファの陰から飛び出してしまう。
しかし、興奮状態のRangaが許すわけもなく3人に襲い掛かり、3人は小部屋に立てこもる。
Rangaが手斧でドアを破壊しようとしていると、彼の足元に落ちていたBibiの携帯から着信音が鳴る。相手はBibiの母親。
母親に捨てられたトラウマがあるRangaはそれを無視することができずに、電話に応える。
Bibiの母親「もしもし。Bibi?ちがうわね、あなたは誰?あぁ、Rangaさんね(RangaとBibiの母親は電話をしたことがある)。あなたはHapppyかしら?BibiもHappy?」
これをきっかけにRangaの心がほぐれていき、最終的に3人を許すことにするのだ。
これにてハッピーエンド。
あと、小噺だけど、Bibiの着信音が『K.G.F』の音楽なのが良かった。
前面に押し出されている訳ではないけど、この映画も他の南インドの映画同様に、「母の愛」みたいなのが一つのテーマになっているような気がする。
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ギャングを演じるFahadhの演技も素晴らしいが、この映画は他の出演者のキャラも立っている。
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Rangaを心の底から慕っている忠臣Ambaan。
いつもRangaのそばにいるお調子者。
Rangaが「俺には本当の友達がいないんだ!」と叫ぶのを聞いて、「俺は友達だと思われていないんだ……」と悲しそうな顔をする。
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運転手や雑用を務めるおじいちゃん。
実はカンフーの達人という漫画みたいなキャラクター。
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名前の通り、香港映画のようなアクロバティックな演技を披露する2人組。
ギャング映画なので暴力シーンは多いが、派手な血しぶきとか、首や手足が飛んだりするシーンはなくて、タミルなどで好まれるアクション映画と比べるとマイルドだった印象。
血なまぐさいのが苦手な人でも楽しめると思う。
また、この映画はアクションコメディーということだが、コテコテのコメディシーンもあれば、シュールだったりひねりのきいたりした笑いもあった。
日本人にもけっこうウケると思ったので、日本での公開を期待したいところ。
この監督、情報が少なかったのでなんとも言えないけど、今後もこのテイストを続ければ、Lokeshみたいな人気監督になりそう。
一応この映画は完結していたけど、Rangaの活躍はまた見たいと思うし、ユニバース化を希望。